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455話 案内人

 できれば本格的に動くより前に、情報収集をしておきたかった。


 オムリさんが寄越した情報と、レサ一家に属する者達が持つ情報と。


 擦り合わせながらこの一家に対してどこまでやるべきなのか――延いてはどこまで潰しにかかるべきなのかを決めておきたい。


 だからこそ邪魔な横槍もなく、静かに尋問が行えそうな場所を歩きながら探していたのだが。



(うーん、ずっと大通りだな……)



 先導するように前を歩くリーダー格の男は、人混みの多い大通りを進むのみ。


 東区はどこを見てもガラの悪い連中が一定数いるので、事を荒立てればすぐに人が集まってくることは容易に想像できた。


 先ほどのお店がレサ一家に加担しているような仲間なら、纏めてあの場で尋問してしまうのが一番手っ取り早かったんだけど、店主はまったく無関係の好い人だったしなぁ。



 そうこうしているうちに5階建てのかなり大きな建物が現れ、逃げられないように俺とフェリンを囲んでいた連中は、明らかに裏口と分かる場所からその中へ入っていく。


 看板はないけど、ここがレサ一家の拠点になっている『レサ奴隷商館』なのかな?


 入ってすぐの広いロビーには、いくつかあるソファーで寛いでいる、見た目からしてまともではなさそうな連中が。


 奥には簡素なカウンターがあり、ここまで先導していたリーダー格の男がまっすぐその場所に向かう。



「新しいの2人だ」


「ほう、こいつは凄いな……1人は相当な値段が期待できそうだ。『71番』、閉めたら鍵を返せ」


「あいよ」


「サバンおまえ、どこでそんな上玉拾ってきたんだよ!?」


「チッ……どうせヴァルツだろう。今あそこは攫い放題だしな」


「それにしちゃ血色や体付きが良過ぎるだろ。まさかヘイディ達の真似して、貴族家の女でも攫ってきたのか?」


「ぐはは! 詳しくは言えねーが俺様の鼻が利いたんだよ! あぁ先に言っておくぞ。いくら大金を手に入れようと、おまえらには奢ったりしねぇからな!」



 上機嫌な男が慣れた様子で鍵を受け取り、目の前で耳を疑うような会話を交わす。



(ヴァルツに住む人達が生き延びられるように、食料を配ってたのに……)



 これがコイツらにとっての日常か。


 でも、まだだ、まだだめ。


 階段の両脇には、明らかに用心棒だろう。


 少しは戦えそうなのが二人、目の前のバカ共とは違い、俺とフェリンの様子を油断なく窺っている。


【心眼】が通らず、完全に警戒が解けていない。


 きっと、そんなところ。


 なら、今は我慢。


 フェリンだって怖いくらいに無表情を貫いているのだ。


 俺がここで顔や態度に出すわけにはいかない。


 まだ、ダメだ、まだ……





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





「サバン、俺達はここで待ってるぜ」


「あぁ、終わったらもう一度飲みにいくぞ。念のためあと二人くらいはついてこい」



 地下への階段を下りた途端、自分の頬が緩んでいくのを感じる。


 アイツらのあの羨ましそうな顔を思い返すだけで、この後の酒が何倍も美味く感じちまいそうだ。


 一度背後に視線を送れば、一生忘れないし忘れたくないと断言できるほどの美貌を持つ女。


 何度見てもすげぇ……


 人が吐いて捨てるほどいるロズベリアでも、ここまで整った顔立ちの女なんざ一度たりとも見たことがない。


 絶望で感情が死んじまったような顔をしてても目が離せなくなるなんて、これなら変態野郎ばかりの貴族連中だって文句無しに欲しがるはずだ。


 いったいこれほどの女にいくらの値が付くのか。


 それに最低限の資格である【奴隷術】は、"神のお告げ"ってやつが俺様に降ってきてるんだ。


 上手くいけば『百人長』に格上げされる可能性もある。


 そうすりゃ現場仕事ともおさらば。


 あとはムカつくあいつらを手下にして、ケツでも蹴り飛ばしておけば俺の地位と生活は安泰だろう。


 やっとだ。


 やっと、溜めこんでいた運が上向いてきやがった……



「おう、入れ」



 71番の地下牢を開き、顎で二人に入るよう促す。


 これで仕事も終わり。


 今日は祝いにしこたま飲んで――、



「僕達は、奴隷として売られたんですか?」



 ずっと黙っていた男が、直前でこちらを向く。


 こいつも絶望したような、光の無い瞳。



「あん? 今更かよ」



 気が削がれたことに苛立ちを覚えて、思わず背中を蹴り飛ばしながら鉄格子の向こうに押し込んだ。


 その光景を見て、女も黙って中に入っていく。



「レサ一家に喧嘩売ったんだ。当然の報いだろうが」


「奴隷だから二人とも手を出さないでおいてやったんだぜ? 傷物にしちゃー価値が下がっちまうからな」



 ついてきていた手下の言葉に、俺自身も深く納得するしかない。


 野郎はどうでもいいが、女は売り物じゃなけりゃ確実に自分のモノにしようとしている。



「そういうこった。無傷で済ませた俺達に感謝しろよ?」



 そう言いながら鍵を閉め、1階のロビーに向かおうとすると、



「ご苦労様」


「あ?」



 背中の方から声が聞こたような気もしたが……


 もう二度と会うこともない男の戯言など、どうでもいい。


 まだ毛が生え始めた程度のガキだ。


 どうせこの先のことなどろくに想像もできていないのだろう。



「行くぞ」



 そう告げ、とっ捕まった他の奴隷共の、恨めしそうな視線を浴びながら長い通路を戻っていく。


 最初の頃はこれが一番応えたもんだが……今となっては、だな。


 まず俺らが連れてきたやつらじゃないし、そもそも捕まるようなバカが悪いってのに、なぜそんな目で俺を見やがるのか。


 能無しどもめ。


 とっとと鉱山にでも回されて、全員死んでこい――。



「?」



 通路を曲がった時、あまりの違和感に思わず立ち止まる。


 階段が、無い。


 曲がれば正面にあるはずの階段は、なぜか壁になっていた。


 そして、その壁に寄り掛かるようにして立つ、先ほどの男。


 咄嗟に『71番』の部屋を遠目に眺めるも、中がどうなっているのかなど分かるわけもない。



「え……えっ?」



 何が、どうなっている?


 少し酔ってはいたが……


 浮かれ過ぎて、夢でも見ているのか?


 理解できず混乱する自分に、男は先ほど見た、光の無い瞳をこちらに向けながら静かに言った。



「それではこれから、奴隷よりもキツくて苦しいこと、しましょうか」

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