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私を愛してみてください  作者: 優愛
第1章
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第2話 彼との関係、置かれた状況



 王太子である彼は、婚約した際、私を笑顔で迎え入れてくれた。


 秀外恵中。温厚篤実。

 非の打ち所がない王子だと名高い彼は、王太子としての対応のみならず、女性への対応までもが素晴らしい人だった。  

 会えば何処までも紳士的な優しい言動、会えぬ間はプレゼントやまめな手紙といった、私の心情をよく理解した気配りをくれる。

 女性が心ときめく理想の王子様。

 そんな様子の彼に、私は何度も胸を高鳴らせていた。

 なにより。

 私の窮地を救ってくれたという、彼の救世主のような対応が、恋心に大きな影響を与えたのだ。



 それは、婚約時の環境においてのこと。

 婚約当初15歳であった私は、3年間の学園生活を。

 学園を卒業した彼は、視野を広げたいと18歳から3年間、様々な国へ留学をしていた。

 生活圏、ライフスタイルが全く合わない。

 そんな状況になった3年間は、片手で数えられる程の顔合わせしか叶わなかった。

 


『王太子が我が国にいないのは、婚約者との仲が悪いからではないか』

 

 私達の状況から周囲にそう噂され、一部内で立場が危うくなった私は、大きな不安と恐怖を抱えた。

 王太子の婚約者には、分不相応。

 そのように見なされていた弱い立場の私は、何も言えずにいたのだが。それらのことに気づいた彼は、すぐ様解決のための行動に移った。


『婚約者は、君がいいから』

 

 そう言って、問題といえる全てのことを、スマートに対応してくれたのだ。

 そんな彼に、私は心を鷲掴みにされ、


(彼の妻になれるなら、他になにもいらないくらい幸せ)

(彼と共に居られるならば、どんな苦しみも耐えられる)

 

 そのような思いを抱くほどに、彼への想いは強く、確かなものになった。


 

 そうして、3年。

 私が学園を卒業した18の歳に、彼は国王から婚姻相手の決断を迫られた。

 

 婚約期間中は、ろくに会えぬまま。

 彼の意向に沿うしかない弱い立場の私は、選ばれないのではないかと不安に駆られていた。

 できることは、願うこと。

 私は決断の時まで、彼に選ばれることを懇願していた。

 その甲斐あってか。

 珍しく、私の願いは叶うことになる。

 彼は私を選び、私は晴れて彼の結婚相手に決まったのだ。

 

 嬉しかった。

 普段、落涙する事のない私が、涙に咽ぶ程に。

 婚儀までの期間、私は1人、胸中で喜びを噛み締めていた。

 

 迎えた結婚式。

 そこで私は、彼の瞳と同じ、透き通る海のようなエメラルドブルーの大きな宝石がついた指輪と共に、妻という立場を貰った。

『幸せになりましょう』

 そう言った彼の言葉と眩い笑顔は、胸に強く焼きついた。

 私は、歓喜に満ち溢れていた。

この先、この素敵な人と幸せな日々を過ごせるのだ、と。


しかし。

 

私の歓喜は、結婚後すぐ、ぬか喜びであった事がわかる。

 完璧な王子様の彼は、理想の王太子として創り上げたものであったこと、優しく私を大切にしているかのような態度は、周りの目がある時にしかしないこと。

 それを、今までとは真逆とも言える言動の数々から、悟ったのだ。

 

 これまで伝えてくれた想い、結婚式での誓い。

 それらは、嘘だったのか。

 酷くショックを受けたものの、結婚当時の私は諦めていなかった。


『私は彼の正妻。側室制度はないし、1番よく関わる女性は私であるのだから、頑張れば好意を持ってもらえるはず』


 初恋でもあった彼への想いを簡単に割り切れなかった当時の私は、諦めずに努力をすればいいと思ったのだ。



彼が妻に望む姿、王太子妃として完璧であれば。

彼に認められる存在になれば。

彼好みの女性になれば。

彼が好む態度をとれば。


頑張れば、いつかは報われる。

貴方に私を好いて貰える日がきっとくる。


いくら彼から冷遇されようと、彼への想いと信念を胸に、ひたすら彼に好いてもらうための努力を重ねた。



そうして半年たった時。

 私の人生を大きく変えた、ある事象が起きた。

その内容は、衝撃的なことの連続で安易には語れないのだが、私はその事柄をきっかけに今まで知らなかった様々な真実を知り得ることになった。


私がそこから得たものを一言で言い表すならば、酷い絶望感。

受け入れざるを得なかったのは、“どんなに努力をしようとそれらは無意味で、想いは決して報われない”という事実。


結果、私はバーンアウトを起こした。

色々なショックが重なったのが原因で、バーンアウトした後の記憶は綺麗に飛んでいるが、世界が全て黒く見えていた感覚はうっすらと残っている。

どのようにして立ち直ったか。

 それも覚えはないのだが、ある朝急に現実を直視できるようになり、夫に関することも冷静沈着に対処することが可能になった。



 努力しようと、夫が私を見ることも想いが実ることもない。

しかし、王家や我が実家の特性上、離縁は不可能。


そんな私の人生は、夫への期待や希望を持たず、淡々と王太子妃としての役割りをこなしていくしかない。

そう理解している今の私は、“私を見て欲しい”などという馬鹿げた願いは抱いていない。

 ゆえに。

過去の願望を思い出すなど、“らしく”はないのだ。

 

 ないのだ、が。

 そういった状態になってしまった理由として考えられるものと言えば、今から“あの期間”に入るという点だろう。


今しがた行っている湯浴みや身支度が済めば、私の中で最も苦痛、しかし、王太子妃として最重要任務を行なう期間に入る。


 今日から3日間、夫である彼と昼夜を問わず共に居ながら繋がりを持つ。

 私は今からその事柄に取り組まなければならないのだ。


 


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