46話 指名依頼
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ヤーゴフさんの発言に思わずハッとする。
(そうか。ことわざを、【異言語理解】を通さずに、そのまま……)
確かにことわざは、その意味を理解していなければ会話がまともに成立しなくなる。
知っているから、あっさり理解できてしまった――、そういうことか?
しかもあちらの言葉……日本語でそのまま喋ったとなれば、会話が通じた時点でもうまともな言い逃れができなくなる。
とっさにヤーゴフさんを見ると、その彼は両手を上げたまま苦笑いを浮かべていた。
「勘違いしないでくれ。私はロキと敵対したいわけでも、素性を詮索するつもりもないからな。私だってまだ死にたくはない」
「……ではなぜ?」
「そうだな。今回の件でロキの人となりを掴めたから、だな」
「……」
「ロキは敵味方の区別をはっきりとつける。そして敵には容赦ないが……そうでなければどちらかというとかなりお人好しの部類だ。違うか?」
「自分ではよく分かりませんが……敵味方の区別をしっかり分けるのはその通りですね」
「以前町長からの報酬を渡しただろう? あの時に試すか悩んだんだが……さすがにあの段階ではそこまでの踏ん切りがつかなくてな」
「ということは、あの時に既に当たりを付けていたと?」
「そりゃそうだろう。あんな奇抜な格好の時点でまず怪しいと思う。それに……今は外しているようだが、ロキが左腕に着けていたのは『時計』だろう?」
「ッ!? 知っていたんですか?」
「まあな……それで、だ。今日は遅いから明日一日、私に時間をくれないか? もちろんいつもの仕事を邪魔するわけだから、私からの指名依頼ということで報酬は100万ビーケ支払おう」
「報酬が凄いと逆に警戒してしまうんですけど……」
「そうは捉えないでほしい。おまえの報酬は一日40万ビーケを超えたのだろう? そう考えたら同額程度で依頼するのもどうかと思っただけだ。もちろん50万ビーケに負けてもらえるなら有難いがな」
「いやそれなら100万ビーケで……ってマズいマズい。受ける前提の話にしないでくださいよ! 僕にいったい何をさせるつもりですか!?」
「ふっ。やはり頭は回るな。アデントじゃどうにもならないわけだ。まぁそう固くなるな。内容は非常に簡単なもので、とある物を見てもらった上で意見が欲しい。その程度だ」
「それは……異世界の物、ということですか?」
「さぁな。それを判別できるのは異世界人のやつらだけだろう?」
「確かに……」
「さきほども言った通り、俺はロキと敵対するつもりは無い。理由は死にたくないからだ。だから依頼とはいえ無理をさせるつもりは毛頭無い。それだけは約束しよう」
「……分かりました。死にたくないから敵対しない。これが一番シンプルで納得のいく理由ですからね。明日は休日と思うことにしましょう」
「助かるよ。明日はそうだな……昼の鐘が鳴ったくらいにでもギルドに来てくれ。それまでは好きにしてもらって構わん。ただ昼飯は先に済ませておけよ?」
「分かりました。それじゃ明日お伺いしますのでお願いします」
「あぁ、こちらこそ楽しみにしているよ」
こうして突如降ってきた指名依頼の話が纏まり、アマンダさんにも声を掛けつつギルドを出た俺は、なんだか妙なことになったなぁと空を見上げる。
たぶんヤーゴフさんが見せたい物は、用途不明の地球にある何かなのだろう。
それが俺に分かる物かどうかは確認してみての話だが……
女神様は魂を転生させていると言っていたはずだ。
つまり俺のように転移はしていないということになる。
となれば……この世界に地球産の物があること自体不自然な話だ。
次元の狭間とかいう別ルートもあるようなことは言っていたけど、リア様が忘れるくらい前の話で早々起きることでもないようだし……
なんだろうな?
本来はマズいことかもしれないのに、ちょっとワクワクしてしまう自分もいる。
もしかしたら俺と同じように、無理やり転移させられた仲間がいるかもしれない、か。
まぁ今考えても答えは出ないし、明日になれば何か分かることでもあるのだろう。
なら早々にすべきことはまずご飯だ!
今日は……初の悪者退治と臨時収入ということで祝い事。
それならやっぱりあの店、『かぁりぃ』に行ってみるとしよう。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ソワソワ、ソワソワ……
宿の部屋に入り、何度【神通】と叫んだだろうか?
叫び過ぎて煩かったのか、壁ドンされても心の中で【神通】と叫んでしまうのはなんなんだろうか?
昨日の【神通】を深く考えずに軽い気持ちでやってしまったため、いったい何時に話をしたのかよく分からない。
そのおかけで「もう24時間経ったかな?」「もう大丈夫かな?」と、まるで彼女との電話のタイミングを計るように何度も通話を試みてしまっている。
1日の時間制限。
これが0時を回ったらではなく、使用してから24時間後ということはこれで確定となった。
ならあとはしっかり時間管理をしないと、1日分を漏らすことにもなってしまう。
決して……決して全員がまず超絶美人の可能性が高い女神様達とおしゃべりしたいからではない。
そう、求めているのはスキル経験値だ。
俺はストイックな男。
女に現を抜かして狩りをサボるようなタイプではないはずなのだ。
でもでも、それでも昨日話したリステ様の声と雰囲気は凄く良かったと思う。
ちょっと冷たい事務的な口調の中に、たまに照れる場面や俺を心配してくれる場面があって……
声だけで想像するなら、大企業の出来る超絶美人秘書とかそんなポジションに収まっていそうな気がしてならない。
はぁあああ~……
今日は誰かな!
誰が出るのかな!?
【心痛】
間違えた。
【神通】
(おっ!ロキ君かな?)
「もしもし? ロキです! 昨日は途中で切れてしまいすみませんでした」
(いいよいいよ。そういうスキルだからさ。今日は私、豊穣の女神フェリンが担当するよ~よろしくね!)
「よ、宜しくお願いします。昨日の反省を踏まえ、スキルレベルを上げましたので、今日から2分でお願いします!」
(おぉー!! それは皆喜ぶよー! 私達なんて下界を大雑把に覗くくらいしか娯楽がないからさ。基本的に暇だから、直接何かができるっていうのはそれだけ嬉しいんだよね!)
「そうなんですか。もう一人の神子という人とはあまりしゃべらないんですか?」
(神子は下界でも特殊な存在だから、年に1回、決まったタイミングでしか【神通】を使ってくれないんだよね。しかも話がビックリするくらいつまんないの!)
「それはなんとも勿体ない話ですねぇ……」
(何言ってんの! ロキ君だって早々に使わなくなったくせして!)
「いや、あれはあまりのクソスキル……失礼。雑談っぷりに3日ほど呆然としてしまいまして……」
(皆テンション上がっちゃってたからね~ごめんね! もう当番制にしたから大丈夫だよ安心して!)
「分かりました!」
た、楽しい……
フェリン様は会話だけで元気溌剌といった感じで、落ち込んだり疲れている今日みたいな日には最高の女神様だな!
なんだか俺の失われた青春時代を取り戻している感じがするぞぉおおおおおおお!!!
「「「ギャー!!(……ッ!!)楽しいだって!!」」」
「もう! そんなこと言っちゃって! しょうがないなぁ……フェリン様がロキ君の疑問に答えてしんぜよう!」
「結局しゃべっても心の中が筒抜けですけどありがとうございます! 実は俺がどうしても欲しいスキルがありまして……今日はそんなスキルがこの世界に存在するのかを確認したかったんですよ」
「ふむふむ。私達は人種が使える可能性のあるスキルなら全部使えると思うから、どんなのか言ってもらえれば分かるんじゃないかなー?」
「おぉ! そ、それでですね、用途としては荷物などを別の空間にしまって自由に出し入れができるというやつなんです。名称は収納とかアイテムボックス、インベントリなんて言い方をしたりもします。どうでしょう? この世界にありそうでしょうか?」
「ん~荷物を別の空間に仕舞う……それって【空間魔法】の応用じゃないかな? というかそんな用途が目的で、リステがどっかの異世界人にスキルを授けていた気がするよ!」
「うぉおおおおお!! あることはあるんですね! 労せず手に入れたチート野郎には怒りの鉄拳をぶち込んでやりたい気分ですけど、これで俺も希望を持つことができました!! ちなみにその【空間魔法】の取り方というのは分かりますか? まだ俺のステータス画面だと隠れていて、取得条件すら分からないんですよ!」
「う~ん……ごめん! それは分からないや! 私達は初めからスキルを持っていたから、途中の取得条件とかはよく分からないんだよね。でも人種が魔法の取得方法とか発現方法を研究していたりするから、その手の内容を纏めた本とか研究施設に行けば分かるんじゃないかな!」
「そ、そうでしたか……でも凄く有難い情報です! さすが女神様! さすがフェリン様です!」
「いや~それほどでも~! 他は? 他には!?」
そう言われると聞きたいことは山ほどあるが……中途半端なタイミングで聞けば途中で終わってしまいそうだし、何よりフェリン様との会話から女神様が暇で、こうして会話できることを楽しんでいるように感じる。
それならこちらから一方的に質問ばかりするのは良くないだろう。
まさに営業。
相手から話をさせることが女神様達の満足感にも繋がるはずだ。
「聞きたいこと、確認したいことはまだ色々とありますけど、それはその時気が向いたらにしようと思います。それより昨日中途半端になってしまった女神様達の上司の件は大丈夫そうなんですか?」
「あれね~。皆と少し相談はしたけどさ。結局私達にできることは何も無いってなって、いつも通り世界の監視、観測を続けるということになったよ」
「そうでしたか。あの話をして混乱させちゃったかなーと、ちょっと後悔してたんですよ」
「気にしなくていいし、逆に気になることがあれば言ってほしいくらいだよ? 前にも言ったけど私達はこの世界全体を見ているのであって、個人を見るようなことはしないしできない。だから私達では君がなぜこの世界に呼ばれたのか分からないと思うんだよね!」
「全体……つまり、大事になって初めて気付くということですかね?」
「まさにそれ! フィーリル……生命の女神が世界の人口推移とか観測してたりするけど、戦争が起きて死人が増えれば気付けても戦争が起きる前には気付けない。それに戦争が起きたからといって特別手を加えたりはできないんだ」
「あくまで監視、観測しているだけってことですね」
「そうそう! 私達が下界に干渉なんて、よほどのことじゃない限りは禁忌だからね。それこそ人種滅亡の要因になり得るレベルじゃないと無理なのさ。だからロキ君が直接動いた方が、君がこの世界に呼ばれた理由なんかも分かるんじゃないかな?」
「なるほど……まぁ今僕自身に何かが起きているという感じもしませんし、この世界の人生を楽しみながら何か気付けば報告しますよ。困ったことを教えてもらえるお礼ということで!」
「良いね! お礼と言えば、顔を見せに来てもいいんだよー? 私とリステとフィーリルはまだロキ君と会ってないんだから!」
「あぁそうでしたね。うーん丁度明日の午前中は空いてますし……やることをやって時間があまりそうなら教会に寄ってみますよ」
「「「おぉおおおおー!!」」」
「ただ以前も突発的に呼ばれたおかげで神官さんにかなり迷惑かけましたので、絶対ではないですからね! そこのところは宜しくお願いしますよ!」
「大丈夫大丈夫! 来てもらえればなん―――……」
(あ、終わった……)
最後はなんだか楽観的過ぎて少し不安だけど、フェリン様の性格とも言えそうだし、こっちでなんとかするしかないのかな……
まぁ『女神様への祈祷』だけなら神官やシスターは横にいないし、誰もいないタイミングを狙って祈祷している風に神像の前で跪けば、あとは女神様達がなんとかしてくれるだろう。
ふふふ。残りの3人はどんな容姿をしているのかなー?
かなり楽しみだなー!
殺す殺さないの話であれば二度と行きたくないが、こんな関係性ならば会いに行くのも吝かでは無い。
だって俺も男だし!
せめて髪型くらいは綺麗にして行こう。
そう思いながら、残りの魔力を指先マッチで使い切っていくのであった。
評価等応援頂いた方々ありがとうございました!
想像以上に日間ランキングを上れてビックリしてしました。
ここからは投稿しまくっていると続きが書けないということに気付いたので、第3章が終わるまでは1日2話くらいのペースで投稿をしていこうと思います。
それでは本作のRPGをまったり楽しんでいってください。