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479話 急報

 判明した事実をどう扱うべきか。


 そう考えた時、俺の足は自然とこの場所に向かっていた。



「少しだけ緊急の用件でして、ハンスさんいますか?」


「え? あ、あなた様はロキ王……少々お待ちを!」



 宮殿の前で少し待つと、前回とは違いメイビラさん達が出てくることもなく中へ通される。


 相変わらず銀毛の獣は噛みつきそうな勢いで唸ってるけど……


 なんのスキル持ってるんだろうな、アレ。



「おうロキ、緊急って聞いたけどどうした? 何かあったか?」



 お互い見つめ合っていると、焦った様子でこちらに向かってくるハンスさん。


 少しだけって兵士の人には言ったけど、こりゃ上手く伝わってないな……



「急にすみません。とんでもなく緊急というわけではないんですけど、ハンスさんの耳には入れておいた方が良さそうな事実が判明しまして」


「いや、重要な情報だってんなら別に構わねーよ。前の部屋だ、俺はメイビラとか呼んでくるから、先に入っててくれ。案内頼むぞ」


「ハッ! お任せを!」



 そう言われ、兵士に見覚えのある部屋まで案内されて暫し。


 いつぞや見た面子がゾロゾロと部屋に入ってきたところで、ハンスさんがいつになく真剣な表情のまま口を開いた。



「んで、何があった?」


「はい、その前に一つ確認を。ハンスさんは北部のスチア連邦が今どのような状況かご存じですか?」


「ん? どのような状況って、12の代表種族は健在で、今は兎獣人の――名前はヒヨルドだったか。ソイツが持ち回りで首長をやっているはずだが」


「なるほど……つまり、スチア連邦の就くべき人が現状はトップになっているということですよね?」


「そりゃそうだな」


「では伝えに来て正解でした。結論からお伝えすると、スチア連邦はもう既にアルバート王国に呑み込まれています」



 数秒、部屋が静寂に包まれ――。


 その後、部屋が一気に騒がしくなる。



「………は? 待て、どういうことだ? 目立つ争いなんて起きていないはずなのに、呑み込まれただと……?」


「目立つ争いが起きていないというのも事実でしょうね。僕がマズいと思って伝えに来たのもそこで、この事実はまず世に公表されていません。いつから切り替わったのかは知りませんけど、首都『タルサラム』に住む住民も、それこそハンターギルドの受付嬢までまだスチア連邦のままだと認識しています」


「マジかよ……?」



 唐突にこんな事実を突きつけられたのだ。


 ハンスさんと言えど、動揺するのも当然だろう。


 だが、終始不動だった――、というより表情の動きが分からないだけだが、ハンスさんの背後にいた山羊の獣人が、静かに当然の疑問を口をした。



「……失礼を承知の上で、それでも事が事だけに問わせていただきます。ロキ王が偽りを提言しているという可能性はどのようにして否定できますか?」


「僕自身では無理ですね。現状ではスチア連邦とアルバート王国の間にあるべき国境線が存在しておらず、その国境線は僕の所持するスキルでしか判別することができません」


「ならば――」


「もちろん、ハンスさんとマリーの衝突を望んでこんなことを言っていると思われたのなら、それこそ戯言だと思って気にしなければいいでしょう。ただ世界を旅する中で僕もおおよそマリーの性格が分かってきましたから、後々になって気付いた時には既に手詰まりとならないよう気を付けてくださいね」


「我が国が、手詰まりですと?」


「マリーは時間を掛けて、徐々にその国を侵食していく。これが計画の始まりなのか、それとも終盤なのかは分かりませんが、後になればなるほど対処に掛かる労力と難度は増すと思いますので」


「それは、そうかもしれませんが……」


「やめておけ、ドズル。そんなもんヒヨルドを締め上げれば答えなんて分かるし、そもそも王宮を吹っ飛ばすって言ってるロキがそんな回りくどいことなんてしねーだろ。それより……おい、地図持ってこい」


「はっ……は? お見せして、よろしいので?」


「目の前にいるのは各国の地図を作ってる張本人だぞ? 空まで飛べるやつに周辺環境隠したってなんの意味もねーよ。それより情報寄越しにわざわざ来てくれたんなら、ついでにもう1つか2つでも協力してもらった方がいい」



 この発想はハンスさんらしい。


 山羊の獣人が渋々といった感じで持ってきたお手製地図を広げると、俺へ説明するようにハンスさんが指で示していく。



「お前が作ってるようなのと比べりゃ雑な内容だが、見ての通りだ。うちとスチア連邦の間はかなり険しい岩山だらけで、まともに往来できるような場所は北東にある谷底の一部だけ。仮に北部を押さえられたところでそこまで大きな支障にはならない」


「元から北東の一部はアルバート王国と隣接しているわけですか」


「ああ、昔は間に1つ国があったんだけどな。派手な争いもなく、気付けばアルバートに下ってやがった。よくよく考えりゃ今回と同じだ」


「……東から南東部にかけては?」


「一言で言えば"魔境"ってヤツだな」


「え?」


「多種多様な亜人が住んでいることは分かっているが、それらを纏め上げる国はないとされている。それぞれが独自のルール、価値観を持ってるから、それなりの衝突と危険も覚悟しておかないと立ち入れない地域だ」


「ということは、もしマリーがこの地まで手に入れると、エリオン共和国はうちを背にして囲まれるということですよね」


「俺がいるんじゃ囲ったところで効果は薄いように思えるが……いや、先に俺自身を潰すこと前提で動いてやがるのか?」


「マリーの最終的な目標がこの大陸を丸ごと手に入れるということならその可能性もあるでしょうし、アレは2つ3つと同時に策を遂行する傾向がありますから、他にも狙いがあるのかもしれません」


「狙いねぇ……メイビラ、うちを包囲する以外に何か思いつくか?」


「………スチア連邦の支配を伏せるということは、その地でまだ発覚されては困る何かを進めているとも取れます。とすれば――、支配と言っても総意を得られたというわけではなく、現在も水面下で12の代表種族と交渉が続いているのでは?」


「だとすると、俺の耳に入るほどの内紛にも発展しそうなものだが……いや、そうであってほしいところだな。アイツらが全て敵に回るってなると、相当な脅威になる」


「えっと、ハンスさん達でも、ですか?」



 些か疑問に感じる言葉。


 ハンスさんは当然として、ここにいる半数以上はスキル自体が覗けないし、覗けた人達もいくつかのスキルが当たり前のようにカンストしているのだ。


 にもかかわらず、面倒や厄介ということではなく、『脅威』というほどの話になるのだろうか?


 もちろんアルバート王国の戦力と合わせてということなら分かるけど、どうもニュアンス的にはスチア連邦の戦力単体を指しているようにも思えるし……


 この俺の問いに口をへの字に曲げ、溜息交じりにハンスさんは答えてくれた。



「族長や長老と呼ばれているような連中は単純につえーし、何より厄介なのはアイツらの種の結束だ。明確な敵と判断すれば、人間と違って女子供だろうと種族全てが牙を剥いて襲い掛かってくる。対してうちは戦えない連中も多い」


「なるほど……」


「厳密にはそれぞれの下に就く種族まで敵に回ることとなりましょう。ともすれば、その数は優に100万を超えるかと」


「はぁ~しゃーねぇ。族長にそれぞれ会って確かめてくる。サガン、おまえは何人か連れて、『外』の様子を見てきてくれ。ソイツらがもしマリーの手に落ちていたらいよいよだ」


「ボスにも寄らなかった連中がマリーに靡くとは思えないが……御意」



 あくまで俺は気付きを伝えに来ただけで、これはエリオン共和国の問題だ。


 あまり他所のやり方に口を挟むべきではない。


 それは分かっているが……


 1つや2つ協力しろと言ったのはハンスさんだし、しょうがないな。


 俺はマリーが大嫌いで、そのマリーが敵対国の囲い込みや戦力強化という、分かりやすい目的だけで動いているとは思えないのだ。


 まだ他にも狙いがありそうなもの。


 ならば期間を限定して、こちらでも調査してみるか。



「ハンスさん、元々スチア連邦があったのはどの辺りまでか分かります?」


「ん? アルバートとの境界ってことか?」


「そうです」


「となると、ハッキリしたことは言えねーが……さっきも示した北東部でまともに往来できる谷底、この少し東部――、だいたいこの辺りまでは確実にスチア連邦の領土だった」


「了解です。となると、2週間――、いや、10日ほどでいいんで、ハンスさんが動く前に時間をくれません?」


「構わないが、理由は?」


「マリーの狙いが他にないかも、サラッと確認しておきたいんですよ。フレイビルでは主要都市の領主を落として、下部組織に奴隷を集めさせながら、裏では国にも秘密の採掘場を作らせたり人体実験までしてましたからね」


「マジかよ……」


「ハンスさんが12の代表種族と接触することで、内密にしておきたい何かがより深くに隠される可能性もある。だから10日間、僕も遅かれ早かれやることですので、先にこの一帯だけ調査を進めてみて、その結果をハンスさんにもお伝えしますよ」


「恩に着る。それじゃ俺も、先にやるべきことをやっておくか」



 そう言いながらパシッと拳を叩くハンスさん。


 おいおい、今はあまり目立った動きをしてほしくないのだが……


 大丈夫だろうか?



「マリーはこちらが国境の変化を掴んでいる事実なんてまず知りませんから、今が情報を掴むチャンスなんです。派手なことして勘付かれるようなことはしないでくださいよ?」


「大丈夫だ、まっっったく問題ねーよ。ロキん所にちろっと行くだけだからな」


「あーそれなら……ん?」



 何を言っているんだとハンスさんの顔を見上げたら、ニヤッと笑いながら肩をがっしり組まれてしまう。


 うげっ、これは逃げられそうもない。



「おーし、このままロキの国――アースガルドへ連れてってくれ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦えない子たちが逃げるとこ必要だもんね こういうことは主人公も嫌とは言えないのはわかってるんだね
[一言] これは、いざという時にアースガルドに避難民を逃がすための準備かな
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