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19話 シオリ

「ふん。途中いろいろあったが、これで全員だな」

と、しおりが斜め上を見ながら言った。どこを見ているのだろう。僕も釣られてそちらを見るが特に何も無かった。栞には何かが見えているのだろうか。或いは何も見ていないのかもしれない。

「で、どうだった?」

ふいに振り向いて言った。

変わらない表情で、変わらない口調で、かと言って感情が無い訳でも押し殺している訳でもない。少なくともそのように見える――そんな栞の挙動を見ていると、何故か不思議と落ち着く自分がいた。

「どう、とは?」

「……たまにね、いちいち主語を言うのがめんどくさくなる時があるんだよ」

僕が聞き返すと、栞は僕の目にすいと視線を合わせて返事をする。生気があるような無いような、透明感のある瞳だった。

「それが今?」

栞は目だけで頷くと、僕の言葉の続きを待った。

「……そうだな、変な……不思議な人たちばかりだった。一言で言えば」

「わざわざ言い直さなくても構わないさ。その言葉に対して怒るような人間なんて誰も――いや、一人いるか――基本的にはいないよ」

南風ミナカゼ?」

何となく、その一人について思った事を言ってみた。

栞は一度目を伏せ、少し唇の端を上げながら、「どうだろうね」と呟いた。そしてまた僕の目を覗き込むように見て続ける。

茉莉まつり君。君は……君は、「変わっている」という事をどう思う?」

「……悪いとは思わない」

「は。君らしい答え……かもしれないね。素直に「良い」と言えばいいのに」

「「良い」というのは、それはまた違うからね」

「どういう風に?」

「それは……説明しにくいけど」

僕がそう答えると、栞は「だろうね」と言った。その顔が少し笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

「それで、栞はどうなんだよ?」

「私は……。……認めるべきだと思う」

「君も人の事言えないじゃないか。イエスでもノーでもない答えを返して」

「それは当然だよ。私は「どう思うか?」と聞いたんだから。それで綺麗な返事をする方がおかしい」

それはそうなのかもしれないが、どうなのだろう。

「認めるって、言うのは?」

「……話すと長くなりそうだから言いたくない」

「いやいや!!」

気になるし。

「……。日本人はね、普通を求めすぎていると思うんだ」

「はあ?」

日本人と出たか。思ったよりも話が長くなりそうだ。聞かなければよかったと少し思った。

「誰かがこれをしたから私もやろう、皆がしているからそれは正しい筈だ……それは、本当にそうなのかい?」

聞かれても困る。

「大概の場合は、正しいんじゃないか?」

「ふぅん、なら――」

栞は再度僕から目を逸らすと、続けた。

「――なら、今のこの【能力者】が隔離――迫害――されている状況も、正しいという事だね」

「それは、ケースバイケースだよ」

「ふん。その考え方がすでに毒されていると言うんだ。場合によって考え方を分けるなんて、馬鹿げている」

「そう……かな?」

「大勢の【普通】の人々の意見によって、【能力者】を隔離する。そんなのが本当に正しいとでも?」

「だからそれは…………場合によるよ」

「そんなだから君は偽善者と呼ばれるんだ」

いや。いやいや。思われているかもしれないけれど、誰かにそう呼ばれた記憶はないのだけれど。

「誰に?」

「私に。これから君の事を【偽善者1号】と呼ぶ事にしよう」

「嫌だよ!!」

「とまあそれは冗談なんだけれど。ああ、なんで私は君と話しているとこんなくだらない冗談を言ってしまうんだろう。どう思う、茉莉君?」

それこそ知らないよ。

「それよりも、何で普通を求めるのがそんなにいけないと思うんだよ」

「というよりも私はね、偽善者まつり君、普通以外のものを排除する考え方がいけないと思っているんだ」

何だろう、今名前を呼ばれただけの筈なのに少し悪意を感じた。

「君の言い分は分かるけど、それは難しいよね。全員が君みたいな考え方な訳もないし」

「そうだろうね、だから私は……いやまあ……何でもない。ところで、第一印象では誰が一番好ましく感じた?」

「は?」

「だから……そうだな、分かりやすく言うと、誰と一番仲良くなれそうに思った? まあ、第一印象なんて大抵の場合当てにならないものだが」

いや、言葉の意味は分かったのだけれど。余りにも話がずれたから驚いたというか。

「……そうだなぁ、英知えいちかなぁ」

「ふぅん」

僕がそう言っても、特に栞は反応を示さない。やはり嫌っているという訳ではないのだろうか。

「あとは、君だよ」

「ふぅ……ん?」

僕は見逃さなかった。栞の顔に疑問符が浮かぶのを。栞が表情を変えるのは結構レアだったので、少しだけ得意な気分になった。嘘だけど。

「いやだから、栞、君だよ。改めてよろしくね」

「はあ、馬鹿じゃないのか君は?」

「馬鹿ではないよ」

「……。それで、体の調子はどうなんだ? 実質一週間もベッドの上で寝たきりで過ごしたんだから、どこか変に感じる所はないかい?」

「いや特に――」

無いよ。と答えようとした瞬間、めまいを感じた。

そんな筈はないのだが、まるで栞の言葉をキーワードにしたみたいに、本当に突然に気分が悪くなった。


立っていられない。


――――――――――。


こんな立ちくらみは始めての経験だ。

僕はそのまますとんと意識を失った。


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