表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

6話 マツリとシオリー02

 図書館を出て割と直ぐに、栞が言った。

「言っておくけど、一応親切として言っておいてあげるけど、頴娃えい君も千鶴子ちづこ君も、その他まだ会ってない面々も、もちろん私も、信用してはいけないよ? ましてや信頼なんてもっての他だ」

「……やぶからぼうにどうしたの?」

「別にどうもしないさ。ただね、君を見てると少し心配だから、忠告してあげているんだよ。親切な部類の感情で」

「親切な部類?」

「そうだよ。私がこんな感情になるのは珍しいと自分でも思うけれど、だからこそ気まぐれにも忠告してあげてるんだ、誰も信用してはいけないよ、ってね」

「それは……それは寂しくないか?」

その考え方は。余りにも。

「まあ、そう思うのも君の自由だけれど、信用しすぎると、裏切られた時の衝撃も大きいという事さ」

「……まるで誰かに裏切られるみたいな言い草だね」

「まあそこまではいかないにしても、人の言葉を信用しすぎると、交じっている嘘を見抜けなくなると、そう言っているのさ」

「……よく分からない」

否、本当は何となく分かった。でもあの二人も栞も、嘘をついているようには――見えない、というよりもそういう穿うがった目で見たくなかった。最初から疑ってかかるのは、僕には似合わない、性格的に合わないのだろう、きっと。

「例えばだよ? 例えば、頴娃君は本当は君の心が全て【視えて】、その上でほとんど見えなかった、なんて言ったのかもしれない。その方が後々得だと考えたから。例えば、千鶴子君にしたってそうだ、本当は全然疲れてなんていないのに、何らかの理由で君には自分の【能力】が効かない事を演出した……かもしれない」

「栞!! それは、そんなのは言い掛かりだよ!!」

「どうだか。……そんなに怒らなくても、例えばの話だと断っただろう?」

「例え方が余りにも悪いよ」

「そうかもね。悪いついでにもう一つ。そもそも私は何故君を案内していると思う? 純粋な善意だけだと、本当にそう思うかい?」

そう言いながら栞は、真っ直ぐに、曇りなくかげりなくじっとりと、僕の目を見つめた。

少し怖くなったが、でも僕は。僕の基本スタンスは、信じる事だから。

栞がまず疑う人間だとしたら、僕はまず信じる人間だから。そんな愚かな人間だから、

「思うよ。君は僕を善意で案内してくれていると、そう思うよ」

と、そう言った。本当は少し疑っているのだけれど、さっきも疑ったばかりなのだけれど、そう言った方がいいような気がして、僕はそう言ったのだ。

言った後も、僕が真っ直ぐ栞の目を見つめ返していると、やがて栞はふと目を逸らし、

「………………そうかい。君がそう思うのなら、そうなのかもしれないね」

と言い、さらに続けた。

「まあ色々と言ったけれど、結局私が言いたいのは、全員が全員、というかほぼ全ての人間は、決して善人などではないという事だ」

「……分かるけど、何となく。それにしても何で急にそんな話を?」

「さあね。まあ、強いて言うならさっき言ったみたいに、そういう気分になったから、だよ」


それは果たしてどんな気分なのだろう。栞という女の子の事が、また一つ分かり、同時に一つ分からなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ