672話 試行錯誤
一度《タイドウ雪原》を離れてから約10日。
日に3度は狩場の様子を確認しながらアイオネスト王国西部のマッピングを進めていると、深夜の時間帯にようやくそれらしい荒れた天候を目の当たりにする。
これくらいなら十分吹雪と言えそうだが、果たして封鎖されているのだろうか?
確認のため狩場の入り口に向かうと案の定だ。
隧道を抜けたすぐ先で見覚えのあるギルド職員が2名、暖を取りながら道を塞ぐように立っていた。
「こんばんは。今、狩場は封鎖中ということで間違いないですか?」
「あ、ロキ王様!? 仰る通りで狩場はただいま封鎖中ですけど、ジェネマスからロキ王様だけは通すように言われていますので……」
そう言われ、道を開けるように二人の職員が端に寄る。
そんな光景が古いゲームの記憶とリンクしてしまい、思わず苦笑いを浮かべながら礼を言って狩場の中へ。
そこで思い出したように振り返り、二人に忠告しておく。
「成功するかは別として、ウェンディゴを湧かすつもりで動きますので、できれば隧道の入り口の方に居てもらった方が安全かもしれません」
「……し、承知しました」
ここはまだ狩場かも怪しい場所だが、それでも俺の知らないところでお互いの身体を貪り食われても困るからな。
【夜目】を通してもほぼ暗闇という状況の中、まずは【発火】を使用し身体を温めつつ自身が光源となって狩場内を一通り飛び回るも、やはり"吹雪"というだけではウェンディゴの反応は捉えられない。
となると、まず試すべきはこれだ。
――【闇魔法】――『黒玉』――『魔物を殺せ』――
カークスさんは、記録に残されたウェンディゴの被害が全て数十人規模であり、町に被害はないと言っていた。
つまりウェンディゴが出現した時には、毎回その数のハンター達が狩場で活動していたということ。
となると、ハンターの数が多いことで満たせる条件など限られてくるわけで。
素材回収は後回しにし、上空を飛び回りながら魔物を殲滅していくも、【広域探査】にウェンディゴが引っ掛かることなく小1時間が経過してしまう。
「うーん……」
どう考えたって、並のハンター数十人がその日に狩る魔物の数くらいは始末したはずだ。
しかしそれでも湧かないということは、この吹雪ではまだ弱いか、もしくは希少種の出現条件はそこまでややこしい印象などなかったが、季節や時間帯、それに気温など、他の細かい条件にズレが生じているのだろうか?
そんなことを考えながらオート追尾する『黒玉』を放っていると、飛行中に一瞬だけ眼下を赤い光が横切っていく。
「……」
以前に散々追い掛け回したのだからすぐに分かる――あの光はカーバンクルだ。
そう理解したと同時に、ギルドの受付嬢が赤光を追える分、カーバンクルは夜間の方が狙いやすいと言っていたことを思い出す。
そして、まず間違いなく、『黒玉』の追尾速度じゃカーバンクルは倒せない。
つまりまだ、俺はここに来て、吹雪の中でカーバンクルを倒していない。
「多くのハンターがいないと出現しない条件……カーバンクルを始末するのも、一応その1つか」
実際どの程度の人数で狩っているのかまでは知らないけど、人を見たら逃げるカーバンクルを特定の場所へ追い込むべく、ある程度の数で抜けられないように囲うという話は聞いていた。
だったらしょうがない。
吹雪が続いているうちに雑魚狩りから狙いを切り替え、可能性のありそうな条件を当たっていくしかない。
そう覚悟を決め、魔力と体力の消耗も厭わずスキルを唱えた。
――そうして1匹目、2匹目とカーバンクルを倒していく。
2匹目はもしかしたら、古くから利用されているという特定の追い込み場所が重要なのではないかと思い、隧道の入り口近くに移動していたギルド職員から情報を得つつ試してみたが、言われた場所はなんの変哲もない、周囲を岩肌に囲まれた深い袋小路だ。
強引にそこまで追い込んでもウェンディゴが現れることはなく――
「やっと捕らえたか……」
念のため3匹目は【闇魔法】を使用し、袋小路まで追い詰めてから物理属性を持たせた魔法の網で捕縛。
目の前まで接近してから生け捕りのカーバンクルに直接触れてみたりと、試せることを試してから剣で薙ぎ払うも結果は変わらなかった。
「ふぅ~……もうそろそろ時間か」
分かってはいたことだが、やっぱり条件探しは多少のヒントがあったとしてもしんどいな。
これで逃げ惑う相手に対しての常套手段である遠距離ではなく、近接攻撃で始末したとしても駄目。
この辺りで俺にとっての最悪のケース――吹雪という条件下の中で活動する、狩場内の"人の数"がそのままウェンディゴの出現条件になっている可能性を考えてしまう。
ハンターの数が鍵になると思った時、この可能性も早い段階で浮かんではいた。
が、ここのハンター達を動員するなど、まず間違いなくカークスさんの許可が下りないだろうし、俺も守れる自信がないのでまったく巻き込みたいとは思わない。
もし本気で試すなら、救いようのない悪党共を100人くらい生かした状態でこの狩場に連れてくるくらいしかなく、その労力を考えるとどうしても二の足を踏んでしまう。
いくら可能性を秘めた魔物であっても、本格的に動くのは精々あと1日程度。
経験値はここで狩り始めてから1%も上がらないし、現環境では何をどうやっても湧かせられない可能性だってあるわけだから、そこまでこの狩場に時間を費やせないと。
他に可能性のありそうな条件を考えながら、周囲に散乱する魔物の死骸に目を向けた時。
「ん……?」
次第に弱まっていたように思えた風が、急激に強くなり始めたことに気付く。
それどころか、視界を白く染め上げる吹雪は狩り始めた当初よりも断然激しくなってきたことで、違和感からすぐに【広域探査】を使用した。
「――い、たッ……!!」
すると狩場の中央方面に待ち望んでいたウェンディゴの反応を捉え、突き抜ける激痛と共に激しく胸が高鳴る。
数か、時間か、それとも実は接近して始末したあの時に条件を達成していて、【広域探査】の範囲外で湧いていたのか……?
よく分からないが、そんなこと、この時点ではどうだっていい。
それよりも、今はこの激しい欲求に従い、満たすことが何より重要だ。
「ぐ、ひ……必ず、喰らって、やる……!」
そして俺は、迷うことなく転移した。











