幸か不幸か
リリコはクローゼットの前で悩んでいた。
さすがに王様の前で下着姿はまずい、リリコにも一端の脳みそがあった。
「おい、お前。どれ着りゃいいと思う?」
「・・・・・・」
「だんまりかよ、冷たいねぇ」
リリコは見張りの男に無視されたが、特に気にせず錆びた鉄のような赤のドレスを手にとった。
着替えて鏡台の前に座る。
「リリアナ、還ってくるなら今なんじゃないか?お前はそれでいいのかよ」
もちろん鏡の中の女は応えない。
馬鹿らしい、ふっと笑ってブラシで髪を梳かす。
騎士らしき者二人に付き添われ、謁見の間に通される。
裁判所みたいな所じゃないんだなぁ、とリリコはキョロキョロと辺りを見回した。
何故かたくさんの人がいて、リリアナの父母も肩を寄せ合い佇んでいた。
母の目には涙が滲んでおり、ハンカチを握りしめていた。
なんか知らんけど父母の前で処刑?すんのかよ、趣味悪ぃな、とリリコは憤慨した。
「リリアナ・ラドック、何故ここに呼ばれたかわかるか?」
高い位置にある豪華な椅子に腰掛けた王様らしき男に問われ、リリコは頷いた。
座る男の横には金髪男といけ好かない男とミナと呼ばれる女が立っていた。
リリコはいけ好かない男とミナを顎でしゃくり
「そこの女をいじめたとか」
と答えた。
「異論はないか?」
「ねぇよ。好きにしろや。これ以上、リリアナを苦しめるな」
「貴様!陛下に対して不敬だぞ!」
いけ好かない男が大きな声を出す。
それを、かまわぬと座る男が制した。
「陛下、私から一つ提案がございます」
金髪男がかしこまって言う。
「リリアナ嬢の罪は全てここにいるミナ嬢一人の証言で成り立っております。ここは一つどうでしょう、裏付け証拠を募りたいと思います。お集まりの紳士淑女の皆様!事件を目撃した方はいらっしゃいませんか?」
「なっ、兄上!何を言う!被害者のミナが泣きながら訴えたのだぞ!これ以上ない証拠ではないか!」
リリコはじっと前だけ向いていた。
「わ、私見ました!リリアナ様がミナ様に婚約者のいる殿方にみだりに触れてはいけない、二人きりで話してはいけないと注意されておりました。けれど、それは貴族の令嬢として当然のことです。ミナ様は距離感がおかしいと思います」
「僕も見ました!二階の教室から中庭を見ているとミナ嬢が来て自分で噴水に入っていきました!その時は意味がわからなかったけど、今ならわかる!リリアナ嬢に突き飛ばされたというのは嘘です!」
僕も見た、私も見た、リリアナ様はそんなこと言っていない、その時間リリアナ様はどこそこにいた、出るわ出るわリリアナ擁護発言ばかり。
金髪男は青くなっているいけ好かない男とミナを冷めた目で見る。
リリコは何も言わず背筋を伸ばしただただ前を向いていた。
「リリアナ嬢、此度の愚息のしでかしたこといくら詫びても足りぬ。本当に申し訳なかった」
座る男がリリコに言う。
「で?」
座る男も金髪男もその場にいる全員が目を剥いた。
「だからなんだよ。リリアナはもう消えたんだよ。今更、みんなが庇ってくれたって遅いんだよ。お前、許されると思ってそんな高いとこから座ったままで謝ったんだろ。馬鹿の親も馬鹿なんだな」
リリコはリリアナの父母に向かって歩く。
「リリアナの父ちゃん、母ちゃん。リリアナの心はこいつらに殺されたんだよ。形はリリアナだけど、中身はリリコなんだ。だから、あんた達のリリアナにはなれない。ほんと、ごめん」
リリコはポロリと涙をこぼし寄り添う父母を抱きしめた。
リリコでいい、リリコがいてくれればそれでいいと父母は泣いた。
「リリアナ・ラドック、此度の仕儀に至ったこと全てそなたに非はない。我が愚息とそこの女を牢へ。王家を謀った罪は重い」
父母は国王が全て話終わらぬうちに早々にリリコを連れて謁見の間を後にした。
どうでも良かったからである。
帰りの馬車でリリコは眠ってしまい翌日まで目を覚まさなかった。
大きな寝台で女が目を覚ます
「あ・・・れ・・・?」
目覚めたのはリリアナか、リリコか・・・
さてどちらだったのだろう。
« おしまい »
最後まで読んでくださりありがとうございます。
ふとタイトルの長い話を書いてみようと思いたち、やはり自分にはネーミングセンスが無いなと再確認できました。
後悔はしていない(キリッ
またどこかで見かけたらよろしくお願いします^^*