馬鹿殿下は懲りないようです
45話
その日お風呂から上がって部屋に帰ると待っていたのはユカとチヨだった。
「兄さん今日はうちらやで。」
「兄様、お待ちしていました。」
そういって出迎えてくれた2人は普通の寝巻だったので安心した。
「今日はユカとチヨちゃんなんだね。まあ先ずは風呂上がりの一杯でもどう?」
そういってフルーツオレを出してあげた。
「兄さん、これまたあかんやつや。」
「美味しいです。」
特製のフルーツオレは甘味の少ないこの世界では人気間違いなしの一品だけど世に出すことはできない。
「そうだろう、そうだろう、こいつは最高だろう。」
「ほんまに悪い兄さんやで。うちもう兄さんから離れられへんようになってまうわ。」
「チヨは未知の世界に足を踏み入れてるです。」
「ふっふっふ。まだまだこれからだよ。ところで2人にはこれをあげよう。」
そういってこの前アルカディア王の別荘で手に入れた経験値の書を渡してみた。
「兄さんなんやこれ。」
「これは経験値の書っていうアイテムなんだけど、2人はレベルが低いから使ってみるとレベルが上がると思うんだ。使い方は使うって念じれば使えるはず。」
そう言うと2人はさっそく使ってみたようでそのまま倒れてしまった。
鑑定するとユカはレベルが25にチヨちゃんはレベルが27に上がっていた。
一気にレベルが上がると負荷がかかるので慣れないと気を失ってしまうのだ。
倒れてしまった2人をベットに運んで布団をかけてあげる。
もう一つのベットに入って寝る準備に入る。
なんか一人でドキドキせずに眠れるのが久しぶりに感じた。
『残念だわ』ってティピが言っていると
『マスター私が今日は眠らせてあげるです。』
ってライカが電撃を放とうとしてくる。
「ちょっと待った。ライカ今日は大丈夫だから。」
『せっかく練習したのに残念です。』
「また機会があれば頼むから。今日はゆっくり眠らせて。おやすみ。」
『おやすみなさい(です)。』
危ない危ないあんな電撃くらって眠るのは流石に勘弁してほしいものだ。
次の日、まだダウンしている2人の世話をカティアに任せて、一人でアルカディア王の別荘へとやってきた。
目的はシルバータイガーを倒しての皮集めだ。
もうすぐ冬がくるので毛皮で装備を作ろうと思ったからだ。
何回かボス部屋に行って皮を回収する。
皮は10枚くらい集めたのでアルカディア王の別荘を出ると昼を少し過ぎたくらいだった。
別荘を後にして学園方面に向かって歩いているとアンジェリカさんがこっちに歩いてきた。
「やあ、アンジェリカさん。どこか行くの?」
「ミナト様、丁度探していましたの。」
「そうでしたか。それで何の御用でしょうか。」
「明日が終業式で学園は午前で終わりですの。それでよければこれからデートしませんか。」
「もう用事もないですからいいですよ。でも明日の準備とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですわ。」
「そっか、アンジェリカさんはもうお昼は済ませたの?」
「まだですわ。」
「じゃあどこか眺めのいい場所でお昼にしようか。」
「それでは学園の屋上に行きませんか。あそこからだと都市が一望できますわ。」
そういってアンジェリカさんは俺を引っ張っていく。
明日が終業式のためか学園に人の姿はなく、屋上まですんなりと行くことができた。
屋上ももちろん誰もいないのでどこでも座り放題だ。
都市が一望できる柵の方にシートを敷いて座る。
アンジェリカさんを手招きで呼んでからイベントリーからサンドイッチを取り出していく。
アンジェリカさんがこっちに来て靴を脱いでシートの上に立った時、風が吹いた。
フワッとアンジェリカさんのスカートがめくれてピンク色の下着が見えてしまった。
すぐにスカートを押さえて顔を赤く染めて「み、見ましたか。」って聞いてくる。
「ごめん。見えてしまいました。」
「わ、忘れてくださいませ。」
こんなに可愛い顔するアンジェリカさんをいたぶってたあの王子は馬鹿だな。
アンジェリカさんも座ったので「どうぞ食べてくださいね。」と言いながら飲み物を用意する。
「いただきます。」
2人でのんびりとサンドイッチを食べる。
「ラーメンも驚きましたけど、このパンもすごく美味しいですわ。ミナト様はすごいんですね。」
「そんなこともないですよ。多少知識があるだけですよ。」
「でもリリスさんとリリイさんもエルウッド王国にも今までこんなものはなかったとおっしゃってましたわ。」
「たまたま運が良かったからできたことですよ。」
「そんなに謙遜されなくてもいいですのに。私なんか何もできずにただ殿下に殴られているだけだったんですから。」
「アンジェリカさんの方が立派ですよ。十何年も耐えてこられたんですから。普通そんな環境下に置かれたらもっと卑屈になっていてもおかしくないですよ。」
「女として以外は侯爵家の人間として努力を重ねてきたと自信をもって生きてきましたわ。そうでないと殿下の行為に耐えらえなかったですから。」
「やっぱりアンジェリカさんは立派ですよ。」
「でも女としてはこんな傷だらけの身体で自信はなかったんですのよ。でもミナト様があの時、私の身体を見て綺麗だと言ってくださったので自信を持てました。」
そんな風に言われると可愛すぎてギュッとしたくなってしまうがここは我慢だ。
「そしてリオン殿下がミナト様の婚約者にとおっしゃってくださったときは嬉しかったんです。でもミナト様には迷惑かもしれませんけど。」
「そんなことはないですよ。ただリーナとのことがあったので、彼女が嫌がるなら断るつもりでした。そのことは謝っておきたい。」
「それは大丈夫ですわ。どこの国でも本妻を大事になさるのは当然ですわ。でもこうしてお付き合いくださるということはリーナ様も許してくださったんですよね。」
「それは大丈夫だよ。でもホントにアンジェリカさんはいいんですか。俺は貴族でも王族でもないんですよ。だから俺の嫁になってもいいことはないかもしれませんよ。」
「それこそ心配いりませんわ。爵位なんてなくても気になりませんわ。それにミナト様はみんなを大事にしてくださるでしょうから。」
「それは保証しますよ。必ずみんなを幸せにしますよ。」
サンドイッチも食べ終わりデザートにクッキーと紅茶を出す。
「これもとても美味しいですわ。」
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。それにしてもここはいい眺めだね。」
「ですわね。いつもは学園生でいっぱいですわ。それも学園でくっついたカップルで。」
「そうなんですね。じゃあ今日は2人で独占出来て運がよかったですね。」
「そうですわね。」
2人でお茶をしながら景色を楽しんだ。
「ミナト様にお願いをしてもいいですか?」
「いいですよ。なんですか?」
「婚約者として扱ってくださるならキスしてくれませんか。」
そう言って顔を前にしてきたので、そっと彼女の顔に触れてキスをした。
唇が離れるとお互いに恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ミナト様ありがとうございました。これからは私のことはアンジェと呼び捨てにしてくださいね。」
「わかったよアンジェ。アンジェも2人の時はミナトと呼び捨てでいいよ。それとこれを渡しておこう。」
そういって気鉱石(青)のついた首飾りをつけてあげる。
「ところでアンジェはオーラは扱える?」
「ふがいないですができませんわ。オーラを扱える方は学園でもごく1部ですのよ。」
アンジェを鑑定してみるがレベルは20ほどなので覚えれば使えるだろうと思うので教えることにした。
「じゃあ教えてあげるよ。その首飾りもオーラが使えると何回も使えるから。」
「よろしくお願いしますわ。」
「普通に教えるのと、特別なほうとどっちがいい?」
「では特別なほうでお願いしますわ。」
「わかったよ。じゃあ目をつむってくれるかな?」
目をつむったアンジェにキスをしてオーラを流し込んでいく。
オーラが全身に廻ったのを確認して唇を離す。
「今全身に廻っているものがわかるかな。」
「はい、あたたかいものを感じますわ。」
「それを保つことを意識してみて。きつくなったらやめていいから。」
「やってみますわ。」
「それを維持するために自分の中から引き出していくんだ。」
しばらくしてオーラが消えてしまった。
「ハアハァ。きついですわね。」
さすがに1回では無理かな。
「休憩しよう。次は自分でやってみるといいよ。今後しばらく練習してみて。」
「頑張りますわ。」
そのまま練習している間にいい時間になったので解散することにした。
次の日、学園の終業式も終わったのでエルウッドに帰ることにする。
メンバーはリーナ、カティア、プリシア、レイン、ミレイヌ、ユカ、チヨちゃん、シズクさん、リリスとリリイ、アンジェリカ、メリッサさん、ムサシさんだ。
馬車は2台で御者はムサシさんとシズクさんが勤めてくれる。
「では行くでござるよ。」
そう言ってムサシさんが馬車を出発させる。
出発して数時間で尻が限界に達してしまってそこからは我慢を強いられた。
日が暮れたころ適当なところで馬車を止めて野営することにした。
馬車から解放されて喜びながら夕食を作る。
小屋を出して女性陣は小屋で眠ってもらいムサシさんと俺で交代で見張りをする。
「ムサシさんは手慣れていますね。」
「拙者護衛任務も多いのでこういうことは仕事柄慣れてござるよ。今回はミナト殿が旨い飯を作ってくださるからいいでござる。」
「普段の護衛では食事はどうなっているのですか?」
「仕事の時は大体干し肉があればいい方で、硬いパンを水で流し込むだけが多いでござるな。」
「それはきついですね。耐えられませんよ。」
「ミナト殿のようにアイテムボックスと料理の腕があればそんなこともないでござろうが。拙者もアイテムボックスは持っているが料理は出来ぬゆえ。」
「でもアイテムボックスなら料理したものを入れておけば、普通に持ち歩くよりはかなり日持ちしますよね。」
「それはそうでござるが拙者だけがそうするわけにもいかないでござるからな。貴族というのはめんどくさい輩が多いでござるよ。では先にミナト殿が眠ってくだされ。」
そういわれたので先に眠らせてもらう。
3時間くらいで起きて交代する。
朝方、鍋を火にかけてスープの準備をする。
しばらくしてみんなが起きてきたので朝食にする。
「ミナト君がいると旅も快適になるわね。」とメリッサさんは喜んでいた。
朝食が終わったら出発である。
そして始まる苦難の時間。
昼休憩も終わり順調に進んでいると思われたころ馬車が急停車した。
そのせいでバランスを崩して前に座っていたレインの胸に突っ込んでしまった。
「ごめん。レイン。」
「いいですよ。ミナト様は大丈夫ですか。」
「大丈夫。」
そう言って立ち上がると外から「アンジェリカ出てこい。俺と帰るんだ。」という声が聞こえてきた。
窓から外を見ると例の馬鹿殿下が数人の冒険者を連れていた。
出ていこうと思ったがムサシさんが拙者にお任せあれと言って御者席から降りていった。
「アンジェリカが出てこないなら皆殺しにしてやる。」
「落ち着くでござるよ。ここにアンジェリカというものは乗ってないでござる。」
「噓をつくな。乗っているのはわかっているんだ。出てこないとこちらのAA級冒険者が馬車に襲い掛かるぞ。」
「困ったでござるな。」
そのやり取りを聞いて出ようとするアンジェリカを留める。
すると後ろの馬車からメリッサさんが降りていった。
「相変わらずうるさい殿下ねぇ。邪魔だから通してくれないかしら。」
「たとえ学園長でも隠すと容赦はしないぞ。早く出てこいアンジェリカ。」
震えるアンジェリカをギュッと抱いてあげる。
「ムサシさんとメリッサさんに任せておけば大丈夫だから。」
「はい。」
わめき続ける殿下にメリッサさんがきれた。
「ガタガタうるさいのよ。いないって言ってるんだから黙りなさいクソガキが!」
「そうでござる。いい加減かかってくるならこいでござる。」
「俺は偉いんだぞ。もういいお前らあいつらを皆殺しだ。そして最後に馬車から引き吊りおろして痛めつけてやるさ。」
馬鹿殿下の声で冒険者たちが襲い掛かるがメリッサさんとムサシさんにかなうわけもなくあっさりと全員が倒れた。
「実力差もわからぬとは情けないでござる。」
「ほんとやんなっちゃうわ。」
「な、なぜだ。AAランクの冒険者だぞそんなにあっさり倒せるものか。おい起きろ。」
わめく殿下にムサシさんが殺気を放ち殿下の首に刃をそえる。
「拙者、こうみえてSSランクでござるよ。死にたくなければ諦めるでござるよ。」
殺気をあてられた馬鹿殿下は失禁しながら失神したようだ。
そんな情けない殿下を見てアンジェリカも安堵したみたい。
その場に殿下を冒険者共々放っておいて馬車は出発したのだった。
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