第22話 覆いかぶせられた己②
※交合を示す内容が、少しだけあります※
私の人生とは、一体なんなのだろう。
貴族社会、伯爵や王太子妃という地位。
望まぬそれらを強要され、王太子妃に相応しい人物になるべく、神経を擦り減らす日々。
求められる“完璧な王太子妃”は、自分の意思や気持ちを押し殺し、常に気を張り続けなければ成り立たない。
ゆえに、この10年間。
心休まる時など、私には絶無だった。
心身が悲鳴を上げない日は無かった、10歳からの8年間。
常に要求される、“完璧な王太子妃”の振る舞い。
誰1人味方がいないという環境下で知った、孤独感。
失望、周囲の敵意や悪意から芽生えた、恐怖感。
逃れられないと知った事で感じた、失望感。
それらに晒される毎日は、辛く苦しい日々でしかなかった。
そのような中で訪れた、彼の妻になれるという希望。
辛苦の日々から解放される。
やっと、幸せな人生を送ることができる。
そう歓喜したにも関わらず、それは結局ぬか喜びに終わった。
彼の私への優しさや想いは、演技だった。
何故か酷い嫌悪を向けられ、視線すら“私”に一度も合わせてくれない。
それでも。
最後の拠り所と言える彼を、簡単に諦めるわけにはいかなかった。
強く心惹かれた彼に、私を愛してもらいたい。
愛し愛される、幸せな夫婦関係を築きたい。
そう願い、相手を想いながら、自分にできることを最大限行った半年間。
その努力の結果といえば、希望が絶望に変わる様を味わうこと、だった。
多くの衝撃的な事実。
それを受けたことから酷い絶望感を抱き、バーンアウトを起こす事態にもなったが、この生活からは免れなかった。
これが、自分の運命。
そう受け入れざるを得なかった私は、逃れられない運命に対して奮励し続けた。
希望が全く見出せない中、自分のやるべきことを真摯にこなしてきた。
その結果が、今ある状況………………。
『冷徹な魔女』
『卑しい心根を持つ成り上がり者』
『横暴な女狐』
『お高く気取ったお姉様』
『同じ場所にいるの、辛い』
完璧な王太子妃であろう、自分を犠牲にしてでも大切なものを守ろう。
そう努めているだけなのに、悪評や悪印象ばかりが増えていく。
王族からは、“もの”扱い。
大切に想っていた家族からも、私は想われていない。
父は私に王太子妃であることを求め、弟妹からは疎まれている。
夫である彼は、私に酷い嫌悪感を向け続け、どこまでも無関心でいる。
挙句、情すらわかない“もの”と認識されていた。
なぜ、このような状況に?
私の努力、それが足りないのだろうか。
だから、何一つ報われない結果になる、と?
………………………………いいや。
そんなことは無いはずだ。
苦悶ばかりの中、逃げることはせず、私は1人、必死に血の滲む努力をしてきた。
家族や夫を想い、完璧な王太子妃であるべく、長年、身を粉にしてきたのだ。
子を成せないのは、私のせい?
本当に?
問題は、交合の在り方にあるのではないだろうか。
数分の、1年間で十指に満たない程の行為。
そんな交わりしかしない彼に合わせ、私は“任務”の苦痛に耐えてきた身。
それなのに。
子を成せないなら価値がない、失望させるなと釘を刺されたのは私だけ。
懐妊できない原因は私だと判断され、非情な任務を言い渡された。
そうして。
リリア様の姿で嫌悪感を抱く相手と交合するという、自尊心を損なう任務をせねばならなくなった。
「ふ、ふ、」
乾いた笑い。
それが、口から独りでに漏れ出てくる。
現状を踏まえて、私は思う。
全てを投げ出せるならば。今こそ、それをしたい、と。
しかし。
身を投げ出せる窓も、自死するためのものも、この部屋には存在していない。
なにより。
薬の影響で、体に力が入らず、意図した通りに身体が動いてくれない。
にもかかわらず、意志や意識は明確にあり、この先の“任務”を嫌でも記憶しなければならない。
自由に動くこと、自尊心を守ることすら許されない。
そんな状況になってしまっている。
「ふ、ふ、ふ」
どんなに努力を重ねても、何一つ報われない。
辛い事や嫌な事から逃げたくても、逃げることすら許されない。
誰からも“私”を思われることはなく、“私”の居場所はどこにもない。
私が私であろうとする程に、傷ついていく。
“もの”や“悪者”扱いを受けながら、この先ずっと、“完璧なもの”として存在しなければならない。
この地獄は、一体いつまで続くのか。
――――ぽとり。
崩れ落ちた身体が力無く載っている、赤い絨毯。
そこに、小さな染みができあがる。
「っ」
どうして。
どうして、辛いことしかないの?
いつだって孤立無援。
どんなに努力しても、1つも報われない。
身体を自由に動かすことも、自尊心を持つこともダメ。
“もの”扱い。
ずっとずっと、辛くて苦しいだけ。
そんな人生なのは、なぜ?
「……うぅ……」
私は、貴族でありたいなんて望んでいない。
王太子妃に、なりたかったわけじゃない。
高価な物らを身につけたいわけでもない。
大好きな人、大切な人達と、幸せに暮らしたかっただけ。
どんなに辛くても、懸命に頑張ってきたのは、そう在りたかったから。
大切な人に、想われたかった。
それだけなの――――――――――
お読み下さり、ありがとうございます✩︎⡱
転換部分を続けて投稿したいため、②で終わりの予定を、次回まで続く形にさせてもらいました。
(予告と違って、すみません……)
次回は、2話連続更新いたします。
ご興味あります方、引き続き、よろしくお願いします✩.*˚




