670話 ごりっごりの全力
「へ~この手のスキルも存在していたんだな……」
【渾身】の詳細説明を開き、サイクロプスが繰り返していた妙な動きに思わず納得する。
【渾身】Lv1 発動後、1秒間の硬直時間が発生する代わりに、直後の攻撃動作に対して筋力値150%の上方補正を行う 魔力消費9
所々で固まったように動きを止め、攻撃のテンポをズラしてくると思っていたが、こいつがこの世界の"溜め攻撃"ってやつになるのだろう。
確かに発動直後はまったく身動きが取れず、飛行中に試すと硬直したまま強制的に落下した。
硬直の仕様は【不動】と同じだ。
ならばこの硬直時は、防御力が上昇していたりするのか?
そう思ってわざと群がるフェンリルに噛みつかれてみたが、そんなことはなく普通に痛くて涙が出たので、火力上昇の代償に1秒間無防備を晒すということで間違いなさそうである。
正直に言えば、リスクを取ってでも火力を上げたいような相手に対しての1秒はクソほど重いので、使う場面があるかどうかはなんとも言えないところだが……
――【硬質化】――
その1秒は同じ魔物専用スキルの【硬質化】で打ち消せるのだ。
加えて――
「やっぱり、かな?」
目の前で暴れるフェンリルの横っ腹に【剣術】スキルを使用して斬りつけると、先ほどよりも強い衝撃で分かれた身体が吹き飛んでいく。
サイクロプスも【踏みつけ】の前に硬直していたので、もしやと思ったが予想通りだな。
この上乗せは通常攻撃だけでなくスキルにも乗り、かつ攻撃性のない【硬質化】を挟んでも【渾身】の効果は持続する。
あとは――……
『【渾身】Lv2を取得しました』
『【渾身】Lv3を取得しました』
『【渾身】Lv4を取得しました』
『【渾身】Lv5を取得しました』
『【渾身】Lv6を取得しました』
『【渾身】Lv7を取得しました』
【渾身】Lv7 発動後、1秒間の硬直時間が発生する代わりに、直後の攻撃動作に対して筋力値240%の上方補正を行う 魔力消費21
スキルレベルの上昇に伴う硬直時間の増減はなし。
筋力値と魔力消費の上昇幅がどの程度なのかおおよそ把握できれば十分だろう。
となると、次だ。
改めて周囲に目を向け、カーバンクルの気配を探りながら素材価値が高いロック鳥を狩っていると、小一時間程度だろうか?
そのくらいで地上に1つの反応を捉える。
聞いていた通りだな。
カークスさんも2日に1度はハンター達が素材を持ち帰ってくると言っていたし、《パスマキア溶岩洞窟》のアダマントゴレームと比べれば出現率は各段に高い。
だが、ギルマスや受付嬢が口を揃えてキツいというのはここから。
このかなり広い狩場を舞台に、単身の俺がどう動けば逃げられずに仕留めきれるのか。
少し緊張しながら降下すると、早速接近する俺を視認でもしたのだろう。
止まっていた影が凄まじい速度で雪煙の中を移動する。
「はやっ……!」
それは今まで見てきたどの魔物よりも速く、下手をすれば裏ボスの"闇霧"が繰り出す攻撃に匹敵するのではないかと思うほど。
咄嗟に指電を連発して放つも空を切り、黒い影は瞬く間に視界から消え、1.6㎞ある【広域探査】の範囲からも外れていく。
「……」
正直に言えば少し舐めていた。
今までボスや裏ボス含め、それなりの数の魔物を狩ってきたのだ。
いくらすばしっこく、たまに現れては周囲の魔物を加速させる厄介者だと聞いていても、所詮はただのSランク魔物。
見つけさえすればどうにかできると思っていたし、この程度の時間で湧くならアダマントゴレームよりも全然楽くらいに感じていたが……
「は、はは……燃えるねぇ……」
――【闘気術】――
――【時魔法】――『自己加速Lv9』
痛みで全身が震え、チカチカと波打つ視界が明滅して呼吸が荒くなる。
まさかこんなところでごりっごりの全力を出すことになるとは思いもしなかった。
が、それはつまり、そうせざるを得ないだけの"面白い何か"を所持している可能性が高いということ。
だったらこの高揚、抑えられるわけがない。
――【広域探査】――『人』
チラリと、人の反応が広がる方角に視線を向け。
「ひっ、はは……死ぬまで追いかけっこの開始だ……」
俺は倒れ込むように激しく一歩を踏み込んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「おーい! 大変だー! ……って、お前らここで何やってんだ?」
一人の男が長く続く隧道を抜け、タイドウ雪原に現れる。
その男は普段からこの狩場に出入りするSランクハンターだったため、入り口付近で屯していた者達はすぐに反応を示した。
「なんだトロワか。今は中に入らない方がいいぞ。俺達もよく分かってねぇが、身の危険を感じて逃げてきたところだからよ」
「え?」
「急に狩場がおかしなことになってなぁ。たぶんカーバンクルなんだとは思うが……」
ハンターの一人が言い淀みながら視線を漂わせると、誰もはっきりとした答えが分からない中、それでも一人の女が渋面を作りながら状況を説明する。
「カーバンクル同士が鉢合わせて喧嘩でもしてんのかな……? そんな話、今まで聞いたこともないけど、狩場の中央辺りで複数匹が争ってるっぽいんだよ。あんな派手に動かれたら追い込みもかけられないし、激しく舞い上がった雪のせいで同じパーティの人間ですら見失いそうになったから、とりあえず避難してきたってわけ」
「……」
「で、トロワはなんか叫んでたけど、何しに来たんだ? お前んところのパーティは今日休みだろ?」
そう言われ、ジェネマスから依頼を受けていたトロワは我に返り、捲し立てるように先ほど告げられた忠告を口にする。
「あ、ああ、そうだった。大変だぞお前ら! 今日の昼前、うちのギルドに第五の異世界人ロキが現れたらしい。この狩場にも間違いなく現れるだろうから、余計なことしてくれぐれも揉めないようにって。ギルドは間違っても守れないし、調子こいて問題起こしそうなやつがいたら俺が先に始末するって、昔の鋼拳カークスん時みたいなガチもんの雰囲気で忠告を受けた」
「はぁ……!?」
「異世界人ロキって、マジで本物が来てるのか?」
「まあ各地の狩場を巡るハンターでもあるみたいだし、それならこのタイドウ雪原に来るのも当然の流れなんでしょうけど……」
「……待て待て。それじゃあ、もしかして――」
一人の男が言いながら狩場の方へ振り返るも、その言葉は途中で止まる。
奥地で地響きと共に山の斜面が爆ぜたことで激しく雪煙が舞い、その直後には見たこともない巨大な竜巻が立て続けに現れたことで、舞い上がった粉雪が天に向かって勢いよく吸い上げられていた。
白く轟くいくつもの巨大な竜巻と、この狩場ではそう見られることのない澄み渡った空。
その中で宙に浮く、小さな人影を目にしたことで、この場にいた者達は顔を見合わせ、おおよその事情を察した。
「おいおいおい……まさかさっきのは、カーバンクルの速度に張り合ってたのか……?」
「先ほどの光景を見るに、たぶんそういうことなんだろうな……つーか、どんな詠唱速度で魔法をぶっ放してんだよ……」
「速度もそうだが、威力も異常だ。はっ、あんな化け物に誰が喧嘩売るってんだよ……トロワ、さっきの忠告は狩場にいる俺達じゃなく、今日休みの連中に触れ回った方がいいぞ」
「あ、ああ……そうだな。お前達も他に狩っている連中がいたら言っといてくれ!」
そう言って再び走りながら町に戻っていくトロワの背中を眺めていると、ロック鳥が放つソレとはまるで規模が違う。
天から降り注ぐ幾百もの稲光が、この世の終わりかと思わせるほどの激しい雷鳴と共に大地に降り注いでいた。











