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597話 ズケイラ戦

「なかなか厄介だな……大半は宙を舞っているというのに、あの"風"で要の遠距離攻撃を阻害してくるのか」


「そっ。だから第二段階は強弓の使い手や貫通性能の高い魔法攻撃に絞って外から攻めるか、無理やり地上に下ろして捕まえるかの二択になる」



 ズケイラとの戦闘を開始したロキの姿を、アウレーゼとザウロは二人並んで眺めていた。


 同じクラン員として、今後は情報の共有が成されるのだ。


 本来ならばどう戦うのが人的損害を減らし、かつ素材価値も損なわずに済むのか。


 初見となるザウロは当然として、一定の攻略法を確立しているアウレーゼであっても現行のやり方が最良などとは思っておらず、意見を交わしながらロキの戦闘を食い入るように見つめる。


 しかし――。



「……目の前で武器を消された時から理解していたが、間違いなく"本物"だな。まるで参考にならん」


「そりゃそうでしょ。だから取っ掛かりを掴むくらいの感覚で見た方がいいよ。真似はできないから」



 本来ならば高速で宙を舞い、人の塊に向かって滑空しながら攻撃を加えてくるそのタイミングを狙って、如何に地上へ縛り付けるか。


 それが対ズケイラ戦における第一から第二段階での最も安定した攻略方法であったが、背から不気味な黒い翼を生み出したロキは、ただ上空を舞うだけでなく、高速で動くズケイラよりもさらに速い速度で飛行し太い首を斬り裂いていた。


 この時点で飛行攻撃という、ズケイラが持つ強烈な優位性は潰されてしまっているのだから、誰がどう見てもロキの圧勝。


 それは間違いないのだろうが、敢えて加減しているように見えるのは、観戦を希望したザウロ達に対する配慮なのか。


 ロキは一度斬りつけるとすぐに距離を取り、様子を窺うように攻撃の手を止めていた。


 だからこそ見学組は、分かりやすく段階の移行を捉えることができていたわけだが――



「クァアアアアア!」



 その後ズケイラが何度か首に深い傷を負わされたことで、大きく啼く。


 すると周囲を取り巻く風の勢いは増し、ズケイラが巨大な翼を羽たかせる度に無数の羽根が舞った。



「あれが最終段階か?」


「だね。巻き起こす風に乗って大量の羽根を旋回させてくる。触れるとばっさりいかれるから、あれをされるともう近接は地上に縛り付けたとしても近寄れない」


「対処法は【土魔法】で土積を生み出し堰き止めるか、もしくは風で舞うほど軽いのなら、【水魔法】で強引に羽根を地面に落としてしまうのもありか……」


「戦力に余裕があるならね。あの羽根は1度舞い始めると暫く数は増えないし、何より火に弱い。換金効率を落としてでも安全策を取るなら、高位の【火魔法】で燃やしちまうのが一番手っ取り早いよ」


「あの羽根の価値を知っていて燃やすなど、俺達なら絶対に選ばない方法だな。ちなみに会長は取り巻く風そのものを無効化したようだが、それは試しているのか?」


「……わざわざボスの得意属性で張り合おうなんて考えたこともないからね。もしそっちに高位の【風魔法】を使えるやつがいるなら、次回のズケイラ戦に参加させてみてよ。ロキだって暫くは参加してくれるだろうけど、それでもずっとなんてことはないんだからさ」


「確かにな……分かった、伝えておく――って、終わったようだぞ」



 ゆっくりとした進行に見えて、結局は1分足らずで終わったズケイラ戦。


 他には一切攻撃を加えず首だけを切断という、素材価値を十分過ぎるほどに残した戦いは、観戦組が静かに見守る中であっさりと終了した。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





『【旋風】Lv7を取得しました』


『【烈風】Lv1を取得しました』


『【烈風】Lv2を取得しました』


『【烈風】Lv3を取得しました』


『【烈風】Lv4を取得しました』


『【烈風】Lv5を取得しました』


『【放天乱羽】Lv1を取得しました』


『【放天乱羽】Lv2を取得しました』


『【放天乱羽】Lv3を取得しました』


『【放天乱羽】Lv4を取得しました』



 ――【魂装】――



 切断したズケイラの頭部を収納しながらアナウンスを眺めていると、嬉しい数値に思わず声が漏れた。


 グリムリーパーの反復で【魂装】の数値ガチャはだいぶ煮詰まってきた感があったけど、ここにきて『敏捷+882』ならかなり当たりの部類だ。


 ホクホク顔で入れ替えし、そのまま新しく手に入れたスキルにも目を向ける。



 新種の1つである【烈風】は【灼熱息】や【水流】と同じ、ボスにありがちな広域属性魔法をそのままスキルにしたようなパターンで、俺でも使える白文字タイプ。


 そして【放天乱羽】という、字面からして派手に羽根を巻き散らしていたこのスキルは――まあそうだよね。


 残念ではあるけど俺に羽など生えていないのだから、グレー文字であることを確認しても、やっぱりという感想しか出てこない。


 白文字であった場合を想定し、ズケイラがこれらのスキルをどう使うのか。


 眺めていても意外性はなかったし、欲を言えばもう1つくらい実用性の高い目玉スキルでも抱えていてくれれば有難かったが、本来は空を飛ばれるというだけでかなり厄介なのだろうしなぁ……


 文句を言ってもしょうがないと気持ちを切り替え、もしかしたらこれでクリアしたんじゃないかと。


 胸の高鳴りを感じながらステータス画面を弄ろうとした時、こちらに走り寄ってくるアウレーゼさんの声を耳が拾った。



「大丈夫? なんかあった?」


「あ、ああ。大丈夫ですよ。それより素材はどうします? もう僕が買い取っちゃってもいいですし、参加予定だった他の人達にも確認が必要なら、今回は僕の分の素材だけ少し頂いてあとはお任せしますけど」


「いや、とりあえずロキの買取ということで回収しちゃっていいよ。今回参加予定だった連中は全員討伐経験者だから、このタイミングで素材が欲しいとはまず言わないだろうし」


「了解です」


「でさ、クランなんだけど、本部はベザートでいいんだよね?」



 問われ、そういえばそうだったなと思いながら遠慮気味に頷く。


 回収したボス素材を売るにしても、武具の製造を受けるにしても、必ず窓口は必要なわけで。


 それらが各所に分散していては面倒過ぎて俺が死ぬ。


 一瞬、ベザートよりも自由都市ネラスの方が足を運びやすいのではと思ってしまったが、人を雇用したり安全面を考慮すると他所じゃ自由が利きにくいしな……



「そうしてもらえると僕は助かりますけど、大丈夫ですか?」


「もちろん。私達からすればロズベリアに行くよりは全然近いし、他の国に建物建てて組織なんか作ろうとすると、その地域の役人や領主にまで話が広がって金だ権利だの面倒な話が出てくるからね」


「それにここから範囲を広げていくなら会長のお膝元に本部を置いて、より組織の頭であることを強調した方がいいぜ。他所への勧誘や協議はアウレーゼがやるみたいだが、その方が間違いなく舐められないで済む」



 んー……


 帝国やアルバートの領内なんかだと、逆に俺の名前が障害になりそうな気もするけど、だからと言って伏せたら円滑に進むわけではないだろうしな。


 だったらアースガルドと同じ。


 まだ俺の名前が表に出ていた方が、アウレーゼさんを含むクラン員の安全に繋がりそうかと、神輿のように担ぎ上げられた立場になんとも言えない感情を抱きながら一先ず納得する。



「はぁ……しょうがないですね。では形だけの会長でもいいならそれで構いませんから、クランの創案者であるアウレーゼさんが副会長として上手く回してくださいよ。最低限僕の方でボス素材の購入や装備の製造、加工依頼なんかが受けられるようにクラン本部は作っておきますから」


「おお……! もちろん任せてよ! ロキがここまでお膳立てしてくれたんなら、あとは参加してくれる皆が利点を強く感じられるように頑張るからさ!」



 抱えていた障害が取り除かれ、夢の足掛かりとなるクランの創設が目前まで迫ってきたことがよほど嬉しいのだろう。


 拳を強く握りながら目を輝かせるアウレーゼさんに、苦笑いを浮かべながら肝心な部分を告げる。



「それじゃ今回の分のお金を渡しておきたいので、先ほどの休憩所でいいですか?」


「あ、そうだね。なら落ちている羽根も全部回収しちゃうよ。超軽量武器にもなるこいつは貴族連中に良い値段で売れるからさ~これだけあったら結構皆の取り分も増えるんじゃないかな!」


「じゃあ俺達は先に引き上げるが、アウレーゼ。会長との用事が済んだら俺に声を掛けてくれ。俺とシュニッグだけは少しの間ここに残るから、こちらが抱えている情報含め、もう少し詰めた話を進めるぞ」


「分かった。それじゃ下で飯でも食って待っててよ」



 彼らは今回の取り分を放棄しているわけだし、当然と言えば当然だが……


 一団が去っていく中、皆の取り分が増えるからという理由で、一人黙々と地面に散らばっている羽根を拾うアウレーゼさんの姿を見て。



(はぁ……こういう人には手を貸したくなっちゃうんだよなぁ……)



 そんなことを思いながら、足元に落ちている羽根を拾った。

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― 新着の感想 ―
前話にて丁寧な補足説明ありがとうございます。 ロキくんの心眼がR10だと勘違いしてました。 今まで出ていたsランクハンターはsとはいえ初歩組だったんですね モンスターのスキル経験を奪えないのにそこま…
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