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勇者様にご挨拶を!
魔王城からかなり遠い所まで来たように感じる。
今は森の中で、目の前には古びた小屋が一つだけ。
森の開ける方角から、町のにぎやかさがかすかに聞こえる。
さしずめここは、町はずれの空き家って所かな。
小屋の前で沈黙が続く。
気まずい。
敵ではないというアピールをいっぱいしておこう。
「私、魔王城から出たのは、多分はじめてです」
「ずっと魔王の肩もみ係をさせられていたんですよ。毎日八時間も!」
「赤ん坊の時に魔王に拾われたんでしょうね。獣人は珍しいらしいので」
「あ、誕生日入りのブレスレットは持っています。私、五歳です」
「勇者様。助けてくださり本当にありがとうございました」
返事がない。
表情の変化すらない。
こうも無視されると、自分が存在しないのではないかと不安になってくる。
かといって変な事を言っても、気に障ったら殺されるのかもしれない。
話のネタがなくなってしまった。
じっと目を見ていると、やっと勇者の口が動いた。
「……だまれないのか?」
ははぁ、この勇者、クズなんだな!!