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345話 四面楚歌

(良かった、本当に……)


 いつもとは雰囲気が異なり、慌ただしく通りを駆けていく者が目立つベザートの町。


 そんな姿に安堵の息を漏らしながらハンターギルドへ向かえば、ロビーは沈んだ顔をした男達で席が埋まっており、その中には見慣れぬ者も多く混ざっていた。



「ん? ロキか、このような戦時にわざわざ来るとはな」


「その話を他所で聞いたから駆け付けたんですよ。でもここが戦場になっていないようで安心しました」



 そんな人たちの中心に立つヤーゴフさんへ今の気持ちを伝えれば、広げた地図を囲う青年の一人が怒りを露わにする。



「安心だと!? 『キプロ』の町は壊滅してるんだぞ! 周辺の村や町もだ! そのことを分かって言ってるのか!?」


「止めろ、オストン。この子供は少々特殊なのだ。普通の方法でベザートまで来てはいない」


「で、でも……ッ!」



 なぜ青年は憤慨したのか。


 その疑問よりも先立ったのは、『キプロ』の町が壊滅したという話。


 キプロはたしか、ベザートの北東に位置する、Fランク狩場を一つか二つ抱える程度の小さな町だったはずだ。


 なぜ、そんなところが?


 しかも、壊滅?



「えっと……何が起きてるんです?」



 疑問をそのまま口にすれば、ヤーゴフさんが軽く頷きながら答えてくれる。



「ヴァルツが戦争を起こした――そのぐらいの情報をどこかから掴んでこの町に来たのだろう?」


「えぇ、その通りです」


「となれば、半分正解と言ったところだな。現実はヴァルツ軍による蹂躙の真っ只中。中央はどうなっているのか分からないが、突如の開戦で迎え撃つ準備もなく、南部から侵攻してきた軍の通った道は全てが奪われている」


「全て……」



 中央と南部という言い方に違和感を覚えるも、その答えにはすぐ辿り着く。


 中央は俺が正規の方法で国を渡った時に通った亀裂を跨ぐ橋――『ルーベリアム境界』を通過するルートのことだろう。


 だが、渡れるような橋は他に無かったはず。


 そう思っていたが、壊滅したという『キプロ』の位置を理解したことで、もう1ヵ所の通り道も自ずと見えてくる。



「亀裂の南側、あの僅かな隙間からヴァルツ軍が入ってきているんですか……」


「そうとしか考えられん。ヴァルツ王国の地図はコチラにもあるが、ラグリース側はもちろん、ヴァルツ側にも亀裂南部の隙間に続く街道は存在せず、歩けば丸1日は掛かるであろう場所に小さな町が一つあるだけ。それで間違いないな?」


「そうですね」


「そんな道無き経路を強引に使っているからか、10万規模の兵軍を維持するためにマルタへ続く街道近くの町や村は、容赦なく食い物や家畜が奪われ、守ろうとする町民の命も奪われているのが現状だ」


「そんな()()()()()()じゃないですよ。あのバカでかい縞模様の獣人は、守るどころか逃げ惑うみんなを追い掛け回して、俺の父ちゃんや弟を弄ぶように殺したんだ……」



 だからか。


 ベザートの状況を見て安心と言った俺に激怒したのは、オストンと呼ばれる青年が蹂躙されたキプロから逃げ延びてこの町にいるから。


 それなら、俺の不用意な発言に気分を害するのも理解できる。


 そう思っていたが。



「話を聞いていて確信した。おまえが、このクソみてぇな『地図』を作ったんだろ……? だからヴァルツはあんな辺鄙な隙間から縫うように攻めてきて、それで、俺達の町は……ッ! お前のせいじゃねーか! どうしてくれんだよ!!」



 この言葉に肩がビクつき、返す言葉を見失う。



「オストン、いい加減にしろ。元から南部の隙間は石垣が設けられ、両国が通過してくることを念頭に兵を配置し、警備していた場所だ。『地図』が利用されているであろうことは否定しないが、『地図』ができたから新たに発見されたような場所でもない」


「ッ……」


「それにクソと罵った『地図』があったからこそ、お前も他の者達も、ベザートまで辿り着くことができたんじゃないのか?」


「それは、そうですが……」



 ヤーゴフさんがフォローしてくれるも、それでもやはり、事実は事実としてあるのだろう。


 俺が作った『地図』が利用され、抵抗も何もなく蹂躙されている。


 ならば、俺にできることは――。



「今、侵攻しているヴァルツ軍は、どこに?」


「……たぶんマルタだ。2日前にマルタの兵が、食料を求めてヴァルツ兵が南下してくるかもしれないから『町を捨てて逃げろ』と、そう伝えにきた」


「じ、じゃあ、なぜ皆ここにいるんです!? 早く逃げましょうよ!」


「そうしたいのは山々だがな……逃げ場がない。だから町の周囲に見張りを置き、大きな動きがあるまではここに留まるしかないのだ」


「え?」


「北のマルタは当然として、この状況で東に向かう阿呆もいない。となると西しかないが――オグニ、もう一度話してやれ」



 そう言われて反応を示したのは、ボロボロの衣類を身に纏った一人の青年。



「は、はい。私は西の『テルバード』からこの町に()()()きました」


「逃げるって、何から……?」



『テルバード』はかつて一泊したこともある、ラグリースの中で最も南西にある小さな町だったはず。


 いくらなんでも、この段階でヴァルツ軍に襲われるような場所ではないはずだが。



「見たこともない規模の()でした。私は馬を扱えたので、なんとか隣町の『ビークス』まで逃げられましたが、次はその『ピークス』まで襲われる始末で」


「それで、ここまで逃げてきたわけですか」


「そうです。なので西もどこまで安全なのかは分かりません。少なくとも私は、何よりも優先して人を殺していくあの者達が恐ろしくて、今から西に戻りたいとは思わない……」



 震えながら頭を抱える青年を見て真っ先に思ったのは、こんなタイミングでそんなことが起きるのか? という素朴な疑問。


 俺自身が傭兵として、野盗連中の討伐を日常的に行なっているのだ。


 町を潰すほどの規模など、それこそ『ギニエ』のようなかなりのレアケースだろうし、そんな数がどこから湧いたという話にもなる。


 それに脅して物を奪うではなく、優先して人を殺すというのもどこかおかしい。


 視線をヤーゴフさんに向ければ、同じように何か思うことがあるのか。


 腕を組んで難しい顔をしているが、今はその答え合わせをしている余裕もない。



「町の周囲に見張りを置くというのは、北の街道だけでは不十分だから、ということですよね?」


「そうなるな。西も東も平坦な草原や穀倉地帯が長く続いているのだ。ヴァルツの増援が東からそのままベザートに侵攻し、物資を強奪して北上することも考えられるし、西から()()()()()()()()()がどこまで侵攻してくるかも分からない」


「……」



 仮に北の街道だけということなら、俺一人でもなんとかなるかもしれない。


 だが北、東、西と3方向から攻められる危険性を孕んでいる状態となると、俺がベザートに残り続けることでしか対処が難しく、しかしそれが可能なほど余裕のある状況でもないだろう。



(マルタも、それにばあさんだってどうなっているか分からないんだ……)



 地図が原因の一端を担っているというのなら、それは俺自身で解決しなければいけないこと。


 となると、残す逃げ道は南――パルメラ大森林くらいしかなくなってくる。


 先の見えぬ大迷宮のような森となれば、仮に中へ逃げたことを悟られたとしても、大部隊が内部まで侵入してくるとは思えない。


 それに、俺は狩場の特性を。


 パルメラで魔物を湧かせない方法を把握している。


 となると、あとは環境を整える時間だけ。


 蹂躙されている真っ只中となれば、ここに多くの時間を費やせない。


 自分がこの状況でできることとできないこと、そして何を優先すべきなのか。


 暫し、考えを巡らせ――



 ――【神通】――



(みんな、ごめん。下界への干渉に引っかからない程度で、協力してほしい)



 どうしても守りたい場所だからこそ。


 俺は女神様達に、避難作業の一部を手伝ってもらえるようお願いした。


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