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私を愛してみてください  作者: 優愛
第1章
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第30話 守りたかったもの②




 意に沿うよう、圧力をかけられる。

 それは、王宮内で何度も受けてきたことだ。

 この10年間で、非難や悪意を受けたことは数知れず。圧力をかけられた回数は言を俟たない。

 

 人が抱く負の感情も同様。

 怒りや妬み、恨みつらみと言った感情を、私は数多く浴びてきた。

 王宮内で言えば、王太子妃教育が始まった頃から毎日。

 意に沿わない反応をした際や気に食わないと思われた際は特に、負の感情は色濃く向けられる。

 激しい攻撃性。

 それを黙って受け入れるしかない状況に、初めこそ恐怖していたが、攻撃を受けることが日常茶飯事ともなれば、否が応でも慣れてはくる。


 ああ、またか。

 そう思える程になる頃には、身を硬くし怯えるような事や相手の意のままになるだけのような事はなくなった。

 


 長年受け続けた、数え切れぬほどの悪意や圧力を受けるという体験。

 それは、私に、並大抵な事では動じない冷静さをもたらした。

 

 物事に動じない冷静な在り方は、完璧な王太子妃として振る舞わなければならない日々において、とても役立つ。

 特例な事柄以外、起きた事象に淡々と対処できるのは、染み付いた冷静さゆえ。

 強靭な精神力とも言えるそれは、リリア様になってからも有用だ。

 

 突如自分ではない人間(リリア様)になるという非現実的な事柄、詳細が何も掴めていないという状況、酷い体調不良。

 それらに見舞われても、冷静さを完全に失うような事はなく、内情が漏れるという事態にはなっていない。

 

 リリア様になった事で頻繁に関わる必要性が出た、サーシャとロッタ医師。

 慎重な対応をする必要はあるが、国王からの牽制やジハイト様との任務を命じられた時のような、特例となるような事が起きる存在ではない。

 定期的に注視してくるという点はあるものの、驚異的な事はしてこないだろう。

 いずれにせよ、冷静に対処していれば、問題になるような事は生じない。

 

 そう思っていたのだが。

 

 先程受けたロッタ医師の言動に対して、私は、冷静さに欠ける反応をしてしまった。

 

 身を固くするという反応、向けられた非難に怒りを感じ、圧のある言動に胸や腹部に締め付ける感覚が生じるという状態。

 数秒の間に感情が激しく揺れ動き、胸元から腹部辺りに痛みを感じた事など、今までで2度しかない。

 1度目は、10年前に父と話した時。

 2度目は、彼と数秒間だけ目が合った時。

 いずれも、私が大切に想っていた相手との間に起きた出来事だ。


 何故、冷静でいられなかったのだろう。

 温和だったロッタ医師の態度が急に冷淡になった事、それに喫驚してしまった?

 いや。冷淡な態度なら彼で慣れているし、王宮内には、先程向けられた言動とは比にならない程の激情を向けてくる者が存在する。

 目の前に座る人物は、一体…………。

 ……いいや、それよりも今は、先程の私をどう捉えたかと、この先どう対処すべきかを気にしなければ、

 


「どうされましたか?」


 冷たさしか感じない口調。

 それを向けられた事により、私は我に返る。

 目の前には、こちらを注視するロッタ医師。

 早鳴る心臓をそのままに、私は可能な限りの最速で首を横に振った。

 対するロッタ医師は。

 私の瞳をしばらく見た後、スッと視線を逸らした。

 

「それでは。今後の事について説明致します」


 話を進めて問題ない。

 そう判断したらしいロッタ医師は、場の空気感を変え、足元に置いていた鞄から何かを取り出し始める。

 書物らしきもの、万年質、それらを木製のトレイに載せ両手で持ち上げると、目前にある私の膝元、ブランケットの上に置いた。

 

 ロッタ医師という人物が掴めず、存在に脅威を感じ始めていた私は、


「膝元にあるものをご確認ください」

 

 ただロッタ医師に言われるがまま、膝元にあるものへ意識を向ける。

 

 目に止まったのは、綺麗な白い革表紙。

 長方形のそれは、革紐で結ばれており、1つは真新しく、1つはやや年季を感じるものだった。

 やや年季のある、ブルーグリーンの革紐で結ばれた冊子。

 それに見覚えを感じた私は、自ずと手を伸ばしかける。



『触れるな!!!』

 

 瞬間、私の脳内に怒声が響き渡った。


「!?」

 

 驚いた私は出しかけた手を、胸元へ引っ込める。

 再び早鳴り出した心音を感じながら、私はある事を思い出し始めた。

 目の前の、ブルーグリーンの革紐で結ばれた冊子、私はそれを目にした事がある。

 それは、半年以上前。

 リリーとは誰なのかを解明するため、彼を尾行した時の事だ。



 

 *******


 

 

 王宮の端の端、垣根となる森林内の小道を進んだ先に見えたドーム型の温室。

 ひっそりと建つそれに、私は静かに足を踏み入れた。

 甘く清楚な香り。

 入室した瞬間に感じた香りに、思わず顔を顰める。

 

 鼻を掠めた甘く清楚な香りは、先日の“任務”でレオンが付けていたものと同じ。

 あの日の彼の言動は、私を深く傷つけたものであり、決して容認できない出来事だというのに。

 

『ずっと、ずっと好きだったんだ』

『愛している、リリー』

 

 違う女性の名を口にされたにも関わらず、レオンから感じた熱い想いは、私の心に歓喜を与えた。

 優しく大切に触れられた事。

 それを喜んでしまった自分が確かにいて、受けた強い衝撃は、恋心というフィルターに通された結果、所望を生み出すことになった。

  

 彼は愛した女性を大切に想い、優しく愛する人。

 だから。

 私を好いて貰えた先には、あの歓喜が待っている。

 あの時のように、優しく接してもらいたい。


 そのような想いを、私は抱いてしまっている。


  

 散々、冷徹無比な態度をとられた挙句、違う女性への想いを明らかにし錯誤しながら行為をする相手など、最低最悪でしかない。

 他の女性への強い恋情があることを身を持って体験したにも関わらず、期待を抱いてしまうなど、どうかしている。

 そう思う自分もいるのだが。

 (愛して貰える可能性は0ではない。ならば諦めたくない)という考え、(レオンに愛されたい)という想いのほうが、私の中には強くあるのだ。



「……ふぅーー」

 

 複雑な気持ち、けれど、彼への確かな恋心を持っている事を自覚し直した私は、気を取り直す為、長めに息を吐いた。


 あの日の事、今はそれを想起している場合ではない。

 私がこの温室に来たのは、リリーに関する手掛かりを得るため。


 ここに辿り着くまでには、色々と苦労があった。

 公務時以外の様子は何もわからない彼の事、それを密かに探ったが、彼の私生活はおろかリリーに関する情報は得ることができず。

 夜間や早朝という、本来ならば活動を許されない時間での極秘調査を経てやっと、何か掴めそうなこの場所の存在を知ることができた。


 彼や彼の側近であるテオに気づかれないよう、密やかに調査するのは随分と気を使ったし、肝が縮むような事もあった。

 温室に入れたのも、タイミングが良かったため。

 彼に気づかれぬよう、細心の注意を払いながら彼を尾行したのだが、ここに入れたのは彼がテオに呼ばれてここを早期に立ち去ったからに過ぎない。

 1歩間違えれば彼に見つかってしまっただろうし、彼がここに長居していれば長い間木の影に息を顰め、時限になり、何も得られぬまま自室へ帰ることになってしまっただろう。

 

 この絶好の機会を逃せば、次は無い。

 そう予測できるからこそ、気を引き締めなければ。

 そして、リリーとは誰でどのような女性なのかを突き止める。

 室内に充満する甘い清楚な香りからして、ここには何かがあるはずで、もしかすれば、リリー本人がここに居るのかもしれない。



「ふぅ」


 現況を改めて確認した私は、今度は短く息を吐く。

 数秒後、息を吐いた際に自ずと閉じた目をゆっくり、覚悟を持って開いた。


 調査し真相を知ることで、今まで以上に傷つくかもしれない。

 リリーと対峙する事になった場合の対応策は思いついていないし、覚悟ができているわけでもない。

 けれど。

 リリーは誰なのかと悶々とする事は、日常においてはもちろん、彼と関わる上でも色々と不都合で。

 何も無かったかのような振る舞いをするには、心のもやを晴らさないと無理なのだ。

 なにより。


 私は、レオンに愛されたい。

 リリーではなく、私を見て欲しい。


 そのために私は、今からリリーの事を知り、リリー以上に愛される為の方法を見出す。



 私だと気づかれない為に着用している侍女服、そのエプロンの端を握りしめた私は、その場で小さく頷きながら息を整える。

 通常より早い心音と表現し難い気持ち。

 それらを感じつつ、私は、リリーについてを知るための一歩を踏み出した。

 

 

 

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