411話 8000人から得られたモノ
その日の晩。
かつては書斎として使用していた、今は大きな机だけが存在感を示す秘密基地内の一室にて、そろそろこんな趣味を作ってもいいかと、【土操術】で壁から留め具を生やし、戦利品で得たものの使わなそうな特殊付与装備を壁にかけていく。
分離して磁石のようにくっつけることができる『磁双の斧』、【射程増加】のスキルレベルが+2上昇する『風貫の大弓』。
ここら辺はまず日常的に使うこともなさそうだが……
ヘディン王から『赤無垢』と一緒に貰ったこの槍。
【集敵】レベル3の特殊付与が付いたAランク呪具――『邪魅の乱槍』
コイツは雑魚狩りでスキル経験値を稼ぎたい時にかなり重宝しそうなので一応キープ。
そして、
【氷魔法】のスキルレベルが+1上昇と、氷属性付与の付いたAランク長剣『氷雪剣』
【縮地】のスキルレベルが+2上昇が付いたSランク長剣『刻踏残刃』
この2種はどちらも剣だし、成長期が終わるまではマイ装備の製造も一旦中止なので、いざという時のために持っておいても良さそうかな。
あとはゼオが元々使っていた『破天の杖』も、魔法の威力を引き上げたい時に使えるから一応持ち歩くとして――、でもそのくらいだ。
他にも窮地に陥るほど、何が強くなるのか分からないけど強くなるらしい【底力】が付いた指輪とか、【自然治癒力向上】が付いたイヤリングとか。
チラホラと特殊付与っぽいなーと思うアクセもあったりするが、如何せんスキルレベルが低いモノばかりで、わざわざ【魔力自動回復量増加】Lv9の多重付与を捨ててまで着けるほどの価値があるとは思えなかった。
残った枠に自前の【付与】はできそうだけど、一度付ければ消せないとなると、スキルレベル10にしてからでないと勿体ないって思っちゃうしね。
うん、こうなると流れで俺が持ったままだった『大黒樹の禍棘』もそうだし、大半は売り物には回さないコレクション装備。
たまに触りつつ基本は眺めて楽しむか、ゼオやカルラのように適材適所と思えるような仲間が現れれば配るくらいでいいだろう。
あとは――。
少しドキドキしながらステータス画面を開き、【転換】専用タブを確認すると、『452,105』という数値が表示されていた。
水がめはこれでもほとんど溜まっていないように見えるが、このポイントが果たして多いのか少ないのか。
その判別をするためにも、前々から判別用にと思っていたスキルに目を向ける。
【魂装】Lv3 9%
コイツならポイントを振ってもまず後悔することはないからな。
それに低レベルスキルの方が数値変動も把握しやすいだろうと、【魂装】に溜まったポイント『100』を振ると意識してみた。
すると、
【魂装】Lv3 14%
このように変化したため、すぐにその上昇値を手帳に書き込んでおく。
そして最優先して上げるべき本命スキル、【転換】へ。
【転換】Lv5 0%
このようになっているため、同じ『100』をふるも、今度は1%も数値は上昇せず。
ただレベル上昇に伴い、必要経験値がエグい量で増えていくことなど既に把握済みなので、この程度で動揺することはない。
冷静に『900』を追加でふれば、ここでやっと表示が1%に変化した。
となればレベル6に持っていけることは確実。
(『10,000』を【転換】に)
これで17%まで上昇したので、そのままポイントを突っ込み続けて次のレベル6へ。
『【転換】Lv6を取得しました』
その後も溜まったポイントを使用しながら同様の手順で判別をしていくと、【転換】レベル7まで上げたところで以下の結果が見えてきた。
対象スキルレベル3から4へ・・・ストック経験値『1000』で約50%上昇。
対象スキルレベル4から5へ・・・ストック経験値『1000』で約5%上昇。
対象スキルレベル5から6へ・・・ストック経験値『10,000』で約16%上昇。
対象スキルレベル6から7へ・・・ストック経験値『10,000』で約5%上昇。
対象スキルレベル7から8へ・・・ストック経験値『20,000』で約1%上昇。
ふーむ……
ハンスさんが強いのもコイツが理由だろうな。
あの人のスキルは覗けなかったけど、たぶんこの【転換】スキルを使い、なおかつ職業加護の経験値ブーストでカンスト済みの貰い物スキルを多用しているから、まったく別のスキルもどんどん取得できるのだろう。
そして俺はというと、並の兵士8000人分の余剰経験値があれば、対象スキル1種をレベル7まで持っていくのは容易。
今後カンストスキルが増え、さらに【転換】のスキルレベルも上がればレベル8くらいまではもっていけると思うが……やはりというか、そこからは地獄だな。
まぁそれでも効率厨の俺からすれば、溢れた経験値がしっかり活用できるだけでも最高の一言だし、まずは【転換】レベル10を目指して頑張っていこう。
さて、と。
次のレベル8はまったく無理なので、約15万ほどの余剰経験値を残して一先ずは終了。
もう外は真っ暗なはずだが、そろそろ『上』は皆集まったかな?
そんなことを思いながら、俺は飯ついでの報告も兼ねて上台地へ飛んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「ふーん、今回の国は大丈夫だったんだ?」
「そそ、同盟破棄したりしてるからお世辞にも良い行為とは言えないけど、国が生き残るための戦略で動いているからまだ許容範囲内って感じ?」
一応戦争絡みの延長ということもあり、皆でアリシアご飯を食べながらジュロイ王国の結果を報告すれば、それぞれが分かりやすくホッとしたような表情を見せる。
判断はビックリするくらい俺基準だけど、昔ゲームでやった戦国シミュレーションだと、それぞれが生き残るために調略や同盟破棄なんて茶飯事だったしな。
これをぶっ潰すほどの悪とするのはなんか違う。
「今回は大事にならなくて良かったですね」
「本当に、ここ数年は人の数が減少してきていますからね~」
リステとフィーリルの言葉に、8000人くらいぶっ飛ばしたけど大丈夫なのか?
内心そんなことを思いながら、誤魔化すようにウンウン頷いていたら、ボソリと横で呟く声が聞こえた。
「やっぱり、今回は私が行く必要なかった」
「リアは前回で懲りたって顔してたもんね」
「違う……そこまで大事にはならないと思っただけ」
「へぇ~ほんとに?」
「ほんとに」
「まぁ実際行かなくて良かったとは思うけど。舐め腐った貴族連中を目の当たりにしたら、リアなら50回くらいブチ切れてただろうから」
「「「……」」」
「え、えーっと! これで戦争に関係することは一区切りついたんですよね?」
「だね。もう1個同盟を蔑ろにした国があるみたいだけど、そっちはラグリースとその国の問題で、俺が首を突っ込むような話じゃないし」
あとはリルが狩ったユニコーン肉を本当に死活問題の地域に撒きながら、徐々にハンターギルドの物流任せにしていけば問題ないだろう。
もうそろそろAランク狩場を保有するロズベリアの転送物流も土台作りが完了している頃合いだろうし、俺より地域密着型のギルドに動いてもらった方が、小さな村まで必要な物資が行き渡る可能性は高い。
ようやくこれで平常運転の旅に戻れるが――。
本題へ入る前に、これも伝えておかないとな。
「アリシア、そのジュロイって国に一人、転生者を見つけたよ」
「え?」
「【刀術】だけを与えた人、覚えてる?」
この問いにアリシアは少しの間目を閉じ、そしてゆっくりと頷く。
「はい。他にも【刀術】を与えた者は何人かいたはずですが、だけとなるとお一人しか思い浮かびません」
「他にもいるのか……」
伝えるべきかどうか。
少し悩むも。
「『刀』ってさ、俺も今で――、ある程度把握しているのは5カ国か。そのくらいの国を回ったけど、一度も売っているのはおろか、実物すら見たことなかったんだよね」
「「「「「「……」」」」」」
俺はちゃんと伝えることを選ぶ。
これが事実であり、選んだ選択の結果なのだから、知った上で今後、同じ過ちを犯さないようにしていくしかない。
「『地図』を無くした影響かもしれないけど、刀ってかなり流通されている地域が限定されてない?」
この問いにアリシアはすぐ答えを見つけられず、代わりに答えたのは最も下界を見ているリステと、装備には詳しそうなリルだった。
「刀は私が知る限り、東の一部にしか出回っていないはず、ですね……」
「もしくは、ダンジョンから得るか、だろうな」
「そっか。その人もね、子供の頃に攫われて奴隷に落ちてたよ。いくら両親が探してもそんな武器は周りに無くて、戦える術もないままボーナス能力値の腕力だけをひたすら利用されたって」
「ッ……そ、それで、その方は!? 下台地に連れてこられたのですか!?」
「ううん。今が幸せそうだったから、ソッとしておいた」
「……え?」
「本人がつらい思いをしているなら強引にでも連れてきただろうけど、今はジュロイに拾われ、どこかから必死に探してきたんだろうね。王様から『刀』を与えられて、強くなるために頑張っている真っ最中って感じだったからさ」
「そ、そうですか……」
「もちろんジュロイは戦力として見ているからっていうのもあるけど、本人もそれを理解して、それでも今を笑って過ごしている人もいる」
「……」
「でもリステやリルが知っていたように、『刀』の出回っている地域が限定されていることを理解していれば、転生先を絞るとかで未然に防げていたんだろうなとも思う」
「そう、ですね……」
「起きてしまっている以上、知らずに繰り返すよりは知って対策を取ってほしいから、事実は事実として、得た情報は伝えておくよ」
「ロキ君、本当に、ありがとうございます」
ハンスさんは、勇者タクヤが願望を伝えて王子になれたと言っていた。
それくらい限定的なこともできるのなら、転生先の地域を絞るくらいは余裕だろう。
はぁ――……
しょうがないとは言え、だいぶ重い雰囲気になっちゃったな。
そんな時に伝えて良いモノかは分からないけど……
まぁ最低限一人は、沈んだ表情も消え失せるだろう。
そう思って、唐突に告げた。
「ねぇ、リル」
「なんだ?」
「そろそろまた、模擬戦しよっか」
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絵になると物語の見え方が変わるかもしれません。











