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438話 意外な住人

 下台地に転移すると、真っ先に走り寄ってきたのはカルラとエニーだった。



「何これー! 《夢幻の穴》もう見つけられたの?」


「すっごぉおおー!! これがSランクの魔物!?」


「違う違う。一応Sランクの魔物だけど、これは覚醒体の素質を持ったヤツだね」



 そう説明すると、まったく分かってない二人の背後から登場したゼオが感心したように呟く。



「ほう、魔物を好んで喰らう特殊個体か。元はウィングドラゴンなのか? それなりに成長しているように見えるが」


「さすがゼオ、よく分かってるね~」



 言いながらポンポンと横腹を叩くと、ウィグが挨拶を始める。



「主からウィグという名を頂いた。よろしく頼む」


「通訳すると名前はウィグね。ちょっとコイツは今後の成長過程を把握しておきたいから、拠点で過ごしてもらうことにするよ」


「ふむ、それは構わんが……ウィグには何をさせる?」



 んん? うーん、どうしよ……


 大量に食わせて成長させることしか考えていなかった。


 改めてその姿を眺めるも、ジェネみたいに解体作業なんてできるような手はしていないし、やれるとしたらブタ君と一緒に周囲の警護くらいか?


 この広場に侵入した事例もないから、かなり形だけになるっぽいが……あっ!



「【風魔法】使えるから、木の伐採係にいいんじゃない? 竜種に手先の器用さは求めちゃダメだろうけど、魔法をどう使うかならすぐ学習しそうだし」


「なるほどな。確かに、それなら我の魔力を他に回せるか。その脚で丸太くらいなら十分運べるだろうし、木材調達を担当してもらうとしよう」


「あとは、アレよ。一番の目的は残飯処理ね」



 指を差しながら裏庭に視線を向けると、虫型のAランク魔物『オドゥン』の"中身"が山のように積まれていた。


 ウィングドラゴンの肉は高級品として、グリフォンの肉もやや筋張ってはいるが食用として売り捌くことは可能。


 しかしオドゥンは外殻の素材転用は可能でも、中身は食料でないため大量にいらない肉が余ってしまっている。


 他にもCランクの爬虫類系魔物ヨーウィー、それに同じ外殻だけ素材価値があるハイドスコーピオンも肉の貰い手が解体しながら食っているジェネしかおらず、今回は特に図体のデカいオドゥンのせいで溜まる一方になっていた。


 それなら処理係がもう1匹いたっていいだろう。


 わざわざゴミ処理で拠点の外に撒く手間もかからず、それでいて覚醒体予備軍の成長度合いを計測できるのだから一石二鳥だ。



「カルラ、売り物にならない魔物の残骸は、どんどんウィグにも食べさせちゃっていいからね」


「りょうかーい! この大きさならかなり余りモノを食べてくれそうだよね!」


「ウィグも、俺はずっとここにいるわけじゃないから、ここの人達の言うことちゃんと聞くように。奥には解体しているジェネって仲魔もいるから仲良くね」


「承知……!」



 ふぅ~。


 これでひとまずは大丈夫かな?


 ケイラちゃんが木の陰からコソッとこちらを覗いているけど、あとはゼオに皆を紹介してもらえば大丈夫だろう。


 となると――



(【魔物使役】のコストは今で605/700か)



 なら多少余力を残したとしても、もう1匹くらい問題ないか。


 そう思い、売り物用として倉庫に大量保管されていた魔物素材を収納後、ヘルデザートでグリフォンを1匹調達してからベザートに向かった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 ざわざわ、と。


 周囲の騒めきを気にせずに向かったのは、既に仮営業を開始しているニューハンファレストだった。


 中を覗けば、広いロビー全体を見渡すように立つウィルズさん。


 既に受付には、たぶんベザートの町民かな?


 見覚えだけはある綺麗目な女性が立っており、ロビーとして機能するよう様々な家具類も配置されていた。


 クアド商会から持ってきたモノなんだろうけど、センスのある人が配置するとやはり違う。


 既に以前のハンファレストと同等の高級感が漂っていた。



「こんにちは~」


「おや、ロキ様。横にいるのはグリフォンですか」


「ですです」



 ウィルズさんはSランクハンター並みに強いからな。


 姿を見てすぐに分かるということは、かつて倒したことがあるんだろう。


 それなら話が早いと、グリフと名付けたグリフォンを紹介する。



「以前お伝えしていた警護用にと思いまして。基本的には何もしませんが、もし悪さをした者が現れた場合は呼びかけてください。まぁウィルズさんの場合は、自分で処理された方が早いと思いますけど」


「ふむ……それでも弱くはないと一目で分かる魔物です。私などが目を光らせるより、よほど抑止の効果は大きいでしょう」


「そのための門番みたいなものですからね。ただ本当に、手に負えないほどマズい相手が現れた場合は……」


「承知しております。『緊急』であることをこの魔物に伝えろ、という話ですね」


「ええ、そうならないことが一番ですが。それにしても……本当に見違えるほどの内装になってきましたね」



 まだすべてではないにしても、予め作っておいた窓枠にはガラスがはめ込まれ、かなり磨いたのだろう。


 外観とは違い、ロビーの床と壁面は光を反射するほどピカピカに輝いていた。



「まだロビーくらいですが、磨きの加工を得意とする者達に仕事をしてもらっております。<彫刻士>の手も既に入っているので、これからさらにこの宿は上質なものへと生まれ変わっていくでしょう」


「へぇ~凄い技術ですね……」



 フラフラと中を進むと、既に数本の柱には俺の【土操術】では手に負えないような、精巧な模様が彫り込まれていた。


 柱は何十本とあるのでまだまだ時間は掛かるだろうし、今その職人さん達が窓枠の辺りに集まって何かしらの作業をしているので、ここだけの話じゃないんだろうけど……


 ん~いったいどんな姿になるのか、今から楽しみでしょうがないな。



 それにしても――



「……さっきから、良い匂いがしますね」



 館内に入って漂う、嗅いだことのある、少し懐かしい匂い。



「既にボーラ殿が、館内にレストランを開いておりますから、きっとそのせいでしょう」


「あーなるほど」



 その通りなんだろうけど、でも何か腑に落ちない。


 これはあの怖いボーラさんに関係なく、嗅いだことがあるはずの匂いなのだ。


 クンクンと辿ればそこは言われたレストランなのだが、中を覗いて、あぁそういうことかとすぐに納得する。



「『かぁりぃ』の店主までここで働いてるんですか!」


「よぉ王様。久しぶりに食ってくかい?」



 うん、見間違うわけもない。


 インド人店主が、なぜかボーラさんと一緒に働いていた。


 さっきから俺の鼻を刺激していたのは、このスパイシーな香りである。



「あんな香辛料しこたま使った料理なんて、味も値段も庶民向けじゃないんだ。それならこっちでその味を活かした方が意味もあるってもんだろう」


「たしかにー! それは凄く納得なんですが、えーっと、なぜ、渋いおじさんまでここにいるんでしょう……?」



 俺の視線はさらに横へ。


 そこには見覚えのある意外な人物。


 デカい盾を持ったSランクハンターの――、確かノディアスというおじさんが慣れた様子で鍋を振っていた。


 いやいやいや、元々料理人のインド人がここにいるのはまだ理解できるけど、こっちはさっぱり意味が分からない。



「あの戦以来だな、ロキ殿。ひょんなことがあってここで働くことになった。よろしく頼む」


「まったく説明になっていない気がするんですけど……?」


「あたしとウィルズ殿が誘ったんだよ。定食屋でも開こうなんて呑気なこと言ってたからね」


「そろそろ歳で体力が厳しくなってきたというのもあってな……元々野営で自炊していたから飯を作るのは得意だし、世界を旅して様々な国の料理を知っているから、引退したら趣味も兼ねて飯屋でも開こうかと思っていたのだ」


「なるほど……Sランクハンターともなれば世界を旅するというのも理解できますが、でもマルタが故郷でしたよね? そっちで店を開こうとは思わなかったんですか?」


「当然、そう考えていたさ。しかし資材の入りがどうしても遅くてな」


「あぁ……」


「店を構えるにしたってまだかなり時間は掛かりそうだし、待っていたところで大してすることもない。だから先にとてつもなく巨大な商店があると噂のアースガルドを見に来たのだ。そうしたらまさかのウィルズ殿がいてな」


「彼がそろそろ腰を落ち着けて店を構えるなんて言い出したものですから、それならと、私がボーラ殿を紹介したのです」


「今は『地図』なんてもんが出てきて楽にはなったみたいだけどね。それでも多くの国の料理を知ってるってのはそれだけで希少なんだよ。それに世界の食材を持ってこれる者だって目の前にいる。なら活かすしかないだろう?」



 そう言ってボーラさんは俺をジッと見据えた。


 うーん、確かに、まだ無理だけどそう時間も掛からず、大陸中の食材はよほど希少でもなければ持って帰ってこれると思う。


 フェリンも上台地のバカデカい畑でいろいろな作物育ててるしなぁ……



「ここなら馬を駆れば半日もかからずマルタに着くし、何より俺自身がボーラ殿からより深い料理の技術と知識を学べる。俺にとっては何かと都合が良いのだよ。すぐ横には何が売っているのか未だ把握しきれていない面白い店だってあるしな!」



 そう言いながら豪快に笑うノディアスさんは、凄く満足そうな顔をしていた。


 なら俺が止める理由なんてまったくないな。


 それに――



「何か問題が起きた時、Sランクハンターという立場は貴族に対しても相応の力を示せるものです」



 横でソッと呟いたウィルズさんの言葉に、なるほどと小さく頷く。


 深い事情は分からんが、たぶんいくら貴族連中と言えど、Sランクハンターの肩書にはそれなりにビビるってことなんだろう。


 となれば、絶対貴族の前に出たくないボーラさんを守る盾にもなってくれるか。


 あのおじさん、元タンカーだけあって頼もしいしな。



「了解です。ちょっと今食べる余裕がないのでまた今度来ますけど、皆さん、マイペースに楽しみながら頑張ってください。欲しい食材とかあったらリストにしといてもらえれば、僕が買えそうな場所なら買ってきますので」



 そう言い残し、俺はかなり荷車が出入りしている横のクアド商会へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そろそろスライム先生の出番じゃないかな!
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