貼神
黒
彼女にありがとうを伝えたのはいつ頃からだろう。
自然の中に居させてもらってとても充実してる。
スズメバチ、ヘビ、ヤモリ、チョウチョウ、トンボ、ハナムグリ、ハクセキレイ、カラス、クモ。
それらはいつでも生い茂る闇から顔を覗かせる、あるいは自分が覗いたのかも。
彼女は特別に思えた、闇そのものだったから。
目を合わすのを好まないところが鏡に映るようだ。
ありがとう。
彼女には視えていたらしい、仏さんが。
炎天下の中ジーッと見つめたまま。
随分と長い間、お墓参りの方々に可愛がられてた。
もちろん自分も墓参りの度にそばに来て体を擦り寄せマーキングをしてくれたら、ありがとうと何度も伝えた。
お腹をゴロゴロだらしないけど可愛らしい。
癒やされた。
ありがとう。
その黒い貼り神を見たとき、彼女はもう亡くなったんだと知った。
ありがとうをもう伝えられない。
黄色に輝く瞳に映るのは自分ではないか。
自分を映してくれてありがとう。
ありがとうという言葉は忘れない。
黄