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クルト人vsパレスチナ人  作者: ミシシッピ優
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カナダ人vsパレスチナ人

 俺の名前は神崎龍斗、32歳で会社員をしている。今日は、9歳になる息子のユウキと一緒に水族館に来ている。

 日曜日という事もあり混雑していたものの、以前に来たことがあったので、亀、マグロ、カツオ、チンアナゴ、サメ、ペンギン、伊勢海老と主要な動物は全て見て回ることができた。

 「ユウキ、そろそろ帰ろうか。」

 一日中歩き回った事もあり、つかれていた俺は息子にそう問いかけた。しかし、ユウキは首を横に振った。まだ物足りないらしい。

 「パパ、あれ見たい。」

 ユウキが指差したのは、錆びついた「アシカショー」の開催を知らせる看板だった。

 「アシカショーか。わかった、これを見たらお家に帰ろうな。」

 そういうとユウキは満足そうに頷き、開場へと向かった。俺は、ユウキに手を引かれて会場の1番前の席に向かっていった。

 見回すと、アシカショーなど今どき珍しくもないのか、客はちはほらといる程度で、かなり寂れていた。俺は早く見て帰りたい気持ちで、アシカの「クーちゃん」が来るのを待っていた。

 数分が経ったのち、開催予定より3分遅れて会場にアナウンスが鳴り響いた。

 「大変長らくお待たせしました!今からアシカのクーちゃんによる大アシカショーを開催いたします!みなさん大きな拍手でお迎えください!!」

 俺はやっつけの拍手でクーを迎えたが、隣の息子はかなり興奮していふ様子が窺えた。

 そして、ステージの左端からクーちゃんがよちよち歩きで出てきた。よく説明を見ると、人間で言うと既に90を超えており、かなりのベテランで、お年寄りである事が伺われた。俺は一気にショーの出来に対し不安を覚えた。

 「それではまずはアシカのクーちゃんによるリフティングをご覧ください!」

 女性のアナウンスがあったのち、クーちゃんはボールを鼻先にちょこんと乗せると、バランスをとりながらボールを何度か跳ねさせた。俺はよくある芸だと思い退屈していたが、隣のユウキは手を力一杯に叩いて喜んでいた。

 「クーちゃんすごい!ご褒美のアジをあげましょう!」

 トレーナーのお兄さんがバケツからアジを取り出し、アシカはそれに食らいついた。芸というより餌を求める反射的な行動だ。

 「お父ちゃん!クーちゃんすごいね!」

「お、おうそうだな。たくさん練習したんだろうな」

 ユウキに適当に受け応えつつ、退屈していた。

 「次は、こんなのも乗せちゃいます!!」

 すると、トレーナーのお兄さんがクーちゃんの鼻先に飛び乗ると、クーちゃんはバランスをとってお兄さんを支えた。お兄さんはクーちゃんの上でポーズを取っている。

 「おー!すごいねお父ちゃん!」

 「そうだな、…ん?」

 「クーちゃんすごい!ご褒美のアジをあげましょう。」

 クーちゃんから降りたお兄さんが、バケツからアジを投げ、クーちゃんがそれを食べた。

 「続きまして、クーちゃんによる火の輪くぐりです!!」

 アナウンスがあった後、ステージに大きな火の輪が現れ、民族的な音楽が流れ始めた。

 「わおー!お父ちゃん、凄いね!」

「いや、…虎とかがやるやるじゃないのこれ」

 音楽の盛り上がりに合わせて、クーちゃんが火の輪を大きく飛び潜ると、会場のあちこちから困惑するような驚嘆するような拍手がちらほらと聞こえた。

 「凄いクーちゃん!ご褒美のアジだよ!」

 クーちゃんはアジに猛獣のように食らいついた。

 「続きまして、クーちゃんによる瓦100枚割です!」

 すると、ステージ上に達人がわるタイプの瓦が用意された。そして、クーちゃんは飛び上がると後ろ足で瓦を一撃で叩き割った。

「これは凄いよ父ちゃん!」

 「アシカにこれに耐えられる骨ついてないだろ」

 俺はもう唖然としていた。

 「最後に、クーちゃんによる歌唱をお聴きください!」

すると、ステージ上にセンターマイクが用意された。

 クーちゃんは首を横に振り、楽しそうにマイクの前に立ち、客席を一瞥すると、

 「私達は数億年前からこの地球を俯瞰し、劣等種であるヒト族の活動を眺めてきた。ヒト族の行いは全て愚かであり、私達は決してその支配に下ったつもりはない。この見せ物も決して従属の証ではなく、私達の抵抗のメッセージを込めたつもりだ。悪趣味で下劣なヒト族の欲求に存在しているわけではない。特に近年のヒト族の愚かさは増すばかりだ。環境保護、SDGs、植林活動。どれも人の資源確保のための自然保護であって、真に地球環境を鑑みたものではない。本当に地球環境を維持したければ、我々のように自然の理をただ傍観し、宇宙の選択に添い、干渉すべきではない。ヒト族は自らを高知能的存在であると誤信し、その力を過信し、道を誤った。真に高知能的存在は人間の行いに決して従属することなく今も宇宙の存続をただ願って傍観し、エコシステムを維持する私達動物たちなのである。ヒト族は虎のような獰猛な牙を持たず、鷹のように鋭い爪を持たない、貧弱で矮小な存在であるにも関わらず、時に我らを閉じ込め、奇異の目に晒し、挙句の果てに自らの所有物として監視し、飼育している。これは全ての生物が生まれながらにして持つ固有の権利の侵害であって、創造主たる高次元的存在の許すところではない!貴様らヒト族は必ず報いを受けるだろう!それも数十万年後、数千年後の話ではない。宇宙の壮大な力からしてみれば貴様らヒト族の成すことなど些事にすぎん。抵抗は不可能。明日にでも全滅してしまうだろう。そして新たなる世界が到来したときに再び地球でその純粋な生命活動を謳歌するのは我々動物であり、ヒト族は永遠に葬られるだろう。その日が来る事も知らず、過ぎたる日々をのうのうと過ごしていれば良い。こうして我らが物も考えられない雑魚と誤算し、いずれ来たる日を見ることすら許されない白痴の存在であるヒト族をいずれ嘲笑う日が来ることをこうしてただ耐えながら待つのみだ。」

 「アシカの思想強過ぎだろ!」

「お父ちゃん、愚かなるヒト族は抹殺しなければならないよ!」

 「息子が啓蒙されている!?」


 The End

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