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74話 大所帯

 誰かの【分体】が降りてくることもなく一夜明けた、ルルブの森引き籠り生活5日目。


 昨夜は【神通】の後ビクビクしていたものの、なんとか無事朝を迎えることができた。


 何事も無かったということは、たぶんリアがしっかり事情を説明してくれたということなのだろう。


 どうも口下手というか、たまに会話のポイントがズレるので不安は残るが……


 そこは今気にしてもしょうがないし、変わらず魔物討伐に邁進するとしよう。


 といっても今日はどこを攻めるか、ここで俺は少し悩んでいた。


 4日目終了時点でセイル川の東側500メートルほどは、森の入り口から今いる拠点あたりまでをほぼほぼ殲滅させたと言っていい。


 なのでこのまま奥に入るか、それとも川の西側に着手するか。


 どちらを攻めてもメリットとデメリットが存在するので悩みどころである。



 もしこのまま川の東側を攻めた場合、とりあえず真っ先に言えるのは俺の移動が楽。


 これが何よりのメリットになる。


 風呂作りのためにも早急にこの近辺の魔物は討伐しておきたいところなので、このまま東側や拠点周りを殲滅すれば、フィーリル様が来る前に風呂の準備も整いやすくなるだろう。


 ではデメリットは? というと、これは俺じゃなくアルバさん達が、ということになるな。


 奥へ入るほど安全地帯の草原からは遠ざかるわけだし、魔物が川を渡って東に入り込んでくる可能性も当然あり得る話だ。


 そうなるとセイル川の西側を放っておけばおくほど、殲滅したつもりが実は結構な数の魔物がうろついてましたなんてことになりかねない。


 ロッカー平原の入り口を綺麗に狩っても、翌日にはどこからか多少は魔物が移動してきていたので、魔物の行動範囲はそれなりに広いと思っておいた方が良い。


 現在何人くらいで素材回収をしているのか。


 あれから会っていないので、アルバさん達が自衛できるのか不安というのが、東側をこのまま攻めるデメリットと言える。



 そして西側を攻める場合は、今挙げたデメリットがそのままメリットに切り替わる。


 セイル川の西側も殲滅すれば川を渡る魔物が激減するだろうから、アルバさん達の素材回収はより安定するだろうし、まだまだ安全地帯に近い位置で素材回収をすることも可能になるだろう。


 ただし俺は拠点から遠い。


 といっても1km程度なので遠いうちには入らないが、それでも効率という点で言えば若干落ちることは否めないし、何より風呂の安全対策は遅延する。


 あとは俺の『領』に対しての知識不足から来る不安だ。


 以前アマンダさんは、セイル川が領を隔てていると言っていた。


 つまり今いる俺の拠点も、厳密に言えば川を挟んだ先の土壁に作っているので、ベザートとは別の領土ということになる。


 まぁこんな人がまったくいないところなら、何も問題の起きようがないと分かっているから安心できるが、他領の魔物を狩りまくっても問題無いのかどうか。


 ここら辺がよく分かっていないわけだ。


 正直俺も、そしてアルバさん達も全員ハンターだ。


 ハンターは国に属さないので、さらにその中の領となれば十中八九問題は起きないだろうと思っている。


 逆に魔物の数を大きく減らせば感謝されるかもしれないくらいだ。


 ただトラブルが起きると面倒くさい上、俺だけじゃなくアルバさん達に迷惑を掛けるかもしれない。


 これが川の西側を森の入り口から狩るデメリットになる。



(うーん、そろそろ一回会って相談してみるかなぁ……)



 人を巻き込んでの計画を立てたのは俺自身だ。


 なら今後の予定も皆で決めていくしかない。


 そう思った俺は、11時くらいになったら一度森の入り口へ向かってみようと決め、今日の狩りを開始した。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





(ん~? 見たこと無い人達だな……9人か?)


 既に殲滅の終えた場所を森の出口に向かって走っていると、すぐに面識の無い集団が解体している姿を遠目に見かけた。


 全員が籠を背負っているところを見れば、アルバさんやミズルさん達が勧誘したであろうパーティというのが一目瞭然だ。


 こんな分かりやすい判別もないなと、思わず苦笑いしてしまう。


(他の人達が近くにいる様子はないがー……まぁいっか)


 そう思って近寄り声を掛けてみた。


「すみませーん。アルバさんやミズルさんに誘われた人達ですか?」


 するとその団体さんは一瞬ビクッとするも、俺を見てすぐ表情を和らげる。


「あぁそうだ。君がもしかしてロキか?」


「えぇそうです。今日は既に殲滅した場所がどうなっているか様子を見に来たんですけど……アルバさんやミズルさんは来てますかね?」


「今4()()()に分かれていてな。アルバやミズルは一番東側を北に向かいながら素材回収しているはずだ」


「4部隊!?」


 もっと誘ってみたらと言ったのは俺だが、随分と規模が大きくなっている気がする。


 たぶん、今目の前にいる人達で1部隊なのだろう。ということは――30人以上になっているのか?


 おいおいおい……俺が倒した素材で足りてんのかよ……


「ち、ちなみにちゃんと儲かってます?」


「あぁ凄いぞ! 最初誘われた時は冗談かと思ったが……本当に感謝している」


 そう言われて目の前の大人達に頭を下げられると、なんともくすぐったくなってくるな。


 まぁ思ったより稼げないとか文句を言われても困ってしまうし、儲かっているようなら一安心だ。


「それは良かったです。ちょっと調整というか、これからアルバさん達と相談してきますので、後で相談結果は共有しておいてくださいね!」



 そう言ってその場を離れた俺は、川沿いから東へ。


【探査】を使って魔物状況を確認しながら移動していく。


(ふーむ、やっぱり周囲30メートルに数体くらいはヒットしてしまうか。明らかに最初の時よりは少なくなっているけど、西、北、東からと魔物が入り込んでくるわけだしな。それに魔物の死体が大量に転がっているのも原因だろうなぁ……)


 俺が倒して魔物を放置し、素材回収された後の死体もそのまま放置される。


 ポイズンマウスが共食いしている光景を見ているので、魔物が魔物の肉を求めて寄ってくるなんてこともあるだろう。


 そうじゃないと、あれだけいる魔物は何を食っているんだ? という話になってしまう。


 しかしだからといって魔物の死骸撤去は現実的ではない。


 1体2体ならまだしも、散らばった死体は数百体という数になるので、この状況を踏まえて素材回収を進めていくしかないだろう。



 道中、別の部隊が素材回収しているのを横目に見ながらさらに東へ進んでいくと、10人規模の団体が魔物と交戦している姿を確認する。


 その中には見知った顔が複数人――


 ここが一番東側を担当している部隊ということで間違いないっぽい。



「こんにちは~大丈夫ですかー?」



 すると声で判別できたのか、振り向きもせずに戦闘中のアルバさんとミズルさんが返答する。



「むっ? ロキか!」


「面倒くせぇが大丈夫だ。あー……でも援護してくれると助かる!」



 どっちだよ! と内心突っ込みつつも交戦している魔物を見れば、オークが1匹にスモールウルフが4匹。


 おまけにリグスパイダーが1匹宙に浮いており、傍らで一人のハンターが【粘糸】の餌食になったのか、グルグル巻きにされて地面で芋虫みたいになっている。


(すげっ! リグスパイダーに捕まるとあんな感じになるのか! でも……男のベトベト姿はまったく見たいものではないな)


 咄嗟に本音が出てしまったので頭を振る。


 相手取っているのはハンターが9人か。


 確かに倒せはするんだろうけど、言葉そのままに面倒くさいということなんだろう。


 ならとりあえず援護だ。


 そうしないと相談も碌にできない。


 交戦している魔物に向かって走り始めた俺は、ここでふと――こういう時のためのスキルがあることを思い出した。


(確か取得していたよな? えーと、えーと……)



【挑発】!



 未だに理由はよく分からないけど、なぜかロッカー平原で覚えられたこのスキル。


 まだレベル1のはずだが、これで魔物を引きつけられれば楽になるだろうと、オークを見据えながら初めての【挑発】スキルを唱えてみる。


 するとなぜか。



(ブッ!! スモールウルフもついてくるの!?)



 オークだけを呼んだつもりが、その横にいたスモールウルフが3匹もセットでついてくる。


 おまけに、いつもよりオーク達の目が血走り、殺気立っているようにも感じるんだが……? 何? おこなの? 激おこなの?


【挑発】って範囲スキルなのか? 視野を狭くするだけじゃなく、猛烈に怒らせてるような能力まで備わっているのか?


 その答えはサボっていたためよく分からない。


 ソロで動いていれば【挑発】なぞ関係無く魔物は全部自分のところに寄ってくるので、使うことは無いと今まで詳細説明すら見たことがなかった。



(まぁ、いっか)



 1体だろうが4体だろうが、今更どちらでも大差は無い。


 右手にショートソード、左手にナイフという手数重視のスタイルにすぐさま切り替え、先に到達するスモールウルフを迎え撃つ。



(ホイッ、ホイッ、ホイッ!)



 川付近でスモールウルフと交戦すれば、比じゃない数の波状攻撃が押し寄せてくる。


 3体程度なら朝飯前とばかりに切り伏せていき、最後にノソノソ走ってきたオークが振り回すこん棒を躱しながら、オークの膝を土台に飛び上がりつつ剣で首を一閃する。



 ゴロン……



(んー昨日あたりからやっと、オークの首も安定して刎ねられるようになってきたな)



 そんなことを考えながら残りの魔物を確認すると、どうやらあちらも終わっていたようで、皆が呆けた顔をしながら俺を見つめていた。


「は、初めてロキの戦闘を見たが……凄いな……」


「あー……すげぇとしか言えねぇ」


「……一人で4匹相手にしてヘラッとしてるって、どうなってるのかしら?」


「そこも凄いですが、魔物がロキ君に向かっていったのは何かのスキルですかね?」


「細かいことを気にしてもしょうがないだろう。俺達とは住んでる世界が違うんだ」


「さすがロキ神」


「「「「……」」」」



(……き、気まずい……)



 見せびらかすつもりなんて無いけど、援護を求められて魔物が寄ってきたんならとっとと倒すのが正解だろう。


 俺は悪くない! 悪くないぞ!!


「あ、あはは……それより、早くグルグル巻きにされている人を助けてあげた方が良いんじゃないですか?」



「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」



「……忘れられてたとか、ひっでぇ」


 周囲を警戒しつつ、総出で絡みついた糸を切ってもらっている男を眺めながら俺はそう呟いた。

誤字報告ありがとうございます。

それと感想欄を見ていて勘違いされている方が一定数いそうだったので、第2話の「加熱式タバコ」を「電子タバコ」に変更しました。

今後もストーリー上まったく支障がないレベルの細かい修正は必要と感じたらコソッとやっちゃいますのでご了承ください!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地図がほしい [一言] 地図がないから、何言ってるのか分からん。 ボクはこんな話思いつかないな。 おもしろくなるかは分からないけど、すごい
[良い点] これは良いシャイニングウィザード!
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