17話 うそ
部屋から出ると、栞がいかにも訝しげな、何か言いたげな目で僕を睨んでいた。否、見ていた。だから僕は、これ以上ないほどにわざとらしく
「どうかしたの、栞?」
と聞いてみた。
「いや、具体的にどうかしたという訳ではないのだが。……茉莉君、君は決定的に嘘が下手だね。……というか、下手なように振舞っているのかい?」
「そんな事はないよ」
「だろうね。しかし、それを疑いたくなる程、君の誤魔化し方はお粗末なものだったよ、というかそもそも誤魔化せてはいないが」
「それはどうも」
これまた反応のしようがなかったので――その通りだったので――なんとなく肯定的な返事を返しておいた。
「……まあ。……まあ、褒め言葉として受け取るのも悪くはないだろう。嘘が付けないというのは、必ずしもマイナスではないから。……決してプラスでもないが」
そんな、互いに距離感を未だに決めかねているような会話の間にも、途切れずジーという機械の動作音は続いている。
……止め方が分からないのだから、仕方がない。と思うことにしておこう。
というか、どの部分がカメラなのかが分からないので、今現在これがどこを映しているのかも分からなかった。
「どうしようか、これ」
「私は知らないよ、君が勝手に落としたんだから」
いやまあ、そうなのだけれど。そこまで完全に無関係を決め込まなくても。
「一度部屋に置いて来ようかな……と、部屋がどっちか分からないんだった」
「……」
さりげなく道案内をお願いしたつもりだったが、栞は何やら考えているようで――というか純粋に無視されたのかもしれない――床を見つめていた。
「……ここからの道を教えてくれないかな?」
仕方がないのでちゃんと聞き直す。
「道? どうして? というかどこの? ……ああ、なるほど。でもその必要はない」
どうやら本当に気付いていなかったらしい。「本当に」かどうかは怪しいけど。コレ自体も演技かもしれないし。
「なんで?」
「どうせあと一人なんだから、そのまま行くとしよう、面倒くさいし」
「面倒くさい?」
まさか栞がそんな事を言うとは。少しだけ意外だった。
「何でそんな顔をするんだい? 君は私の事を何だと思ってるんだ」
「……でもさ、この音はどうするのさ?」
「それは問題ないだろう、なんせ木霊君は……まあとにかく問題はない。ほら行くよ」
そう言うと栞は、さっさと歩き始めてしまった。
……問題が無いなんて事は無いと思うのだけれど。
僕は心の中で木霊とかいう人に謝りながら、栞の後ろをついていった。