8話 弾と魂(たまとたま)
「……」
呆気に取られていた。あれだけの量の言葉を一度も噛まずに言い切った事にまず驚きだし――ニュースキャスターとかに向いているのではないだろうか――そもそも話の途中にほとんど間が空かなかった事に驚いた。どこで息継ぎをしていたのだろうか。
「ねえ!?」
フォリスは一応笑顔で僕を見ていたが、それは彼女が言う所の作り笑いなのだろう。
それでも僕は、彼女に聞かれた今笑っているように見えるか? という問いには迷わずに答える事ができる。
「見えるよ。かわいく笑えていると思うよ」
「……茉莉君って、本当に結構けろっとそう言う事言えるんだねー」
ん? いやいやおかしい。何がおかしいって、色々とおかしい。
「……今回ばっかりは助かったよ、千鶴子君」
「ああなるほど……なるほど」
千鶴子さんが【入った】のか。フォリスの中に。
……こういうのは思うだけにしておかないと。口に出してしまうとまた千鶴子さんに絡まれるだろう事は目に見えていた。
「あれ? 何かエッチな事考えてない? 茉莉君?」
「考えてません!!」
「はあん? どうかなぁ? 絶対エロい事考えてた目だったけどなぁ。獣みたいな目」
いやいや。そんな馬鹿な。そんな事は……どう考えても無い筈……なんだけどなあ。
「全員が全員君みたいに年中発情期な訳じゃないんだよ、千鶴子君」
意外な事に栞が助け舟を出してくれた。偏見かもしれないが、栞の事だから黙って成り行きを見守っているだろうと思っていたが。
「いやーだってさー、それにしては強く否定しすぎじゃない?」
う。確かに。逆に怪しく見えてしまったかもしれない。
「彼はそういう人間なんだよ。日本人はなかなかノーと言えないという常識をはずれていて、なかなかにいいじゃないか」
「うーん。ていうかあれ? 何かさ、あなた随分茉莉君の肩持つよね? どうしたの? 惚れたの?」
「そんな訳ないだろう」
ばっさりと言い切る栞。らしいっちゃらしいけど、もう少し恥らうとか何とかさぁ。そんな真正面から切られるとちょっと傷つくというか。
栞も栞で言いたい事はきっぱりというみたいだから、珍しいと思うけどなあ。そういう意味では。
「千鶴子さんこそどうしてこんな所に?」
話題をざっくりと変える為に聞いてみた。実際の所、体はまだ図書館なのかもしれないが。
「フォリスっちに会いたくなって」
なるほど。二人はそれなりに仲がいいらしい。ていうか「っち」って。そんな呼び方聞いたの小学校以来だぞ。
「……その状態は会うとは言わないんじゃないのかい?」
栞が僕も聞きたかった事を聞く。
「いやねー、超気持ちいいんだよ、フォリスの中」
何だろう。何でこの人がからむと微妙に卑猥な感じになるのだろう。ただ単に受け取り方の問題だろうか。
「……ていうか、感触あるんですか?」
聞いてしまったあと、まずったなーと思ったが、言ってしまったものはしょうがない。
「無いわよー、気持ちの問題? やーん、茉莉君のえっちー」
大体予想通りの返答が返って来た。
「あ、と、そろそろフォリスが【戻って】来るよ? どっか行くんなら今のうちに行くといいんじゃない? 茉莉君も今日中に全員と会うつもりなら、ここで時間をつぶしすぎるのもあれだしね」
急に真面目な調子になって千鶴子さんが言う。結局、この人のことは栞以上に分からないように思えた