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634話 教会の拡張

浮かんだそれぞれの案にどれほどの効果が生まれるのか。


それは分からないが、やらずに後悔だけはしたくない。


その想いで一度意識を内に戻し、各所の土台だけでも最優先に構築しようと町の中心部へ向かう。


大通りから一本外れた、民家が多く立ち並ぶ一角。


その中に立ち入り声を掛けると、長椅子を拭く見慣れたおばちゃんがすぐに反応した。



「おはようございまーす」


「あら、王様がこんな朝早くから一人でどうしたんだい?」


「メリーズさん、すみませんけどちょっと急用で、ここで働いている教会関係者の方達を全員呼んできてもらえませんか?」



すると今までこんなことを言ったことがなかったからだろう。


顔色を変え、慌てて教会の奥へと走っていくメリーズさん。


その姿にちょっと申し訳ないなと思いながら待っていると、神官のトレイルさんやシスター姿の女性達が奥からぞろぞろと現れ、皆が少し緊張した様子で目の前に並んだ。


ふーむ、総勢20名くらいか……


炊き出しの準備を任されている人や、裏に併設されている孤児院の仕事をしている人達も来てくれたようで、想像していたよりも人は多く、そして知らない顔もそれなりにいるが、まあ問題ない。


一度【心眼】を使いながら揃った人達に目を向け、ここに来た目的を告げる。



「突然ですみませんが、本日この教会を全面改装し、その一部を狩場へと繋げる転移施設にしていきます」


「「「??」」」


「それもあって明日以降は少しずつ忙しくなってくると思いますし、教会施設の利用を求める声も多くなるはずなので、皆さんの中にトレイルさんのような神官になりたい方っていらっしゃいますか? やる気があるなら人数は問いませんし、女性の方でも構いませんので」



そう告げると、数秒場が静まり返ったあとに溢れるような疑問の声が届き始める。



「ぜ、全面改装って今から!?」


「いや、それより転移施設ってなに……?」 


「ちょっ、ちょっとお待ちください! 神官は長年の厚い信仰を認められ、女神様から拝命頂くことで就ける神職ですよ? 希望したからと言ってなれるものでは……」


「そうよねぇ……それに神官って男だけの仕事なんじゃ……?」



通例にないことをやろうとしているのだ。


言いたいことはよく分かるが、しかし全てを事細かく説明していたら日が暮れてしまう。



「えーと、皆さんが疑問に思う気持ちはよく分かりますので、とりあえず重要な部分だけ――転移施設は言葉の通りです。この教会の一角に転移用の魔法陣を敷き、とある狩場とこの教会を直接結びます。なので今後はより多くのハンター達がこの教会を訪れると思ってください。そしてトレイルさんが口にした通り、希望者が必ずなれるとは限りません。ただ生涯神官として、神職に就くという強い覚悟が認められれば、若い女性の方であろうとなれる可能性は十分にあります。神官が男性のみというのはファンメル教皇国が作りあげた規則なだけですから」


「そ、そんなことが、本当に……?」


「ええ。そして認められさえすれば、あとは僕が押し上げます。どの国の神官よりも女神様の意志である【神託】が受けられるように」



すると、ポツポツと手が挙がり始める。


メリーズさんに、一番初めの頃あいさつを交わした若いシスター、それに移民の人だろう。


炊き出しや孤児院の仕事に回っているという人達も含めて計5人か。



「では希望された人達は神像の前へ。改めて生涯を通し、神官としての職務を全うする覚悟があると、心の中で誓い、祈ってください」



そうして配置に着き、手を合わせて瞳を瞑りながら祈り始めた人達を眺めつつ、心の中で呟く。



――【神通】――



『アリシア。準備できたから、ちゃんと覚悟ができている人だけお願い』


『分かりました。今確認します』



すると、暫くして5人がそれぞれに反応を示した。



「ッ!?」


「あっ、本当になれちゃった……」


「わ、私もです! 【神託】を取得したって……!」


「凄い……これが噂に伝え聞く神の啓示……」


「おお……女神様……ッ! 心より感謝を……!」



『全員問題ありません。神官として生きる覚悟ができているようでしたので、【神託】を与えました』


『オッケーありがと。あとはこっちで引き上げておくよ』



さて、人数も想定以上に確保できたし、これで第一段階はクリア。


突然の流れと得られた結果に、中には涙を流すほど喜んでいる人もいるようだが、本番はここから。



「では次の工程に入りますので、皆さんには先ほど誓った覚悟を確かめさせてもらいますね。あ、せっかくですから、トレイルさんもご一緒に」


「え、私も……?」


「ええ。何か興味のある趣味や仕事にこれから心血を注ぎたいということでしたら、無理にとは言いませんが」


「と、とんでもない! 私は身も心も女神様に捧げておりますので、どうぞいくらでもお確かめください!」


「ふふ、ではトレイルさんも、より高みに。皆さん僕の手に触れて、そこからは動かないでください」





▽ ▼ ▽ ▼ ▽





「ロキ王様、じいさんの意識も戻って全員終わったよ……」


「あ、お疲れ様です。こちらもあとちょっとで改装が終わりますから」



振り返ると先ほどお勤めを終えた6人の神官が、それぞれ酷いとしか言いようのない表情で立ち並んでいた。


トレイルさんなんて土色の顔してぽっかりと口を開け、目を閉じたまま立っているので実は死んでいるんじゃないかと疑わしくなるが……



「うん。全員【神託】はレベル9まで引き上げられたみたいですね」



目標値に全員が到達していることを確認すると、メリーズさんが恨み事を吐き出すようにぼやく。



「あんな覚悟の試し方なんて聞いたこともないよ……何回死んだと思ったか分かりゃしない……」


「うぅ……ほんどに……もう゛二度とあんな所に行きだぐありまじぇん……」


「はは……本当にお疲れ様でした。でも皆さん、あの場で必死に耐えたからこそ世界への貢献が満たされ、【神託】だけでなく確かな強さも得たわけです。ぜひその力で困っていたり虐げられている人達がいたら助けてあげてください」



そう告げると、元から教会で働くくらい志の高い人達だからだろう。


パワレベには納得していないけど、その目的には納得したような……


死にかけていた瞳に光が戻り始める中、孤児院で子供の世話をしているという中年の女性が疑問の声を上げる。



「あの奥にある魔法陣が先ほどの場所と繋がっているんですか? ここにあの大きな竜とかが湧いたら大変なことになると思うんですけど……」


「ああ、それは大丈夫ですよ。あの2つはそれぞれもっと弱い魔物がいる狩場と繋がっていますし、『安置』と呼ばれる魔物が入り込まない場所に設置しているので、あそこから急に魔物が湧くようなこともありません。なので先ほどの場所は少し特殊。諸々の理由からまだ早いと判断して繋げないようにしているので、町の安全のためにも口外しないようにお願いしますね」


「「「……」」」



F~Dランクまでの『草原エリア』とD~Bランクまでの『城下町』エリアまでなら各方面にも似たような狩場はあるのだから、リスクを冒してまで他国が何かを仕掛けるメリットは薄いだろう。


しかし、B~Sランクの魔物まで出現する『城内エリア』はランクの希少性や素材の有用性を考えると、狩場を奪う目的で転移陣の奪取を狙ってくるとか、そんな思い切った判断をしてくる可能性もあり得なくはなさそうだからな……


解放したってまともに狩れる人などほとんどおらず、素材も貴族連中相手にぼったくっている最中なのだから、自衛手段もまだ整っていないこのタイミングで存在を公表する利点は限りなく薄い。


改めてそんなことを考えていると、少しは生気を感じられるようになったトレイルさんが虚ろな目をしたまま口を開く。



「そ、それは承知しましたが……ロキ王はなぜ魔法陣を教会に? 本来であればハンターギルドが適切かと思うのですが」


「僕も当初はそうしようかと思っていたんですけど、向こうはここと違って狭いというか、大通りに面していて周囲はお店だらけなので、あれ以上の拡張が難しいんですよ。それに通うハンターや町民の方達をもっと成長させたかったというのもあります」


「成長……だからこうして神官の数を増やしたというわけですか」


「ええ。今までのようにトレイルさん一人では日に3回しか職業変更の対応をできなかったのが、これで日に54回対応できるようになったわけです。職業選択をもっと身近に――そうすることで町全体の成長も早くなるかなって」


「それであのような指示書と、改装を……」



トレイルさんが意識を失ったのは、城内の狩場に強制連行したからではなく、俺が渡した指示書とその中にある変更点が原因だ。


長く教会の仕事に携わっていた人ほど衝撃を受けるのだろうけど……



「この町――いや、この国に住む人達の成長は皆さんの働きに掛かっているといっても過言ではありませんから、無理がない程度にお願いします」



そのように告げながら頭を下げ、最後に教会用として複製した職業一覧の本をトレイルさんに渡してからハンターギルドへと向かった。

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― 新着の感想 ―
富国強兵を地で駆け抜けて行きそう……速すぎて砂煙が酷そうだけど……
神の声が聞こえる。。。怪しい集団っぽい。 聖地巡礼まったなしやな。
安置は正しくは安全地帯の略なので『安地』では?
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