13話 バッドエンド
「そうかな、幸せな結末が約束されている方が、安心して読めるじゃないか」
と、言う。そうだぞ、と南風の合いの手が入る。
すると、僕の心を見透かしたかのように栞が言う。
「本当にそう思っているのかい? 君が?」
思っている。思っていない。
否、本当の所は自分の感情なのに分からなかった。どちらも、という答えは許されないのだろうか。
「どうした栞? 何がそんなに気にいらない?」
と、英知が僕を助けたのかどうなのか、栞に絡んだ。
「気に入らないうんぬんじゃなくて、彼はきっと本心ではそう思ってないんじゃないかと思ったのさ」
「ふぅん、随分と茉莉の事を知っているような口を聞くんだな」
「知ったような口、ねぇ」
「そうじゃないか? 俺だって今日始めて会って、悪い奴ではなさそうだ、くらいには思ってるが、それだって分かったもんじゃない。本当はとんでもないやろうかもしれないしな。まあ俺の人を見る目が狂ってない限りそれはないだろうが……お前だって会ってそれほど経ってない筈だろう? 茉莉と」
「……一週間だ」
「それにしては、茉莉の事を知りすぎていないか?」
「知ってはいないさ。何を勘違いしているのか知らないけれど、何となくそう思ったからそう言っただけだ。別段深い意味はないよ」
「無いといいけどな。……それでお前はどう思うんだよ」
「決まっていない方がいい。面白くないから」
「面白くないとは?」
「例えばアドベンチャーでも、ミステリーでも、ハードボイルドでも、ハッピーエンドが約束されているなら、ほぼ間違いなく主人公は死なない。例外はもちろんあるけれど」
「主人公が死んでどうするんだよ!! 話が続かないじゃねーか!!」
南風が割って入るが、無視するような感じで栞は続ける。
「主人公が死ねばいいなんて誰も言っていない、つまり――」
「主人公及びそれに近しいキャラクターが死ぬ可能性も残しておくべきだって話だろ?いついかなる時でも」
やはりどこか面白くなさそうに、何故か英知が引き取った。
「――そうだ。ハッピーエンドが約束されていると、「どうせここから逆転するんだろう?」とか、「絶対絶命ではあるけれど、どうせ助かるんだろう?」とか、そういう考えがどうしても出て来てしまうからね、ねえ茉莉君?」
何故そんな急なタイミングで僕に振るんだ。
「でも過程を――」
楽しめばいいじゃないか、と続けようとしたが、栞が遮るように続けた。何だよ、そっちが聞いてきたくせに。
「楽しめないんだよ、あいにく私は。と言っても、全く楽しめないという訳じゃない。結末を知ってしまっている事で、楽しみが半減してしまうタイプの人間なんだよ、私は」
「……なるほど。どうやらお前と俺は少し似ているらしいな、考え方やら何やら」
ん? 他にも何かあるのか?
「……どうだろうね、英知君……と、ああそうだった、そろそろ行かないといけないよ、茉莉君。予定外に次から次に会う事が出来たから、あと二人だな。それでも余り遅くなり過ぎてもいけないからね」
「二人?」
英知が疑問符を発し、栞が
「フォリス君と、頴娃君や千鶴子君にはもう会ったからね」
と付け足す。それでも――何故か――頭を抱えて何やら悩んでいたが、栞が
「二人だろう?」
と念を押すように言うと、やがて納得したように――まだ納得していないようにも見えたが、気のせいだろう――頷くと、
「ああ、そうだな」
と言って、何故か英知は僕の顔を見た。