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651話 火河の国ナフカ

 ガルム聖王騎士国から北に向かうと、緑豊かな大地がどこまでも続いていた。


 通称『火河の国ナフカ』と呼ばれるこの国を巡ってもうそろそろ2週間。


 その名称からなんとなく予想していたとはいえ、こうして異質な光景を目の当たりにしてしまうと思わず息を呑んでしまう。



「おお、これは凄いな……」



 火河の国ナフカで王都に次ぐ規模を誇る交易都市『オランゴート』は、今までにない特殊な作りをしていた。


 山の麓に広く町は広がっているのだが、西側――つまり山側だけが異様に膨らみを持たせた城壁で覆われており、その厚みは今も作り続けているベザートの石壁に匹敵するのではないかと思えるほど。


 その西側は城壁の手前が大きな窪地になっており、今も黒ずんだ地面に大勢の人達が群がり何かの作業をしていた。


 城壁から町とは逆側に向けて角のように伸びた2本の石壁を見ても、ここで堰き止めプールするのが目的だろうとおおよそ見当がつく。


 噂が本当なら興味深い光景だが、しかし俺の一番の目的はそちらではなく狩場。


 この日のためにせこせこと地図作りを頑張ってきたようなものなので、早速町に降り立ちハンターギルドへ。


 源書とはまた角度が違う、この地で生活するハンター達の情報も収集しつつ、町の中に入り口があるという地下道を通って《パスマキア溶岩洞窟》へ向かった。


 と、視界の先に赤く染まる狩場が見え始めたところで、トンネルの両脇に並ぶお店――で合っているのだろうか?


 そこの店主から声が掛かる。



「おい、そこの凄い恰好したあんちゃん! 見かけない顔だが、どうせ種火魔石を取りに来たんだろ? だったら余った『戦利品』はうちに任せてくれよ! なんでも高く買うぜ!」


「いやいや、そこのカッコいいお兄さんはうちに卸してくれるわよね? サービスするわよぉ~!」


「何がサービスだ気持ち悪い声出しやがって! まず俺が喋っている最中に被せるんじゃ――……」


「いーや、うちに卸してくれよ! うちに決めてくれたら荷車と力自慢の荷引きもタダで1日つけるからさ!」


「ちょっと兄さん、その分安く買い叩かれるんだから騙されちゃ駄目だよ! それよりすぐに金が欲しいならうちにしときな! うちなら明日の昼にはきっちり勘定して金を支払うからすぐに旅立てるよ!」


「かーっ! 一番ケチ臭いババアが何言ってやがる! うちなら一度利用してくれれば次回利用時に――……」



 次々と荒々しい呼び込みの声が掛かるのは、新人が現れた際の恒例行事なのか……


 苦笑いしつつ左右に並ぶ買取屋らしきお店を通過していくと、そこから先は多くの人達で賑わう狩場が広がっていた。


 と同時に俺の感情が心の中で爆発する。



(い、ってぇ……けどすげぇ!!)



 今までドラゴンやら派手な魔法なんかも見てきたわけだが、この感動はそれとはまたちょっと違ったモノだ。


 とにかく視界が赤く、壁面や天井から噴出したマグマによって、まるで池のようにいくつも溶岩溜まりができていた。


 そしてわざとらしく用意された、溶岩溜まりのど真ん中を通り抜け、奥へと進むための見るからに危なそうな細道!


 手前の安全地帯で魔物と戦う人達が多くいる中、荷車を牽きながらおっかなびっくり通過しようとしているハンター達を見ると、「うお~めっちゃファンタジーじゃん!」と思わず心の中で叫んでしまう。



「おい、兄ちゃん! 通路のど真ん中で立ち止まんなって!」


「あ、失礼しました!」



 仁王立ちして興奮している俺が邪魔だったのだろう。


 声が聞こえて慌てて飛び退くと、ムキムキのおっさん達は荷車に大量の"戦利品"を積んでズラリと並ぶ先ほどのお店に運んでいく。


 武器を所持しておらず防具も軽装。


 そんな人達が他にも十人以上入り口の脇で荷車と共に待機しているのだから、狩れるハンター達と戦利品を運ぶ雇われの荷引き。


 その荷引きの荷物をすぐに引き取り、のちほど金に換えてくれる入り口の換金所という構図がこの狩場では出来上がっているんだろうな。



「さーて、それじゃあ狩ってみますかね」



 俺の興味はあくまで魔物が抱えるスキルだが、他の人達が目的にしている戦利品とはどんなものなのか。


 早速広場の端でのそのそと歩いていた、俺より倍くらいはタッパがありそうな岩の塊に近づく。


 この魔物の名称は『アイアンゴーレム』。


 はっきりと場所が決まっているわけではなく、胸元の辺りに魔石が埋まっているという話なので――



 ――【魔力感知】――



 このままいけるかな?


 そう思って一度蹴り倒し、鎖で繋がれた両手を突き入れるとそこまでの強度ではなく、身体を構成している黒い岩が掴むたびにボロボロと砕け落ちる。


 そうして掴み取った魔石を取り出すと、足掻くように動いていたアイアンゴーレムの動きは止まった。



「ふーん……」



 魔石は属性もない、Aランク相当の大きさがあるというだけの見慣れた普通の魔石だ。


 しかし周囲に散らばる黒い石を握り潰し、より細かく砕いてみると、そのうちの1つから拳よりは少し小さいくらいの金属塊が出てくる。


【鑑定】を使うと魔物の名前の通り、素材は鉄。


 夢幻の穴から拾えるモノと違って純度はそこまで高くないようだが、ポロポロ出てくるので集めればそれなりの金にはなるのだろう。


 そして――……



「へえ、"ラリマー原石"っていうのか……全然分からないけど、こういう仕様も面白いな」



 その中から鉄塊とは違う、僅かに青みがかった綺麗な石の塊が現れる。


 興味の対象から外れ過ぎていて名前を見ても俺にはさっぱりだが、まあどう考えたって宝石の一種であることは間違いない。


 この《パスマキア溶岩洞窟》に現れるゴーレムは、対応する魔物の鉱物だけでなく、その身体に様々な宝石も内包している。


 そしてその量が外に流れ出る溶岩流より豊富で種類も多いため、ここに根付いてゴーレムを狩り続ける"ジュエルハンター"と呼ばれる者達は、魔物だけでなく暑さとも戦いながら希少価値の高い戦利品を探し求め、そうでない多くの者達は安全な外で溶岩が固まってから宝探しといわんばかりにそれらを回収していく。


 このご時世にあって、巡る町が豊かで奇麗に見えたのはこういうことかと。


 宝石で財を成す国の事情を理解し始めたところで、より奥の方で蠢く異形のゴーレム達にも目を向けた。

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― 新着の感想 ―
宝くじも含むみたいなモンスターだねぇ。一攫千金!!!
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