10話 ミナカゼ
「殴るくらいでは許さないとは、物騒だなぁ」
とりあえず、何故か僕に対して敵意剥き出しの南風さんとやらを相手にする事にした。英知を無視する形にはなったのだが、英知ならこの僕の判断を妥当なものとして――会って間もないのだけれど――理解してくれるような気がしたからだ。
「具体的には、蹴るぞ!!」
「……」
まあ。「殺すぞ」でないだけマシだけれど。この場合「殴る」と「蹴る」はほぼ同意義だと思う。相手を傷つけると言う意味で。わざわざ蹴ると言った事に何か意味があるのだろうか。
「まあ、分かった。心配しなくてもいじめてなんていないよ」
「じゃあ何で時雨がそんなに怯えてるんだよ!!」
「それは……」
それは、まあ、確かに僕のせいと言えば僕のせいと言えない事もないのだけれど。
「ほらみろ!! いじめていたんじゃないか!! よし蹴る!!」
「おい待て待て南風。茉莉が言葉に詰まったのはそういう理由じゃねぇよ」
「じゃあ何だってんだよ!! 自分に否が有ったから黙ったんだろうが!!」
「それは……非が全く無いかっつったらそれも違うだろうが……」
「ほら見ろ!! とりあえず蹴る!!」
「いやいや。……ちょっと何とかしてくれ、そこで面白そうに見てる奴」
と言いながら英知は僕の隣に立つ栞に呼びかけた。
「……ふふ、それは私の事かな?」
「お前以外に誰がいるんだよ!!」
栞は誰かいるかもしれないじゃないか、と面白くなさそうに呟きながら、南風に言った。
「怯えていたらすなわち誰かにいじめられたという考えは、あまりにも短絡的すぎないかい、南風君」
「ああ?」
「いくら君がシスコンだからってね、」
「シスコンじゃない!!」
「ああそうかい、……君がいくらシスコンだからと言っても――」
「だから違う!!」
栞が完全に南風の言い分を無視して話を続けようとしたが、しつこく南風も否定した。
「……。……君がいくらシスターコンプレックスの権化とはいえね、そんなに誰彼かまわずびりびりと敵意を振りまいていると、終いには君、否、君達の周りには敵しかいなくなってしまうよ?」
ええ!? シスターコンプレックスはいいの? 全然意味も違いも分からない。
「俺……たち? 時雨の周りにもか? 何でだよ、時雨は何もしていないのに」
「だから君のせいだよ」
「俺のせいだと?」
「そうだ、だから君は少しその短絡的な――なんでもかんでも誰かが悪いという考え方を直した方がいい、と忠告してあげてるんだよ私は」
「……よく分からないけど、とりあえずそこの男は時雨をいじめてないんだな」
「……そうだとも。……やれやれ」