442話 神スキルの予感
3回が5回になり、5回が8回になり。
最終的には「もう引き当てるまで絶対寝てやんないんだから!」と、ムキになったことを激しく後悔し始めた6日目の朝。
「かはぁ――……よしキタ! もうキタ! やっとキタッ!!」
極度の寝不足の中、フラフラになりながら突入した都合12回目のチャレンジで、ようやく別のエリアに入れたことを理解し、その場で渾身のガッツポーズをとってしまう。
なんせ視界の先にはパルメラ南部に生息しているBランクの魔樹が、同じように釣り用の熟れた実を垂らして生えているのだ。
それに降り立った場所が毎度の草原ではなく、つい最近のマルタのような、荒廃が進んだボロボロの町に切り替わっていた。
空は日の光を遮るように厚い雲が広がっているけど、もしや城壁の中に入れたんだろうか?
姿形はソックリでも、近くで見ると実はボロボロだった古城が、なんとなくそう思わせてくれた。
「あぁ~どうしよ、死ぬほど眠いけど、一応調べておくか……」
もう身体は限界だ。
でもせめて魔物のランク帯と構成、それに所持スキルくらいは把握してから眠りたい。
一番近くにいた『魔樹』を切断し、問題なく収納できることを確認した後、少し宙を舞って狩場を広く見渡す。
(1、2、3……4、5……6……7、ははっ、半分くらい新種魔物かよ。新しいスキルはあまりなさそうだけど、それでも魔物専用スキルはそこそこ伸ばせそうかな)
そしてどうしても気になったスキルを持つ、1メートル程度のネズミみたいな魔物に狙いをつける。
一本一本が際立っている様に見える特徴的な体毛。
俺の知る知識に当てはめても、このスキルをどう活用するのかまったく想像ができない。
近くに降り立ち、ジッと見つめる。
するとその魔物は、全身の体毛をピンと立たせてから身体を丸め、勢いよくこちらに転がってきた。
ほほぉ、【突進】も持っていたけどそうくるか。
適当な剣でぶっさせばいいのだから、倒すのは簡単だ。
たぶん蹴飛ばしても、俺があの棘に刺さることはないだろう。
だが、気になるので避けてみれば、そのハリネズミっぽい魔物――たしか先日読んだ『魔物図鑑』だと『マトン』というDランク魔物で間違いないと思うが、そいつはメインストリートと思われる通りをそのままどこまでも転がっていく。
「おーい」
さすが【逃走】持ち。
こうして攻撃しながらどこかへ逃げていくとか斬新過ぎるぜ……
って、違う、知りたかったのはそっちじゃない。
慌てて追いかけると、先ほどのマトンは壁にぶつかったんだろう。
既に尖らせていた体毛は引っ込んでおり、その場で腹を出して豪快に寝ていた。
なんとも自由過ぎる魔物だが、マトンのスキルを覗くとこうなっていたのだから、この不可解な行動にも納得である。
マトン:【突進】Lv3 【昼寝】Lv1 【逃走】Lv2
本来寝ないはずの魔物がこうして寝ているわけだし、どう見ても【昼寝】というスキルのせいであることは間違いない。
が、やっぱりこの姿を見てもまったく効果を予想できないな……
「ふん」
「ムキュッ……」
腹の中から魔石を抜き取り、死体はとっとと収納。
どうせ帰って寝るなら、睡眠に繋がるこのスキルだけでも取得したい。
結局そんな理由をこじつけながら、限界の限界を迎えるまで狩りをしてから拠点に帰還。
今が朝の9時であることを確認してから布団に潜り込み、
――【昼寝】――
スキル使用後、たぶん俺は5秒もかからず爆睡した。
そして――、ムクリと。
気だるさも無く、妙にスッキリとした目覚めを迎える。
腕時計を見ると針は3時を示していた。
「ん……どっちの3時だ?」
そう思って外に出てみると、外はまだ普通に明るい。
まさかな。
そう思いながら、湖に向かって魔法をぶっ放していたエニーとゼオに声をかける。
「おはよ、俺どのくらい寝てた?」
「む、もう起きたのか」
「どのくらいって、6時間とかそのくらいじゃないの? 凄い顔しながら『俺、寝る』って、意味分からないこと言ってきたの、今日の朝だし」
「マジか」
となると、【昼寝】の効果は地味に凄いんじゃないのか?
【昼寝】Lv2 仮眠することで急速に体力と魔力を回復させる その効果はスキルレベルによる 魔力消費0
このように、説明文だけでは具体的なモノが何も見えてこない。
でもここまで疲労が溜まれば、今までなら15時間はぶっ通しで寝るくらい当たり前だったのだ。
それにいくら俺が徹夜常習犯だと言っても、さすがに6日はない。
せいぜい3日4日程度ということも考えれば、疲れ過ぎて今回は丸一日寝続けたっておかしくないと思っていたのに、それが6時間でこれだけスッキリしているとなれば……
「やっば、神スキルきたかも」
「え?」
久々に引いた超大当たりスキルの可能性に、胸がドキドキと高鳴ってしまう。
今も昔も、睡眠時間はどうしたって敵なのだ。
削れるなら削りたいし、それがリスク無しで叶うとなれば、これはもう最高以外の何ものでもない。
「ふふ、ふははは……ふはーっはははっ!」
「し、師匠!? ロキがおかしくなっちゃったんだけど!」
「大丈夫だ、前からだから問題ない」
これは要検証だ。
通常の1日サイクルで寝た場合、このスキルを使えば俺はどれほどの睡眠時間で満足するのか。
書いてないだけでリスクが隠れているかもしれないし、その辺りは試していかなければ見えてこない。
「ふふ……上手くいけば超ショートスリーパーで稼働時間増えまくりかも」
そんな妄想を垂れ流しながら、俺はせこせこと狩りの準備を整え、再び城下町エリアへと向かった。