5話 回想
必要以上に白い、正方形の部屋。その仲に、僕を含めて三人の男がいた。
右側で道具をごそごそといじくっているのは僕の「主治医」――何も治療出来ないくせに、態度だけは偉そうだった。
そしてもう一人、僕の左手で椅子に深く腰掛けているのは、この「病院」の院長だった。こちらも何の【能力】もない癖に。どうせ今の地位だって、上に媚びへつらって得たものだろう。
「……ふむ。で、どうかね、彼は?」
院長が尋ねる。もちろん僕にではない。
「そうですね。上々と言っていいかと思います。最初は不安定だったのですが、段々と弱まっている事が確認されています」
「それはちゃんと【能力】だけを抑えているのだろうね? 何だかコレは酷く衰弱してしまっているようだが」
これ、と言って僕の事を指差すのが目の端に移った。
「その点は問題ありません。暴れて手が付けられなかったものですから、静かになるように弛緩剤を打ちました……疲労しているように見えたとしても、それは実験の影響では誓ってありません」
本当かよそれは? と訴えたかったが、薬の影響なのか舌が痺れて声にならない
「それならいいが……これは貴重なサンプルなのだから、くれぐれも壊さないように頼むよ」
「心得ております。それで院長、そろそろ実験も最終段階に入ろうかと思うのですが」
「そのタイミングは君に任せるよ。この実験が上手くいけば、君の昇進は間違いないだろうね。何せ、世界中の【能力】を無くす事が出来るかもしれないのだから」」
「……ありがとうございます」
――――――――――
「――君?――つり君?」
「ををを、――ままだよ?」
「――て見た」
「――ろ見てやるなよ。まあ俺も人のこと――どな」
はっと顔を上げると、四人の男女がある者は心配そうに、ある者は無表情で、ある者は真剣な顔で、ある者は興味深げに僕の顔を眺めていた。
何だ? ここは? どこだ?
ん、そうだった。あの後英知と鞘香さんと一緒に、部屋に戻って乾杯したんだった。コーヒーを乾杯するとかおかしな話ではあったけれど。誰が言い出したのだったかな?
というか、あれ? おかしいな――さっきまで何を考えていたのか忘れてしまった。
「茉莉君? 座りながら眠れるとは凄いね、君は。それも目を開けたままとは」
今度ははっきりと栞の声が聞こえた。
「いや、違うんだ、栞。ごめんちょっとぼーっとしてた」
「疲れたかい? 何なら残りのメンバーの紹介は明日に回してもいいが」
「いや大丈夫だよ。そんな事をしたら栞に悪いし」
「いや別に私はいいのだが――まあ、そういう事ならそろそろこの部屋を辞そうか」
一通り軽く別れの挨拶を交わした後、僕達は部屋を出た。
左手でドアを開けたら、鞘香さんが少し残念そうな顔をしていた。