446話 模擬戦、再び
拠点の資材倉庫にて。
ロッジに呼ばれ、長机に並んだ各種装備を眺めながら説明に耳を傾ける。
「まずこいつが新しく作り直したガルグイユの――、名前は『蒼竜の鱗鎧』だったか? それと褐色のこっちがゲイルドレイクの素材を使用した方だ。ゼオは『砂竜の鱗鎧』だかって名前を付けていた」
「腹回りとか胸部とか、筋のように通っているのがグリムリーパーの骨?」
「そうだ。柔軟性を損なわない範囲で斬撃に対しての強度を上げてある。それぞれ扱った感じだと、ゲイルドレイクの方が物理的な攻撃には強いだろうな」
「了解。ただ、どうかな……どっちを装備してもすぐボロボロにされる可能性が高いから、今回使うのは素材入手難度が低いガルグイユの方にしておくよ」
「いったい何と戦うのか知らねぇが、素材さえあればいくらでも作り直してやるからそこら辺は好きにしてくれ。んーで、こっちが要望の武器だ」
ふふ、いいじゃない。
目の前には薄いゴールドと緑が混ざったような、淡く輝く特大剣が置かれていた。
「ここの素材をかき集めて造ったアダマンチウム製だ。以前の大剣よりもさらにデカいからな、一応振ってみろ」
そう言われ、目の前で好きなように振り回す。
うん、重さはさほど感じない。
かなり扱いやすいし、あとは片刃という部分に慣れれば問題ないかな。
「見てて怖くなるくらい速ぇな……」
「すぐ馴染んで良い感じだよ。ありがとね」
あと2本、研いでおいてもらった『刻踏残刃』と『氷雪剣』も受け取るけど、この手の特殊付与装備を使う予定はまったく無い。
いくら模擬戦とは言え、リル相手では平気で武器破損に繋がる恐れも出てくる。
ボキッと折られた時の損害と俺の精神的ダメージが恐ろしいことになるので、武器も防具も破損は前提。
この辺りを考慮した装備で挑ませてもらおうと、自分自身のステータス画面をゆっくり眺めた。
名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>
レベル:62 スキルポイント残:266 (技能の種により+22)
魔力量:14196/14196 (740+13456)
筋力: 8181 (403+6984) ゲイルドレイク(+794)
知力: 5608 (404+4584) ガルグイユ(+620)
防御力: 6807 (397+5723) ヴァラカン(+687)
魔法防御力:5336 (397+4274) グリムリーパー(+665)
敏捷: 3848 (397+3249) ウィングドラゴン(+202)
技術: 9573 (396+9177)
幸運: 7162 (397+6351) グリムリーパー(+414)
加護:無し
称号:《王蟻を討てし者》
取得スキル
◆戦闘・戦術系統スキル
【剣術】Lv10 【短剣術】Lv9 【棒術】Lv8 【体術】Lv10 【杖術】Lv9
【盾術】Lv9 【弓術】Lv9 【斧術】Lv9 【槍術】Lv9 【槌術】Lv8
【鎌術】Lv7 【暗器術】Lv6 【暗殺術】Lv7 【二刀流】Lv8 【投擲術】Lv9
【狂乱】Lv8 【威圧】Lv9 【捨て身】Lv9 【挑発】Lv9 【両手武器】Lv9
【射程増加】Lv9 【指揮】Lv9 【騎乗戦闘】Lv9 【身体強化】Lv10
【鼓舞】Lv9 【手加減】Lv9 【闘気術】Lv5
◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv9 【雷魔法】Lv9 【水魔法】Lv9 【土魔法】Lv9 【風魔法】Lv9
【氷魔法】Lv9 【光魔法】Lv8 【闇魔法】Lv8 【無属性魔法】Lv8
【回復魔法】Lv9 【結界魔法】Lv6 【空間魔法】Lv6 【時魔法】Lv5
【神聖魔法】Lv3 【呪術魔法】Lv5 【精霊魔法】Lv4
【魔力操作】Lv9 【魔力感知】Lv9 【発動待機】Lv8 【多重発動】Lv2
【省略詠唱】Lv8 【魔法射程増加】Lv9 【魔力纏術】Lv6 【土操術】Lv3
◆ジョブ系統スキル
【建築】Lv9 【採掘】Lv9 【伐採】Lv10 【狩猟】Lv10 【解体】Lv10
【料理】Lv10 【農耕】Lv10 【釣り】Lv9 【裁縫】Lv8 【鍛冶】Lv6
【芸術】Lv7 【描画】Lv7 【細工】Lv7 【加工】Lv8 【畜産】Lv10
【採取】Lv9 【話術】Lv8 【家事】Lv10 【交渉】Lv8 【演奏】Lv7
【薬学】Lv7 【作法】Lv8 【舞踊】Lv7 【歌唱】Lv8 【彫刻】Lv6
【錬金】Lv6 【酒造】Lv8 【庭師】Lv8 【医学】Lv6 【装飾作成】Lv5
【魔法学】Lv5 【魔道具作成】Lv4
◆生活系統スキル
【跳躍】Lv9 【空脚】Lv4 【飛行】Lv8
【異言語理解】Lv10 【獣語理解】Lv8 【調教】Lv8
【算術】Lv9 【暗記】Lv9 【魔力譲渡】Lv7
【聞き耳】Lv8 【読唇】Lv4 【拡声】Lv9 【遠話】Lv4
【隠蔽】Lv10 【気配察知】Lv10 【鑑定】Lv9 【心眼】Lv9
【探査】Lv9 【広域探査】Lv4 【騎乗】Lv9 【泳法】Lv8
【逃走】Lv8 【忍び足】Lv9 【俊足】Lv9 【縮地】Lv5
【罠生成】Lv8 【罠解除】Lv7 【罠探知】Lv8 【魅了】Lv4
【視野拡大】Lv10 【遠視】Lv10 【夜目】Lv10 【視界共有】Lv4
【付与】Lv5 【写本】Lv4 【自動書記】Lv3
◆純パッシブ系統スキル
【魔力自動回復量増加】Lv9 【魔力最大量増加】Lv9
【物理攻撃耐性】Lv10 【魔法攻撃耐性】Lv8 【鋼の心】Lv10
【剛力】Lv10 【明晰】Lv9 【金剛】Lv10 【封魔】Lv9 【疾風】Lv9
【絶技】Lv9 【豪運】Lv8
【毒耐性】Lv9 【麻痺耐性】Lv5 【睡眠耐性】Lv6 【魅了耐性】Lv6
【石化耐性】Lv6 【呪い耐性】Lv4
【火属性耐性】Lv9 【土属性耐性】Lv8 【風属性耐性】Lv8 【水属性耐性】Lv8
【闇属性耐性】Lv7 【雷属性耐性】Lv7 【氷属性耐性】Lv7 【光属性耐性】Lv6
◆その他/特殊(使用可)
【神通】Lv2 【地図作成】Lv4 【魂装】Lv6 【神託】Lv1 【奴隷術】Lv7
【魔物使役】Lv8 【威嚇】Lv7 【転換】Lv7
◆その他/特殊(使用不可)
【獣血】Lv4
◆その他/魔物(使用可)
【噛みつき】Lv8 【穴掘り】Lv8 【光合成】Lv7 【突進】Lv8 【旋風】Lv6
【睡眼】Lv3 【爪術】Lv8 【洞察】Lv4 【踏みつけ】Lv8 【招集】Lv7
【硬質化】Lv7 【酸耐性】Lv8 【状態異常耐性増加】Lv7 【咆哮】Lv7
【強制覚醒】Lv9 【嗅覚上昇】Lv5 【火炎息】Lv7 【発火】Lv6 【白火】Lv1 【炎獄柱】Lv5 【灼熱息】Lv6 【丸かじり】Lv6 【分解】Lv3 【吸収】Lv3 【氷結息】Lv7 【石眼】Lv7 【物理攻撃力上昇】Lv6 【物理防御力上昇】Lv4
【不動】Lv7 【衝撃波】Lv6 【地形耐性】Lv6 【廻水】Lv5 【鏡水】Lv4 【透過】Lv5 【恐怖】Lv6 【封印】Lv5
【熱感知】Lv5 【陽炎】Lv6 【流砂】Lv7 【砂嵐】Lv7 【砂硬鱗】Lv5 【昼寝】Lv4
◆その他/魔物(使用不可)
【胞子】Lv5 【泥化】Lv5 【呼応】Lv7 【粘糸】Lv4 【脱皮】Lv6
【酸液】Lv7 【擬態】Lv7 【気化】Lv8 【毒霧】Lv8 【結合】Lv8
【分離】Lv8 【火光尾】Lv5 【絶鳴】Lv7 【幻影】Lv7 【影渡り】Lv6
【地縛り】Lv6 【属性変化】Lv7 【無面水槍】Lv5 【睡夢鱗粉】Lv4
【膨張】Lv1 【甦生】Lv8 【共食い】Lv4 【粘液】Lv5 【分裂】Lv6
【砂泳】Lv7
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ここからは早かった。
上台地に向かい、夕食のついでに準備が整ったことを告げれば、待ちきれないリルはそのまま食事の後にやろうと言い出す。
さすがに翌日くらいかと思っていたが、
「私達は支障のない夜にやってもらえれば……間違いが起きないよう、皆で見学させてもらいますので」
アリシアに視線を向けるとこのように言う。
ならば俺も無理に明日へ引き延ばす理由はないので、戦う場所を求めて上台地の奥深くへ。
山の裾野に広域の平坦な土地を見つけ、フェリンを中心に、皆に手伝ってもらいながら模擬戦場を作り出していった。
魔物に邪魔されても嫌だし、森の中じゃスキル面で特大のハンデを背負うリルがまともに動けないからね。
大量過ぎる資材はそのままベザートで活用すればいいので、俺はビュンビュン飛んでくる木や石を収納していくだけの簡単なお仕事である。
「ねぇロキ君、どのくらい広げればいいの?」
「あっ、あぁ、どうしようね」
唐突に、誰かが投げた木材の上に乗って現れたフェリン。
なぜか三つ編みのピンクなおっさんを幻視しながら暫し考え、遠くでやり投げみたいに木をぶん投げてくるリルへ問いかける。
「リル! 一応確認するけど、どのくらいの規模でやりたいの!?」
「もちろん全力だー! ロキの全力を見てみたーい!」
遠くで両手をブンブン振りながらアピールしていた。
はぁ、予想通りの分かりやすい回答だな。
全力ということは初めての時と同じ、魔法あり、魔物専用スキルありの、なんでもありありルールをご希望ということだろう。
(さて、どうするか……)
正直、どこまでやればいいかはかなり悩む。
俺の目的はただ一つ。
50%分体のリルを相手に自分の力量を測り、裏ボスに手を出せる段階なのか判別すること。
それだけだが、かつて酸で爛れた痛々しいリルの姿を見ているだけに、いくら【分体】であろうとなんでもありの戦い方というのは気が引けた。
一番手っ取り早いのは【洞察】を使うことだけど……
(いや……やっぱり、ダメだろ)
僅かな逡巡。
リルに改めて視線を向け、その選択を自ら否定する。
身体中から喜びが溢れまくっているあの姿を見れば、使いたくても使えない。
【洞察】を使った後の反動はよく分かっているんだ。
大丈夫だとは思っているが、もし万が一、まだ途方もない力量差があった場合。
俺は暫くまともに立つことができなくなるし、腐敗のドラゴンを思い返せば、俺は当面の間リルの前で武器を握れなくなる可能性だってある。
心の底が恐怖で浸されるというのはそれくらいに強烈で、抗おうと思って抗えるものでもない。
となると――。
「もう少し余裕があってもいい、かな?」
「りょうかーい! もうちょっと待っててね!」
見渡すと、前に開拓してもらったベザートくらいの広さは確保されていた。
ならもうちょっと。
広範囲魔法の使用も考え、かなり先まで見通せる模擬戦場は作られていく。
――そして、約2時間後。
均された台地の中心で、俺とリルは対峙していた。
上空には広域を照らした、いくつもの光玉。
横には審判役を買って出たアリシアと、いつになく真剣な眼差しを向けるフィーリルが。
その後ろにはフェリンとリステ、それにいつもと変わらない表情のリアもいる。
「リガル、分かっていますね?」
「ああ、もちろんだ。所持しているのは【手加減】だし、何があろうと切らすようなことはしない」
リルは正装と呼んでいた、馴染みある神界産の鎧をずっと着ていた。
武器は無し――、無手だ。
「ロキ君はリガルも望んでいることですので、特に制限はなく、好きに試したいことを試してください。ただし――」
「うん」
一度言葉を切り、アリシアはフィーリルに視線を向けてから言葉を続ける。
「私の判断で、これ以上は危険だと思ったら止めに入ります。フィーリルの治療が入ってもそこで終わり。すぐの再戦は認めませんので、まだ実力が足りていないと思って暫くは諦めてください」
「分かった。でも自前の【回復魔法】だってあるし、完全に意識を飛ばすとかでもなければできる限り見守っていてほしいかな。今後のためにどうしても必要だと思って、俺がリルにお願いしたんだから」
「……分かりました。水を差さないようにはするつもりです」
この時、2人だけでなく、後ろの3人も、皆がリルではなく俺を見つめていた。
その不安気な表情を見れば、何を思っているのかはすぐに分かる。
リルには勝てないと。
レフェリーストップに入るタイミングをどうするのか。
そんなことを考えているんだろうな。
(ま、当然か……)
前回の結果だってあるし、いくら成長していると言っても、まだようやく身体が出来上がってきた程度。
特に未来永劫を生きる女神様達にとっては、この1年半なんてほんの一瞬の出来事にも思えるだろう。
でも、俺の予想が正しければ――
「ロキ、本当に感謝している」
「ん?」
――リルは穏やかな表情のまま、真っ直ぐに俺を見つめていた。
「私はあの時、同じ過ちを二度と繰り返さないと誓った。その気持ちに偽りはない」
「うん」
「だが、そのあとにロキは言ってくれたな。楽しむことは悪くないと」
「今だってそう思ってるよ」
「だから今回は、存分に楽しませてもらう。私をロキの想定する敵だと思って、存分にかかってこい」
「分かった。胸を借りるつもりで挑ませてもらうから」
この言葉を皮切りに、リルが纏う空気が変わる。
決して以前のように、人を狩り殺すような鋭い眼差しをしているわけではない。
でも一瞬空気が震え、すぐに冷えて張り詰めたような感覚に襲われる。
剥き出しの殺気とも違う。
ファニーファニーや剣士のじいさんを相手にした時にも感じた、強者特有の空気感であり緊張感だ。
身体の硬直を解くように、細く、細く、息を吐く――。
「では、始め」
そして、アリシアの声が静かに響いた。