枢木恵介の巻①
――春、入学式。桜の花を踊らせる風が、僕の背中を押した。そうして1歩踏み出した先には、必ず、きっと、多分、とんでもなく素晴らしい青春が待っている……はず?
「絶対……!絶っっっ対に彼女を作ってやるぞおぉお!!!」
僕の名前は枢木恵介。今年度から都内にある、私立林堂高校に入学ることになった絶賛彼女募集中の15歳。
ここはその昔、「漢の中の漢、紳士の中の紳士、つまり男の紳士の中の漢」を輩出すべく創立された男子校。授業カリキュラムも通常の科目に加え、紳士の振る舞いや男としての在り方を教える教科もあるのだとか。それ故にここに入学すると95%もの生徒が交際できるようになるほど男として磨きがかかるという。さらには交際が校長先生に認められた場合、その年の学費は免除!(どこからそんなお金出てるの?)というので、周りから大注目されている激アツの男子校なのだ!
ここに入学が決まったなら女の子と交際できるのは火を見るより明らか!僕のバラ色青春ライフが……グエッ!
前のめりになり、思わず地面に手をついた。背中に誰かがぶつかった。
「あ、ごめん。じゃ」
そう言い放った彼の背を、宙を舞う桜の花びらが追いかける。背の高い、容姿も整った、まさに女子にモテそうな、この学校に入るべくして入ったような……
「……ってちょっと待たんかいコラーーー!!!」
彼が足を止めた。
「人にぶつかって倒させといて『ごめん。じゃ。』で済ませて普通そのままその場を去るか!?ガッツリ倒れてるんだぞ!?『大丈夫?』とか!『怪我してない?』とか一声かけんかーい!!!」
踵を返し、黒いローファーがこちらに近づいて来るのが見える。そのまま僕の目の前まで来ると、彼の右手が動くのが見えた。
(えっ嘘……殴られる……!?)
と思い身構えたのもつかの間、振りかぶった彼の右手は僕の頭に優しく触れた。
「花びら、乗ってるよ」
そう言って花びらを取ったあと、くるりと向きを変えまたさっきのように歩き出した。
「ハ、ハアアアアァァアア〜〜〜〜〜???」
これが彼との初めての出会いだった。