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666話 送り届けた先で

 場所はアイオネスト王国の南部に位置する、それなりに規模の大きな地方都市『ミスカトーナ』。


 複数の街道がぶつかるこの町の一角で、騒めく町民達に囲まれながら次々と収納していたモノを取り出していく。



「事前にユマ先輩の実家がある町まで行けていれば良かったんですけど、こんな中途半端な場所ですみません。ここがどこら辺かは分かりますか?」


「なんでロッキーが謝るの!? ここがミスカトーナなら馬の調達も楽だろうし、あとは北に7日か8日も馬車を走らせれば、私が住む公都『クロイセン』に着けるんだから感謝しかしてないよ?」


「あ、それくらいで着くんですね。ならまだマシな方か……」



 区切りのいいところで周辺の小国巡りを切り上げ、アイオネスト王国へ。


 そこからは手探りでユマ先輩の実家がある公都『クロイセン』を目指していたわけだが、大国というだけあって国土が広く、目的地に辿り着く前に時間切れ。


 お願いしていた複写の作業も終わったため、方面的には間違っていないだろうくらいの理由でこの町まで送り届けていた。


 しかも馬車を含む荷物と人だけだ。


 思っていた以上に護衛と従者の数が多く、とてもじゃないが馬車を牽く数十頭の馬までは一度に運びきれなかったため、先輩からの提案もあって馬は諦めてもらっていた。


 素人目で見ても良さそうな馬っぽかったけど、半年近い旅程の時間が短縮できるなら、その方が優先度は高いんだろうからなぁ……



「一応これで全部出しましたけど、念のために重要なモノが失くなっていないか確認してくださいね」


「ん~いつ襲われてもおかしくない長旅にそこまで重要なモノは持ってきていないから大丈夫だよ。それよりロッキーはこれからどうするの?」


「え?」



 何やら期待の籠った眼差し。


 嫌な予感がしつつも、予定していた考えを口にする。



「まずはこの国のSランク狩場に行ってみようと思ってますけど……」


「うんうん、その後は? すぐこの国を出ちゃうの?」


「いや、他の狩場も確認しておきたいので、一通りこの国を巡ってみて――」


「じゃあさ! クロイセンに寄ったら声掛けてよ。やっぱりちゃんとお礼がしたいし、それまでにばあ様とロッキーにどんなお返しをしてあげられるか相談しておくからさ」


「ええ……」



 なんでこんなウキウキしてるんだよ。


 まず声を掛けるって、それはユマ先輩の実家――公爵家に寄れってことだろう?


 どう考えても当主の婆さんが出てくる流れだろうし、本音を言えばこれ以上深入りはしたくない。


 少し離れた場所で荷物確認の陣頭指揮を執っているあの爺さんの貴族ムーブを思い返すと、5割……いや、7割くらいの確率で俺がブチ切れ、ユマ先輩の実家をもぬけの殻にした上で燃やしてしまいそうな気がする。


 といってもバカ正直に、強盗放火犯になりそうですと言えるわけもなく、言い訳を繰り出すが……



「置いていった馬は貰えましたし、複写の仕事も手伝ってもらったんですから気にしなくていいですよ?」


「そんな程度じゃまったく見合っていないことくらい、ガルム聖王騎士国からあれだけの書物を手に入れたロッキーが一番分かってるでしょ?」


「……」


「ばあ様は望んでいない人に何かを与えるほどお人好しじゃないから、ロッキーがいらないって言ったら本当にそれまでになる可能性が高いと思う。だったら会って直接ばあ様に対価を要求したらいいんじゃないの? 前に面識がないから見返りを要求できないって、ロッキーが言ってたわけだし」


「…………なるほど?」



 納得した素振りを見せつつも内心焦る。


 確かにそんな言葉を言い訳に使った記憶はあるが、それは先輩の実家相手に余計な火種を作らないようにというリスク回避のためだ。


 にも拘わらず、まさかその言葉で墓穴を掘るとは……


 どうしたものか、暫し答えに悩んでいると、俺が口を開くより前にユマ先輩が追撃の言葉を繰り出す。



「もちろん、無理にとは言わないよ。でもうちはかなり古くからある家だから、きっとロッキーの欲しいモノもあるんじゃないかな? 少なくとも本なら、100冊くらいは学院になかった内容のやつがあったし」


「え?」


「こちらが本を見せてもらったわけだからね。当然お返しにその内容は見せられると思うし、希少性を考えたらそれ以上の要求もある程度は通ると思うんだけど」


「あーマジっすか……じゃあもしかして、魔宝石なんかもあったりします?」



 思い切って口にしてみると、さすが知識を豊富に抱えるユマ先輩だ。


 その歳で言葉の意味を理解し、すぐに難しい顔をする。



「使用しても内包魔力が消滅しないことで様々な使い道があるとされている、かなり特殊な魔石だよね……世界に数個というくらい希少なモノになってくるとさすがにあるかどうかは分からないけど、でもばあ様に聞いておくことはできるよ」


「そうですか……ならその確認のためにも、いずれクロイセンに寄ったらユマ先輩を訪ねてみますか」


「うん。ぜひそうしてよ、待ってるからさ」



 はぁ……やってしまった。


 ついつい先輩に甘え、誘惑に負けてしまった自分に呆れながら頷く。


 でも仮に魔宝石を譲ってもらえるなら、リスクや面倒があってもある程度は我慢しようと思えるからな。


 それに――



(先輩、大丈夫か……?)



 僅かに違和感を覚えたという程度で、ただの俺の勘違いかもしれない。


 でも学院で毎日顔を突き合わせていた時やベザートに突然現れた時と違って、あまり余裕がないというか……先輩の様子が少しおかしいように感じられてしまった。


 それが未公開の書物を目にしたことと繋がりがあるのか、それは分からないけど……



(まあ、またその時になれば分かるかもしれないか)



 そう心の中で呟きながら、予定になかった再会を約束する。


 別れ際、ユマ先輩に目を向けると、敵意や悪意などは感じない――


 けど何か別の感情も入り混じったような、どこかぎこちなさを感じる笑みを浮かべて俺を見送ってくれていた。

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