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466話 選別と解放

 バックヤードに存在するモノを5階から順番に回収し終えて外へ出た時、既に外は雪で白く染まっていた。


 時間も時間ということがあり、外を出歩く人は大通りを見てもまったくおらず、だからこそこのまま続けるべきか少し悩むが。



「たぶんこの時間は寝てるだろうけど、それでもやっちゃおうか」


「うん」



 捕まって無理やり奴隷にされたのなら、少しでも早く抜け出せた方がいいだろう。


 それに【奴隷術】は、対象が死ねばコストは術者に戻されてしまう。


 さすがにこの短時間でバレるとは思えないが、それでも多くが寝静まった深夜のうちに問題を片付けてしまった方がこちらも安心できた。



(どうせ中身は全部空にするしな……)



 表通りに回り、鍵の掛かった重厚な2枚扉を強引に抉じ開けて中に入ると、裏ロビーとは違って立派な絨毯の敷かれた広い空間が出迎えてくれる。



『光玉』



 本来はいたはずの見張りも既に全員死んでいるのだから、探索は非常に快適というもの。


 正面にはカウンター、複数の商談用テーブルも設置されているので、綺麗に全て収納しながらズンズン進んでいくと、奥には2階へ上がる左右2本に分かれた階段が。


 そして中央には大きな扉が存在し、この扉が1階表ロビーと奥の奴隷区画とを隔てていることが【探査】の反応から分かった。



「それじゃフェリン、よろしくね」


「任せて」



 扉を開けると雰囲気は一転し、先ほどの地下牢と同じような景色が広がる。


 ジメジメと湿気が漂うとかではないが、壁も床も全てが粗く削った剥き出しの石材なので、明らかにこちらの方が足元も、そして漂う空気も寒い。


 いくつか魔道具を回収しながら来たけど、人がいない所を暖めてどうすんだよって本気で思ってしまう。



 そんな中を端から静かに、軽く200は超える牢獄のような部屋を順番に見ていく。


 向こうの地下と違って1人1部屋と決まっているようで、奴隷商館だというのに特に値札らしいモノは見当たらなかった。



「白」


「了解」



 フェリンの言葉を聞いてから鉄格子を消し、ゴザの上で縮こまって寝ている人に声を掛ける。



「起きてください」


「う、うぅ……なんだ……?」


「静かに。理由もなく奴隷にされた人達を救出しに来ました。今日から自由ですので、いきなりですけどここから出てください。外は雪なので、もしかしたら一部の残党が戻ってくるかもしれませんけど……朝までロビーで待つか、すぐ帰るべき場所に戻るかはお任せします」


「えっ……ほ、ほん……ッ!? す、すまん……」



 思わず男の口を塞ぐ。


 全員を丸ごと救うなら今がお祭り騒ぎでも構わないが、そうではないのだ。


 できれば静かに、皆が寝ている間に事を済ませたい。



「白」


「黒」


「黒」


「白」


「黒」



 そう思って次々と白判定の者達を救出していくも、まぁそう都合良くはいかない。


 数時間前には同じ1階の裏ロビーで異常な騒ぎがあったのだから、異変を感じて寝つけない人がいてもおかしな話ではなかった。



「おい、なんで俺は出してくれねーんだよ」



 一つの牢屋を通過した時、中にいた男が鉄格子をガシガシと揺すりながら騒ぎ出す。



「あなた、犯罪か借金で正規に奴隷落ちしているでしょう。今回の救出は無理やり奴隷にさせられた人が対象ですから」


「さっきから『白』とか『黒』って言ってたのはそういうことかよ……人を見た目で判断するなんてあんまりじゃねーか! なぁ、おい!」


「な、なに……」


「くそっ、煩いな……」


「うるせーぞ馬鹿野郎!」



 あーあ。


 まだ20部屋も確認できていない。


 なのにこれだ。



「これ、どっち?」


「犯罪」


「だよね、やっぱり」



 はぁ……


 本当に、自分勝手な悪党は嫌になる。


 それはもう、今すぐ殺してしまいたいくらいに。


 それでも相手は奴隷落ちなのだから軽犯罪者。


 スルーしようとした時――、横の鉄格子から腕が伸び、なぜか俺の首が締め上げられた。



「?」


「おい、そこのねーちゃん、黙って俺の牢を開けろ! そうしねーとこのままコイツの首をへし折るぞ!」


「……」


 

 当然、痛みなどない。


 だから真っ先に心配したのはフェリンの様子だった。



(ほんとに大丈夫なのかコレ……)



 いや、たぶん俺も似たような気持ちだとは思うけど、無感情な瞳をしたまま気を落ち着かせるように吐く長い吐息が、見ていらんないくらいに怖過ぎる。


 そしてこの大声がどうやら決定打になったらしい。


 "牢を開けろ"という言葉に多くの奴隷が反応し、すぐに広がりながら大きな騒ぎになっていく。


 もう、さすがにこんな状況で寝ている人なんていないでしょ……


 なら、もういいか。


 自然と、そう思えてしまった。



 ブチブチブチ……ッ!



「ひぎゃぁああああああああああああああッッ!!?」



 俺も、私も、という救出を求める声に突如として混じる大絶叫。


 首に絡まった気持ち悪い腕を力ずくで解こうと、両腕を掴んでいでしまっただけ。


 悪いのはどう見ても顔を歪めて蹲る髭面だが、丁度いいかな。



 ――【拡声】――



「どうしようもないバカが騒がせてしまってすみません。今から正規に"犯罪"もしくは"借金"で奴隷落ちした人以外はここから救出します。対象は騙されて罪を被らされたり、強引に攫われて奴隷にされてしまった人達です。該当者は鉄格子を両手で掴んで待機してください」


「「「うぉおおおおおおおッッ!!」」」


「ただし、事実を偽ったり強引な手段を取ろうとした者は、先ほど大騒ぎしていた男みたいに腕を捥がれて出血多量のまま死にます」


「「「えっ……?」」」


「こちらは真偽を判別できますので、無駄な手間は掛けさせないよう慎重に、でも間違いなければ自信を持って鉄格子を掴んでください。ちなみに聞こえているか分かりませんが、2階以降の方も同様です」



 こう伝えれば一瞬場が静まり返ったけど、すぐ湧き返したように該当者が喜び始めたので、これで多少はスムーズに事が運ぶだろう。



「ちょ、待ってくれ……お、俺の、腕が…血が、止まらねぇ……このままじゃ、ほんとに……助けてくれって……ッ!」


「なぜ?」


「……?」


「だから、なぜ、自分勝手にここを出せと脅し、僕の首をへし折ろうとした相手を助けなければいけないんですか?」


「い、いや、でも、実際にやったわけじゃ……」


「できなかっただけで、僕が無力ならあなたは実行に移してでもここを抜け出そうとしたんでしょう? 僕を殺してでも助かろうと思い、さらに行動へ移した。だからその悪意を返された、それだけですよね?」


「そ、そんな……」


「何もしなければ、牢から抜け出せずとも朝を迎えられたのに。ここから多くの人達が解放されていく姿でも眺めながら、残り僅かな人生、如何に自分がゴミのような存在だったか見つめ直して死んでください」


「待っ……悪かった! 謝るから、頼むって――……」



 そう告げながら、思い出したように【転換】の余剰経験値量を確認しておく。


 死に直結する行動を起こしたのは間違いなく俺。


 でもこの男が死ぬまでには、まだそれなりの時間が必要だろう。


 俺のラストアタックという判定は、人が相手の場合どの程度の時間経過まで有効なのか。


 いつか調べようと思いながらも、【転換】を得るまではその判別が物凄く難して機会を作れずにいた。


 小物相手ではスキル経験値上昇が判定不可の1%未満なんてザラ過ぎるからな。


 でも【転換】ありで、経験値ロスが限りなく薄いウルトラ雑魚な悪党であれば、実験対象には丁度良い。


 そう思って、まだ騒いでいる両腕を失った男をスルーしながら数歩進んだところで、思い出したようにそれ以上足を戻す。



「ロキ君?」


「人を見た目でどうたらって言ってたあなたは、結局外に出たいんですか?」



「い、いえ! 私は一生この中にいようと思います!!」

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[気になる点] 物凄く難して機会を作れずにいた。
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