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639話 アルセナード・ゼナン

 少なくともこの世界の住人は、スキルの見えない転移者を異世界人とは断定しにくく、また能力もろくに識別できないのだから、人攫いに捕まる程度の転移者ならば裏オークションに流すほどの商品価値があるとは到底思えない。


 つまり館長の指す異世界人が転生者だということくらいは予想できるが、いったいどのようなスキルを所持しているのか。


 異世界人に関する情報は当日になってからということで、いくつか問うも何も答えは返ってこなかった。


 しかし館長曰く、先ほどの異世界人を含め、ここにこれ以上の人材がいないのは本当だという。


 スキルで言えばレベル8。


 種族だとドワーフやかなり人気の高いエルフくらいであればここにも並ぶようだが、それ以上に希少性の高い者が奴隷落ちした場合は裏オークションで競りに掛ける。


 それがネグア奴隷商館のやり方のようで、人だけでなく希少性が高過ぎて表ではまともな値がつかないような物品なども裏オークションに集まり、その数が一定数を超えると主催者から館長のような出品者に開催日と出品リストを通達。


 そして主催者、出品者それぞれが抱えている有力な顧客へ、招待状も含めたその概要を知らせるというのが大まかな流れらしい。


 なので裏オークションに興味があるなら、開催決定の連絡が届き次第、鳥でその内容を送ろうかと館長に提案されるも、ここで俺は躊躇い返答を渋ってしまう。


 送ってもらえるのはありがたいが、それはつまりこちらの素性も粗方バレるということ。


 まあそれも主催側の狙いなのだろうけど、どこか相応の立場と金を持っていそうなダミーの送り先を伝えるとしても相手に迷惑が掛かるし、何より経由することで情報を得るタイミングが遅くなるしなぁ……


 そんなことを考えていると、館長がこちらの心情を見透かしたように笑みを浮かべた。



「できればご自身の素性を晒したくない……今、そのようなことをお考えなのでは?」


「……」


「裏オークションへの参加権を一種のステータスと捉える方もいらっしゃれば、主に防犯が理由でその事実を伏せたがる方も多数おられます。参加資格を持つ方々は潤沢な資金だけでなく、それ相応の立場を有していることが多い……なので中には代理を立てられる方もいらっしゃいますよ」


「あ、それは可能なのですか」


「ええ、遠地でどうしても参加が難しいという方々もそれなりにいらっしゃいますから」



 それなら大丈夫なのか……?


 今俺が最も厄介に感じているのは奇襲だ。


 まだそんな余力はないはずだが、それでもこの男を含む主催側の誰かがマリーと繋がっており、開催日当日に万全の態勢で奇襲を仕掛けられると、力が抑制されたこの状況ではかなりマズいことになる。


 だったら少々残念だが俺は参加を止めておき、リステに任せてしまった方がいいのではないかと思案していると、男が気になる言葉を吐き出す。



「ただ、数十年という歴史の中で暗殺や金品の強奪など、参加者に不利益が生じるような問題が起きたことは過去一度もございませんので、そのようなご心配も杞憂に終わるかと存じますが」


「へえ……それは参加資格の剥奪を恐れてですか?」



 金持ちにとっては、これほど魅力的に映る存在もそうないだろうからな。


 真っ先に思ったことを口にするも、館長はやんわりと首を振った。



「そういった理由も否定はいたしませんが、一番はゼナン様が主催のお一人でいらっしゃるからでしょう」


「ゼナン……?」



 聞いたことのない名前。


 理解していないことがすぐ相手にも伝わり、少し驚いた様子で補足の言葉が加わる。



「三大商のお一人として自由都市ネラスを統治されている方です。外の方には建神ゼナン――もしくはアルセナード・ゼナン枢機卿とお伝えした方が分かりやすいかもしれませんね」


「あー……」



 言われて以前に建物の上層で一度だけ目にした、白髪交じりの男が頭に浮かんだ。


 そして、枢機卿という言葉――。


 商人っぽくはないと思っていたが、なるほど。


 転生者であることが確定的なあの男は、教会と深い繋がりを持っていたわけか。


 そう理解した途端、なぜこの地で堂々と生活できているのか。


 それに各国の力ある者達が行儀よく裏オークションに参加しているのかもおおよそ察する。



「枢機卿を相手に大きな揉め事を起こせば教会を――延いてはファンメル教皇国を敵に回し、最悪は女神の怒りに触れるのです。誰も好んで災いの種を残していこうとは思わないでしょう」


「なるほど……」



 得意げに語るこの男を、今リステはどんな眼差しで見つめているのか。


 観察眼が鋭そうなため、このタイミングでリステに目を向けることはできないが、個人的にはファンメル教皇国や教会が女神の権威を武器にしているようなら、それはそれで都合が良いと。


 そんなことを思いつつ、事情は理解したため招待状の件を依頼する。



「では安心できそうなので、開催が決まりましたらご連絡ください。アースガルド王国の入り口の町、ベザートで町長にでも聞いてもらえれば鳥の届け先は教えてくれますので」



 そう伝えると、館長の眉がピクリと動くも――



「……宛名は、ロキ王様でよろしいでしょうか?」


「ええ、問題ありません」



 慣れと、それにたぶんだが、自分も女神の権威に守られていると認識しているせいか。


 大きな動揺を見せることなく、淡々と奴隷の引き渡し作業は進んでいった。

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