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3話 マツリとシオリー01

「次は……」

「いやちょっと待ってくれ」

思わず僕は止めていた。彼女の話は、よく整頓されていて、聞くのにそれほどの苦痛は強いられないのだけれど、いかんせん長すぎる。放っておいたら明日の朝までも喋りかねないように思う。

「むぅ。何だい? せっかくノって来た所だったのにさ。」

ノッて来た所悪いが、ここで無理やりにでも中断させてもらおう。最初の方で忠告されたように、下手をすると寝てしまいかねない。それは彼女に言われるまでもなく、余りにも失礼な話である。

「君の話はとても為になるんだけどね、これ以上一度に喋ってもらっても、きっと情報を整理し切れないだろうから」

「整理するという表現は適切じゃないんじゃないかい? 思い出す、というのが普通だと思うけれどね。この国に産まれた人間として、知らない方がおかしい情報ばかりなのだから」

そんな風に言われても、知らないものは知らないのだ。

否、そんな風に言われても、思い出せないものは思い出せないのだ。

そもそも、本当に知らないという可能性だってある。

何故なら僕は今……ほとんどの記憶が何故か無いのだから。

彼女を信用してもいいのだろうか? この栞という女の子が、僕の記憶を操作したという可能性も考えられなくはない。下世話な考えだと自分でも辟易するが。そもそも彼女が僕にこれだけ親切にしてくれる理由からして分からない。分からないから、気持ち悪いのだ。

「ん? どうかしたのかい? 茉莉君。どうやら本当に寝てしまいそうに見えるから、とりあえず体を動かそうか。【此処】の案内もしなくちゃならないし、歩きながら続きは話せばいい」

だから何故案内などしてくれるのだろう? そこの所がはっきりしないと、僕としては酷く座りが悪いのだけれど。それを気軽に聞けるような雰囲気でも、女性でも、人間でもないのが実に困った問題である。

「……それならお願いするよ、栞」

僕がそう言って歩き出そうとすると、どうしてか彼女はその場を動こうとしなかった。

「あれ? どうかしたの? 栞。あ、もしかして漢字の読み方が間違ってた?」

「読み方は有っているよ。ただ少しびっくりしただけだ。名前を呼び捨てされる事に余り慣れていなかったから」

「……ふぅん。それじゃあどういう風に普段呼ばれているんだ?」

「…………。ああ、いや、表現が適切では無かったかもしれない。確かに私の事を呼びつけにする人間もいるけれど……まぁいいか」

「よくないよ?! 余りにも中途半端すぎる!!」

思わず突っ込んでしまった。というか思わず自分の素の部分を出してしまった。ここ数日はこれでも気をつけていたんだけど。もしこれも彼女の作戦なのだとしたら、本当に大したものだ。いやいや、それはさすがに穿ちすぎというものだろうか。

「久しぶりに名前を呼ばれた気がしたんだ」

「……ふぅん?」

自分でもまぬけな返答になっていたように思う。余りにも予想外の返答だったから。もちろんその返答について深く考えるなんて事もしなかった。

「あとはまぁそうだな、「栞ちゃん」とか、呼ばれているね」

「君が!!?」

「心外だなぁ。呼ばれていたっていいだろう。……まぁ今のは軽い冗談だけど。さぁそろそろ行こうか、案内しよう」

そう言って、栞は僕の横を通り抜け、入り口のドアをガラリと開いた。

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