第23話 覆いかぶせられた己③
“偽物が、本物になったならば…………”
悲しみに暮れる私の脳内に、ふと、ある考えが過った。
姿形を塗り替えられ、外見がリリア様になったように。
中身も、身も心も全て、本当のリリア様になれたのならば。
目下の問題が解決するのはもちろん、辛い人生が好転するのではないだろうか。
嫌悪感しかない相手に抱かれ、交合の問題点を観察されるという、屈辱的な“任務”からも逃れられる。
“ただ在るだけで魅了されると評判な美女”ならば、周囲からの目も好意的になるだろう。
なにより。
リリア様になれば、彼から想って貰える。
私を見て、瞳に優しい光を灯し幸せそうに頬を緩ませる。
そんな彼を目にすることができるのだ。
「……ふ、ふっ」
ああ、駄目だ。
ひどく受け入れ難い現実が待っているせいなのか、それとも、薬のせいか。
理由はわからないが、思考回路がおかしい。
すでに消し去った過去の夢、それが勝手に浮かんでくる。
綺麗に消したのに。
冷徹無情の夫など、見限ったのに。
私を愛して見て欲しい。
そんな想いが、なぜ、溢れ出てきたのだろう。
まさか。
消せたと思っていただけで、心の奥底では、希望や想いを諦めきれていなかったというの?
あり得ない戯言。
愚直すぎる考え。
けれど。
私は見たくなってしまったのだ。
幸せな夢を。
束の間の現実逃避として、非現実的なものを見たくなったのだ。
過去、何度も何度も、思い描いていた“幸せ”な夢を。
『愛している』
彼から想われる。
優しい眼差しを向けてもらえる。
『麗しさをお持ちの素敵な女性だ』
『いつも頑張っていらっしゃるものね』
『我々の見本となる、素晴らしい人だ』
周囲から、好意的な対応を受ける。
『――――』
私の存在を求める人がいて、私を想ってくれる人がいて、己の居場所が存在する。
今と比べ物にならないくらい、幸せな世界。
それを想うと、例え想像でも心が救われていく。
それは、“私”では叶わないが、私でない人間になれば叶うこと。
死ぬ事ができないならば、誰かや何かに成り代わるしか道はない。
“私”でなくなれば、私は幸せになれる。
それができるのならば。
私は、――――になりたい。
――――になれば、幸せになれる。
そうなる事が、私の中では“みえている”のだ。
――――になりたい。
――――になれたならば………………………………
有り得もしない世界。
それを想像しながら、私は静かに目を閉じた。
同時、透明な雫が閉じた瞳から溢れ出る。
眼下から頬、そして口元へ。透明なそれは、ゆっくりと流れ落ちていった。




