脱出! 魔王城!
魔王が死んだ。
「勇者様!」
やっと魔王を倒してくれる人が来てくれた!
「勇者様、ありがとうございます! 助かりました!」
……あれ、返事がない。
勇者は振り返らない。
私の声が聞こえていないのだろうか。
「おーい! 勇者様!」
聞いちゃいない。
モンスターや魔族を倒すのに夢中だ。
勇者は箱を確認する。
宝探しかと思ったけど、箱の中には魔族が隠れていたようだ。
「ひぃ、俺は脅されていただけなんです。どうか見逃してください!」
「対価は?」
「魔界です! 魔界の支配権を!」
ザンッ!
うわっ! 惜しげもなく切ったよこの勇者!
質問しといて返事もなく惨殺する勇気を持っている。
この勇者、それでも人間か?
いやいや、問題はそこじゃないぞ。
魔族とは会話できているんだ。
つまり、耳は聞こえるし魔族語もわかる。
……なら何故、私は無視されているんだ?
もう一度声をかけようと思ったけど、怖いのでやめておこう。
返答次第では殺されるなら、静かに逃げた方が良い。
「ちんけなのがあるな」
「え?」
気が付いたら私は勇者の肩に担がれていた。
「勇者様、あっちに行ってましたよね?」
と思ったけど、もうこっちに来ている。
勇者はものすごい速さで移動していて、担がれていると目が回る。
ダメだ、速すぎて理解が追い付かない。
一方的過ぎて、本当に意味がわからない。
「あ、あの、ちんけって私の事ですか?」
「よし、もうこの城に用は無い」
そう言うと勇者は魔王城を後にした。
私も勇者の肩に担がれたまま、魔王城を出る事になった。