6話 マツリとシオリー02
図書館を出て割と直ぐに、栞が言った。
「言っておくけど、一応親切として言っておいてあげるけど、頴娃君も千鶴子君も、その他まだ会ってない面々も、もちろん私も、信用してはいけないよ? ましてや信頼なんてもっての他だ」
「……やぶからぼうにどうしたの?」
「別にどうもしないさ。ただね、君を見てると少し心配だから、忠告してあげているんだよ。親切な部類の感情で」
「親切な部類?」
「そうだよ。私がこんな感情になるのは珍しいと自分でも思うけれど、だからこそ気まぐれにも忠告してあげてるんだ、誰も信用してはいけないよ、ってね」
「それは……それは寂しくないか?」
その考え方は。余りにも。
「まあ、そう思うのも君の自由だけれど、信用しすぎると、裏切られた時の衝撃も大きいという事さ」
「……まるで誰かに裏切られるみたいな言い草だね」
「まあそこまではいかないにしても、人の言葉を信用しすぎると、交じっている嘘を見抜けなくなると、そう言っているのさ」
「……よく分からない」
否、本当は何となく分かった。でもあの二人も栞も、嘘をついているようには――見えない、というよりもそういう穿った目で見たくなかった。最初から疑ってかかるのは、僕には似合わない、性格的に合わないのだろう、きっと。
「例えばだよ? 例えば、頴娃君は本当は君の心が全て【視えて】、その上でほとんど見えなかった、なんて言ったのかもしれない。その方が後々得だと考えたから。例えば、千鶴子君にしたってそうだ、本当は全然疲れてなんていないのに、何らかの理由で君には自分の【能力】が効かない事を演出した……かもしれない」
「栞!! それは、そんなのは言い掛かりだよ!!」
「どうだか。……そんなに怒らなくても、例えばの話だと断っただろう?」
「例え方が余りにも悪いよ」
「そうかもね。悪いついでにもう一つ。そもそも私は何故君を案内していると思う? 純粋な善意だけだと、本当にそう思うかい?」
そう言いながら栞は、真っ直ぐに、曇りなく翳りなくじっとりと、僕の目を見つめた。
少し怖くなったが、でも僕は。僕の基本スタンスは、信じる事だから。
栞がまず疑う人間だとしたら、僕はまず信じる人間だから。そんな愚かな人間だから、
「思うよ。君は僕を善意で案内してくれていると、そう思うよ」
と、そう言った。本当は少し疑っているのだけれど、さっきも疑ったばかりなのだけれど、そう言った方がいいような気がして、僕はそう言ったのだ。
言った後も、僕が真っ直ぐ栞の目を見つめ返していると、やがて栞はふと目を逸らし、
「………………そうかい。君がそう思うのなら、そうなのかもしれないね」
と言い、さらに続けた。
「まあ色々と言ったけれど、結局私が言いたいのは、全員が全員、というかほぼ全ての人間は、決して善人などではないという事だ」
「……分かるけど、何となく。それにしても何で急にそんな話を?」
「さあね。まあ、強いて言うならさっき言ったみたいに、そういう気分になったから、だよ」
それは果たしてどんな気分なのだろう。栞という女の子の事が、また一つ分かり、同時に一つ分からなくなった。