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なれそめ

 この勇者、人として何かがおかしい。

 こういう人の言う事は、あんまり気にしちゃいけないんだ。

 「魔王を倒した人の言った事は全部正しい」なんて事はないのさ。

 私は私でいて大丈夫、大丈夫なのだ!


 ふう。

 魔王城で暮らしている時、こんなにビクビクした事はなかったなぁ。

 どうにか勇者のご機嫌取りがしたいのだけど、ポイントがつかめない。

 今、この小屋の前で突っ立っている理由もわからない。


「ほう、この程度の事がわからないほどにクズという事か」


 クズにクズって言われた!!


「そ、掃除ですよね? ここに泊まるんですよね?」


「だまれないようだな」


 パッ!


 私は自分の口を両手で抑える。

 やる事なす事怒られる。

 理不尽なまでの粗探しに悪意を感じる。


 いや、流されているぞ私!

 よし、気を強く持って逃げるスキを探そう。

 近くに町がありそうだった。

 明日、日が昇ったらそこに行って保護してもらおう。

 そして、今日はもうすぐ夜だから、この小屋で寝る。

 大丈夫、自分で決めた。

 この小屋を住み心地良くするぞ!


「おいなんだ、そのホウキの使い方は!?」


「ご、ごめんなさいっ」


「こうだ、こうだ!」


「こ、こう?」


「そうじゃないよく見ろ、こうだ」


 ふぇぇ、掃除なんてした事ないよ~。

 ホウキ持ったのも初めてなんだから、頑張っている所を褒めてほしい。

 いやいっそ、褒めないでくれた方が良いかもしれない。

 諦めてくれた方が楽だ、呆れてほしい。


 むむむ、どうにか理解を得られないものか。

 でも、何を話しても無理そうなんだよなぁ。


 ああ、魔王城が恋しい。

 別に良い思い出があるわけじゃないけど、魔王城は平和だったなぁ。

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