6話
作者です。
昨日は爆睡した後に原神をしていたので投稿が遅れました。
すみません。
ぼんやりとした意識でうっすら目を開けた。
まだ体の節々が痛む。当たり前だ、高いところから飛び降りたのだから痛まない筈がない。
その割にはあまり現実感が無い。何度も自殺を繰り返して自分の精神はボロボロだった筈だが、まるで自分の行いを客観的に見ている他者の記憶を思い出しているような感覚になる。全く実感が湧かない。
取り敢えずこの状況をどうしようか。
またロードすれば自殺せずに済むルートを模索できるが…
ヤツの詳しい動機は分からないが何かしら理由があって執拗に殺しに来ていたのだから、病院内という実質的に24時間警備されている空間に逃げなくてはしっかりと安全が確保できない。
自分の身体を見れば全身骨折でボロボロ、頭も包帯が巻き付いている感触がする。完治するまでにどれだけ掛かるんだろうか…
窓はカーテンが空いていて月が見える。自分が搬送されてからどれくらい時間が経ったのかも分からないが、取り敢えず今は夜らしい。幸い目だけは動くので、部屋をざっと見渡せばこの部屋は4人以上が同室する部屋らしい。辺りからは寝息しか聞こえてこないので、今は深夜なのだろう。
そう黄昏れていると、いつの間にか窓際に1人の少女が立ってこちらを見ているのに気付く。外から外灯の光や月明かりが入ってきているがまだ薄暗い。よく目を凝らさなくては分からない。
恐らく自分と歳は然程変わらなそうな彼女は黒く滑らかな髪を脇あたりまで伸ばしており、顔は黄金比の如く左右対称に絶妙に整っていて、人とは思えない美しさがあるものの、少しあどけない印象を与える。服装は古墳時代の貫頭衣を重ね着したような格好だが、ゆったりとした服でも隠しきれない見事なプロポーションが見える。
凡そ人では無さそうな風貌の少女はその綺麗な赤い瞳をこちらに向けている。
「どちらさんで?」
「貴方に助けられた者よ」
「俺は会ったことすらないが」
「自分がそうとは認識していなくても、その行動が誰かを結果的に助けていることもあるでしょう?」
「確かに、それで?見覚えのない妖さんは何用で来たので?」
「貴方の怪我を直してあげようと思って。」
「そりゃあ願ってもないことで。でもできるのか?そんなこと。」
「できなきゃ申し出ないわ。」
「ごもっとも、で、目的は?」
「貴方が健康にならなくては達成できないわ。」
「健康になった後は教えてくれるのか?」
少女は薄く微笑むだけで何も言わない。教える気はないのだろう。すると、少女は俺に向かって手をかざして来た。少女の身体が淡く青色に光りだし、その光の膜が彼女の右手に集まり、1つの玉になってから俺に流れ込んできた。
体の隅々まで流れ込んでくる感覚が収まると、明確に異変が起き始める。今まで痛かった身体の節々が全く痛くなくなり、寧ろ前から凝っていた肩のコリまで取れたような感覚で、飛ぶ前よりも健康になったのだ。
「ありがたい、恩に着る」
「礼には及ばないわ。ただ強いて言うなら、より逞しくなって欲しいわ。」
「逞しくね、筋トレでもすればいいのか?」
少女は何も言わない。
「兎に角有難う。この借りは必ず返す。」
少女はフフッと笑って…
「アドバイスよ、この夜中に病院を出なさい。明日にはあの男の一味がここにやって来る。始発の新幹線に乗って東京へ向かえば追ってこれないわ。」
「忠告有難う。そうさせて頂く。」
すると彼女は段々霞のように消えてゆく。
「あっちょっと待って!名前なんだよ!後なんで東京に住んでるのを知ってるんだよ!」
完全に消えてしまった。彼女の正体も何故東京に住んでいるのかも全く分からなった。
狐につままれたような心地になったが、確かになんの痛みもなく普通に起き上がれたのを確かめると、彼女の不思議な力を実感した。
「実は神様だったりしてな」
俺は自分に付いているギプスや包帯を外して静かに自分のリュックを探した。どうやらベッドの左の頭側の下に置いてあった。飛び降りる時は外階段に置きっぱなしにしていたリュックだが、警察か誰かは知らないが見つけて届けてくれたらしい。
リュックを漁ると飛んだ時にポケットに入れていた筈のスマホがある。よく見れば多少のヒビは入っているが問題なく使えそうだ。
静かに着替えて、ベッドに下に揃えられていた靴を履いて部屋を後にする。
旅行だからと多目に着替えを用意した自分を褒めたくなった。病室の外は所謂病院という感じで、非常口の緑色の光だボワっと付いているだけの不気味な様子である。
建物の中央付近はナースステーションなので、中央階段は使えない。もう片方の建物の端側の階段を静かに降りる。
1階についた俺は困ってしまった。そもそも外からの侵入が難しい構造なら、同様に内側からこっそり出るのも難しい構造なのである。この時間に開いている出口は救急搬送口か職員の事務所から外に出る出入口しかないだろう。
ただ今脱出しないと、謎の彼女によれば明日にはヤツの一味がやってくるらしい。想定よりも滞在場所が割れるのが相当早すぎるが、そもそもここはヤツらのホームタウンなので、例の雑居ビルを含む地域一帯で出た救急患者が、何処に搬送されるかを割り出すのは可能なのだろう。
階段の隅で脱出方法を模索していると、大きな可動式ゴミ箱が並べられている場所を見つけた。近くにドアがあるので、恐らく普通ゴミを捨てる為の通用口なのだろう。目を凝らせばドアノブにサムターンがある。しめた!これならこの出口から外に出られる!
俺は急いでその出口に近付き、周りに近付いてくる気配がないことを確認すると、サムターンを回して鍵を開けて外に出た。
どうやら外に人通りはない。当たり前だが、救急車と見舞いに来る一般車両とゴミ収集車は出口が違うのだろう。正確に言えばゴミ収集車と物資の搬入搬出口が同じなのかもな。
左右を見回して念入りに“クリアリング”を行って出口に近付くと、外は普通に都会である。スマホで時間を確認して見れば、時間は23時を少し過ぎた所なので、まだ町中には人通りがあった。俺はそのまま普通に町中へ出てゆく。取り敢えず明日は始発の新幹線で帰らなくてはならないので、今のうちに新大阪には行っておきたい。幸いなことにまだ電車はやっている。
歩いて最寄りの鶴橋駅に向かった。駅前の自販機に着くとコーラを買って一息つく。
この旅行の間に尋常ではないことが沢山起きすぎていてどうも疲れてしまって居たが、やっと家に帰ってあのつまらない日常を謳歌できると考えれば、なかなか感慨深いものがある。今は取り敢えずこの状況を一夏の思い出にするために逃げ切ることが最優先だ。
自販機をセーブポイントに設定してから改札にむかう。階段を降りると丁度止まった地下鉄に乗ってなんば駅まで向かう。
一駅ですぐ降りた後に、親の顔より見た御堂筋線に乗って新大阪駅に向かった。思えばループ中何度もこの路線・この区間に乗っていたことに気付く。だがもうこれで終わりだ。もう二度とあんな目に遭うことはない。東京に戻りさえすればヤツらは俺の家を特定できないからな。
新大阪駅に着いて階段を降りて改札を出る。もう24時近くなってきた。俺は近場のネットカフェを探してそこに向かった。
取り敢えず4時間程そこで仮眠を取ったり時間を潰せば問題ないだろうから。
sid???
「んでぇ?アナタはその忌み子をみすみす取り逃がしたとぉ?」
「申し訳ございません…流石に人垣を掻き分けて救急搬送される者を始末することは出来ませんでした…」
「フゥン、聞く限りじゃあアナタは忌み子に尾行を気付かれていたのよねぇ?可笑しいわぁ、アナタは組織の実行部隊としては精鋭の筈よぉ?我々は兵隊を持たないから少数精鋭なのは分かるわよねぇ?アナタが相当のポカをしたのかしらぁ?」
「それについてなのですが…彼は私の尾行を察知していた素振りはありませんでした。」
「察知していないぃ?」
「はい、彼は直接的に察知したのではなく、“読んだ”のです。」
「アナタの尾行に感づいて刺客の技量を把握し、逃げられないと悟ったから大胆な逃げ方をしたと言う方がまだ信じられるわぁ。」
「今宮戎神社にて彼と邂逅した際は、その身の熟しなどは一般人のそれ、間違いなく特殊な技術を身に着けていませんでした。彼は私が未来に殺しに来ることを知っていたとしか考えられません。そもそも本来彼にはなりふり構わず逃げる理由はないのです。」
「ほぉ?」
「彼がもし特殊な技術を身に着けた者であったとしても、後をつけられているのに気付いたら警察に駆け込めば良いだけの話。身に覚えのないストーカーに追われているとでも言えば良いのです。」
「つまりぃ?忌み子が悠長な方法で逃げずに、まるで殺人鬼から逃げるようになりふり構わず逃げたのは、忌み子がアナタに殺される未来を見てしまったから。或いは一度以上殺されていた世界線があって、その記憶を引き継いで過去に戻ってきているからと言いたいのね?」
「おっしゃる通りです。」
「まあ確かにそうだわぁ。明らかに忌み子の逃げ方はおかしい。狂気すら感じるわぁ。アナタに何度も殺されて頭が可笑しくなってしまったからとんでも無い方法に出たなら分かる。然し変ねぇ、かの存在にそんな能力に関する逸話は無いわ。そもそも元々記述が少なすぎるから、どんな権能を持っているかなんて皆目見当もつかないけどねぇ。」
「かの存在のことについては分からないことが多すぎます。一応飛び降り現場から彼の血を採取してまいりましたので、残滓の解析などをお願いしたく。」
「分かったわぁ、その忌み子のサンプルは解析しておく。取り敢えずアナタは引き続き忌み子の行方を追いなさぁい。もう病院に目星はついているんでしょ?」
「はい。明日にでも院内に侵入し、彼のカルテを探し出して病室を特定致します。可能ならばそのまま始末致します。」
「こういう時に機械に強い方は便利だわぁ。病院のサーバーにハッキングを仕掛けるんでしょう?」
「はい。サーバールームに侵入し、直接ハッキングを仕掛けます。3日前の昼の13時過ぎに救急搬送された者の情報など一発でヒットする筈です。」
「頑張って頂戴ね?」
「承知いたしました。」
そう言って男は退席した。
作者です。
主人公は何故警察に駆け込まなかったのかについてですが、彼は新幹線改札口に近付いただけで殺されました。彼目線だと、犯人は尾行を阻止される状況になった瞬間に殺しに来るやべーやつです。
つまり、警察に匿われるという尾行不可の状況を作ろうとした瞬間に殺されるため、警察に駆け込むのは無意味であると判断しました。
因みに警察に駆け込もうとした場合は、しっかり英治君は殺されて居ました。
自殺未遂をして、自分の周りに人垣という防壁と監視網を形成して、救急搬送という手を出せない逃走手段を用いるしか英治君に逃げ切る術はありませんでした。