674話 3つのスキル
「お、おいここはどこだ!? 俺は何もしていない! 早く助けて――……」
「…………特に変化はないか」
逃げ場のない地下監獄――ヘルヘイムから拾ってきた人間を一人放り投げ、暫く様子を窺うも特に狂人化する様子がない。
それなら【伝染】の影響はもう引いたかと、いちいち気にも留めなくなってきた痛みを感じながら、死体となったウェンディゴの近くに降り立つ。
予想していた通りその身体は原型を留めておらず、3m近いと聞いていた身体はいくつかの焦げた肉塊になり果てていたが、今回は素材云々よりもこちらが無傷で倒すことの方が重要だったからな。
こればかりはしょうがないと思いつつ、肉塊から伸びた赤黒い爪に目を向ける。
流れてきたログには、爪に関係しそうなスキルが含まれていた。
となると、食人願望を発症させる能力はこの爪が原因か?
そう思ってステータス画面から確かめると、やはりというか、【狂爪】は魔物専用スキルの枠に収まっており、スキルの詳細を確認することはできなかった。
そしてその下には、先ほど入手した【伝染】も並んでいる。
「……」
元々食人の話を聞いた段階からこれは人の手に余ると感じていたので、これらのスキルが使用不可を示すグレー文字であったとしても、まあそうだろうねとしか思わない。
が、広域の範囲能力かと思っていたのに、蓋を開けてみたらゴリゴリの近接っぽいスキルが出てきたのだ。
そこがどうにも腑に落ちないというか、疑問が残るというか……
【狂爪】が俺の想像通りならば、ウェンディゴはこの爪で攻撃した者を狂わせ、その者が付近にいる者達を食らうことで、その効果が次々に【伝染】していったということ。
そう考えるとゾンビ的な恐ろしさは感じるものの、しかしそれだけで毎度狩場に居合わせたハンター達が壊滅するほどの被害を負うかとなると、そこまでの脅威ではないような気もしてくる。
「素早そうではあったけど、カーバンクルみたいに視界から一瞬で消えるような反応じゃなかったしなぁ……」
それなら運悪く全滅する時だってあるかもしれないけど、逆に遠距離職が先んじてウェンディゴを始末するとか、巧みな近接職がいなしている間にパーティで返り討ちにするとか、被害が軽微な時だってあってもおかしくないんじゃないのか?
カークスさんに情報提供を約束したこともあって、そんなことをぼんやり考えながら焦げた死体の一部を回収していると、ふと周囲に横たわる別の魔物の姿が目に入る。
俺が上空から手当たり次第に殺しまくっていたのだから、周囲に魔物の死体が散乱しているのは当然のこと。
しかしどうにも違和感が拭えず回収ついでに近づいてみると、まだ少し動きがあるその魔物は俺の黒玉を食らった魔物とは明らかに違う、鋭利な傷痕が残されていた。
しかもよくよく見れば、似たような傷痕を残した魔物がごろごろと転がっており、ここでああそういうことかと、ハンター達が全滅してしまう理由に納得する。
「こいつ、魔物を襲って感染させてたのか……」
ウェンディゴ一体なら対処できたとしても、次から次へと魔物が狂わせられ、その魔物がさらにハンター達を襲って感染させながらその数を増やしていけば狩場は相当混乱したのだろうし、もしかしたら効果が切れるまでの一定期間、【狂乱】のようにステータスが一時的に上昇されるのかもしれない。
それに――
――【雪嵐】――
唯一使用可能だった新スキル――【雪嵐】を使ってみると、ウェンディゴを始末したことで弱まっていた天候が急激に荒れ出し、再び雪が横殴りに吹きつけてくる。
ダメージを負うことはないが、視界が潰され数m先もよく分からなくなるので、こんなスキルを使われたら周囲にいる人間が感染しているのか判別もできず、余計に動きが後手に回って逃げ場を失うのだろう。
だが、範囲型ではなく近接主体ということなら俺にとっては好都合。
既に3つの新規スキルを取得できているのでさすがにないとは思うが、もしかしたらまだ他にも一度始末しただけでは取得しきれていないスキルを所持している可能性もある。
だったらもう、"吹雪"は自在に起こせるのだ。
できることなら、このままもう1度ウェンディゴを湧かし、直接スキルを覗く。
そのついでに何が切っ掛けでウェンディゴは湧いたのか。
より絞り込んで出現条件を割り出すことができれば、狩場を開放してもらった恩に報いることもできるだろう。
そう判断し、俺は魔力残を確認してから再び上空に舞った。











