ボヨンボヨン弾む会話
掃除をはじめてから一時間くらいたっただろうか。
あれからずっと、勇者は沈黙とガミガミを繰り返している。
ずっとだよ?
もう可哀想になってきちゃったよ。
なにごとも慣れなんだね。
嬉しい事に、私の琴線は何も感じなくなった!
もう何も怖くない。
「おい、ホコリが残ってるぞ。目はついてないのか!?」
「もうご飯の時間なんですよ! キッチンが先です!」
「ふざけるな! こんな汚れた場所で飯が食えるか!!」
「ありがとうございます、それならば自分でやってくださーい」
「ほう、おまえは自分の能力の低さを他人に押し付ける気なんだな」
「美味しいご飯を作るんで、掃除の方はお願いしますね。勇者様」
えへへ、普通に会話できる!
あ、勇者が掃除しはじめた。
うんうん、それでいい。偉いぞ勇者。
しかし、奇妙な感覚がある。
こんなふうに怒鳴られるのが、何故だか懐かしく感じる。
魔王も魔族の人も、怒鳴った事はなかった。
実の両親の事は、覚えていないし。
私はどこで、怒鳴り声や理不尽な言動を聞いたのだろう?
それに、こういった小屋での生活方法を知っている。
そういえば、森も知っていたし、町も知っていた。
私は魔王城以外にいた事がないはずなのに。
見た事も聞いた事もなかったのに。