30話 昇格
7/16 本日6話目の投稿です
「うぅ~ん……アァー……今日もよく寝たー……」
首や肩をコキコミと回しながら、宿の中庭で顔を洗って食堂へ行く。
サラリーマンの時はこんなに寝る時間は取れなかったので、実は案外良い生活なのかもしれない。
「おはようございまーす……」
「おはよう。すぐ朝食用意するから座って待ってなよ」
「あーい……あ、ついでに果実水もお願いしまーす」
「あいよ! 肌もこんがり焼けて、ずいぶんハンターらしくなってきたもんだね!」
「へへへ」
この焼けた肌は主に昨日の川遊びが原因だが……
まぁ理由は説明する必要もないだろう。
ハンターだって頑張ってるし!
「はいよおまたせ!」
そう言われて目の前のテーブルに置かれたいつもの朝食セット+昨晩のおかずの残りを眺めながら、昨日のことを思い返す。
(3人の『かぁりぃ』初体験は色々と面白かったなぁ……)
メイちゃんはお店の存在だけは知っていたようで、案内すると「えぇええええ!! ここってすんごい高いお店じゃん!」と大騒ぎ。
ジンク君も「9000ビーケ」という値段に狼狽していた。
まぁそうなるだろうとは分かっていたので、ご馳走するからと言いながら肩を押して無理やり店内へ。
「ほう……もう来たのか」
このように挑発的な店主を後目に、『かぁりぃ』とは俺の住んでいた場所でよく食べられている料理であることを説明。
とにかく辛いが……火を噴くほど辛いが、その後に来る旨味は病みつきになると伝えれば、3人ともゴクリと喉を鳴らしながら未知への挑戦を受け入れた。
そして料理到着後、当然のように火を噴く3人。いや俺もだから4人。
ジンク君は顔を真っ赤にしながらも必死に耐え、メイちゃんは持つスプーンがブルブル震えながら号泣。
ポッタ君は尋常ではない汗の量で、このままじゃ脱水症状で死ぬんじゃないかと心配になるほどだった。
だが誰も手は止めない。
高い料理だからなのか、後に残る味に魅了されたのか、よくは分からないが結局4人とも完食してしまった。
「本当はもっとお祝いに向いたお店があったかもしれないけどさーごめんね俺全然知らなくて。でも新しい体験はできたでしょ?」
と、汗びっしょりになりながら俺が尋ねると、3人とも無言で首を縦に振りまくっていたので、これも良い人生経験になるんだと思う。
ちょっとチャレンジしてみようで入れる値段のお店じゃなさそうだしね。
3人はパパッと会計を済ます俺に複雑な視線を向けてくるが、最後には「ありがとう! 母ちゃんに自慢してくる」「ありがとー! 私も自慢しよーっと!」「辛かったけど嬉しいありがとう!」とそれぞれ満足はしてくれたようなので、そう言って貰えるとご馳走した甲斐があるってもの。
フラフラした足取りで帰る3人がちょっと心配になるも、俺は俺でまた宿の女将さんに夕飯を食べると伝えていたため、急ぎ足で宿へ戻って夕飯を追加で平らげた。
(最近よく食ってるなぁ……まぁこのくらいの歳なら食い盛りって言うし良いのか? その分動いてるし……)
気付けば朝食も食べ終えていたので、今日の予定を確認しつつ行動に移る。
まずはギルドに行ってお金を下ろして、ついでにロディさんのとこに寄ってロッカー平原で得られる素材情報を確認。
そのあと武器屋、パイサーさんのところで武器と防具を購入。
そして教会で職業選択と。
あぁ商店に行ってポイズンポーションも買わなきゃだな。
これはやることをどんどん進めていかないと、1日で終わらない気がする。
となればボーッとしている暇はない。
ややお尻の中心が痛いのはご愛敬。
俺はいそいそとハンターギルドへと足を運んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「ちょっとー! なんで最近こっちに顔出さないのよー!!」
「うぇ?」
まだ朝も早い時間、すなわちハンター達が依頼の争奪戦を繰り広げている中で、受付のアマンダさんから声をかけられる。
その声に一斉に振り向く先輩ハンター達……目立つから勘弁してほしい……
「いやーロディさんから報酬は貯めておけると聞きまして。籠も解体場にあるのが分かって直接借りに行っちゃってますしね。それに最初は依頼ボードを確認していたんですけど、パルメラ大森林の魔物って緊急の討伐依頼出ないじゃないですか?」
そうなのである。
緊急の討伐依頼があればこちらにも寄るのだが、常にパルメラ大森林は常時討伐依頼しか出ていない。
もしかしたら俺が寄らなかった間に緊急捜索とか救出関係の依頼はあったかもしれないが、常時討伐依頼だとそもそも依頼を受ける必要がないのでここに寄ることもなかった。
いつも借りている籠も、受付に言ったところで解体場から運んできてくれるだけなので、それなら手間をかけさせるだけだし自分で解体場から直接借りた方が良い。
お昼ご飯に食べていた串肉も南出口付近にお店があるため、そこで買って食べながら森に向かっていた。
「そ、それはそうだけど……それでも、こちらから伝えたいことだってあるのよ?」
「え? なんかありました?」
「まったく……ロキ君の安定した魔物討伐実績が認められたので、Fランクへの昇格が確定しました!……6日前にっ!」
「……そ、そうでしたか」
考えてみたらハンターランクのことなんてすっかり忘れていたな……
Fランクの依頼を特別に認めてもらえたら今のところ困ることはないし、逆にEランクを認めてもらえてもまだ行こうとは思わない。
「というわけで、ほら。ギルドカードを出してちょうだい。更新するから」
「あ、は、はいすみません……あとお金を使いたいので、預けている分の引き出しをお願いしたいです……」
「全額?」
「はいお願いします……」
おぉ……ご機嫌斜めなアマンダさん怖ぇ……まるでこの世界での俺の母ちゃんみたいだ……って、こんなこと言ったら殴られるだけじゃ済まないかもしれない。
そして待つこと数分。
ドンとかなりの重みがありそうな革袋と一緒に渡された新しいギルドカードは、今までと同じ鉄製っぽい素材で大きく『F』と書かれている以外は前と違いが分からない。
「この『F』と書かれたのが更新ということですかね?」
「そうよ? これでロキ君はFランクということになるから、魔物討伐じゃなく人からの依頼の時はギルドカードを見せると証明になるわ。だから前も言ったけど失くさないでね?」
「えぇそれはもちろんですが……なんていうか、このカードの素材が変わったり、もっとカード自体に変化があるものだと思ってました」
「一応できるわよ? ただ別途お金がかかるというだけで」
「えっ!」
「そりゃそうよギルドだって商売だもの。Eランクくらいまでなら大した負担でも無いけど、Dランク以上に割り振られた鉱石のカードなんて配っていたら物凄いお金がかかってしまうわ」
「割り振られた鉱石……? なんか凄く興味が湧いてきたんですけど!」
「あら? お姉さんに聞きたいの? 詳しく聞きたいの?」
「ぐっ……キキタイデス……」
「もうしょうがないわね。用が無くてもここに顔を出せば、ロキ君にもメリットがあるのよ?」
そういって勝ち誇ったように説明してくれたハンターランクの概要は、まさに予想通りという内容で。
G 鉄(通称アイアンランク)
F 銅(通称カッパーランク)
E 青銅(通称ブロンズランク)
D 銀(通称シルバーランク)
C 金(通称ゴールドランク)
B 魔銀(通称ミスリルランク)
A 黒鋼(通称ダマスカスランク)
S 金剛(通称アダマントランク)
このように振り分けされており、それぞれのハンターランクに応じた鉱石を使ってカードを作ることも可能。
希望があればとりあえず鉄のカードを支給された後にギルド側で製作に入り、作成完了後に持っているカードと交換という形で支給されることになるらしい。
ただしその素材代金はハンターの自腹。
それが嫌なら通常支給される鉄のカードでも証明にはなるんだから、我慢しておきなさいということだ。
鉄のカードに書かれた『S』という文字……なんとも味気ない話である。
「どう?」と大して無い胸を張って踏ん反り返るので、「概ね予想通りでした」と答えると、まるでそこにハンカチがあるかの如くキーッ!!と悔しがるアマンダさん。
「しかし現実的というかなんというか、高ランクなのに鉄のカードっていうのも悲しいものがありますね……」
「いいのよ高ランクはお金持ってるんだから。もしこれがランクに応じた鉱石のカードを無償提供なんてなったら大変よ? そのシワ寄せは下位ランクの人達に行くわ」
「そうなんですか?」
「えぇ。カード用鉱石を捻出するために全体的な依頼報酬が低下し、お金のために無理して身の丈に合わない難度の依頼を受ける率も上がる。結果死亡に繋がる可能性も上がるわね。対して上位ランクの報酬が多少下がったところでそもそも報酬額の桁が何個も違うんだから、上位ランクの懐事情は何も変わらないわ」
「なるほど……だったら取れるところから取れってことですね」
「そうよ。そもそもカードの質に拘るのなんて大半が上位ランクだもの。ロキ君だって『G』から『F』に上がったところで、それを人に見せびらかしたいとは思わないでしょ?」
「た、確かにまったく思いませんね。仮に『E』になったところで、ランクが低いという意識は変わらないと思います」
「全員がとは言わないけど、大半のハンターも同じように思っているわ。だからカードの質に拘るなんて低ランクハンターには損でしかないのよ。一部の上位ハンターを特別優遇はしない。その分高額な報酬で依頼をこなしてもらうというのがハンターギルドの考えね」
ふーむ。理屈を言われると納得せざるを得ない。
意外と考えているんだなぁハンターギルド。
低ランクを大事にしているとも言えるか。
しかし―――
「凄く納得できました、ありがとうございます。ただ1点だけ納得できないというか、ちょっと違和感を覚えるのですが」
「ん? どんなところ?」
「……ハンターギルドって本当にSランクが一番上ですか?」
気になったのはここだ。
最上位が『Sランク』、これ自体に何も思うことは無いが――アダマントランク。
よくあるアダマンチウムだとかアダマンタイトと言われている、硬そうな希少鉱石のことで間違いないだろう。
確かにピヨピヨのひよこハンターじゃ手の届かない鉱石だ。
だがアダマントが一番上と言われると、どうにもしっくり来ない。
俺の勘違いなのかどうか―――
「……なんでそう思ったの?」
「いや、なんとなくですね。アダマントが一番上の鉱石? と疑問に思いまして」
「まぁ隠していることでは無いからいいけど……過去にはもっと上のランクが存在したわ。ただ今は無い。正確に言えば成れる人材がハンターにはいないというのが正解ね」
「そうでしたか……ちょっとだけすっきりしました」
「ちょっとって言うと、今は無いそのランクのことが知りたいの?」
「まぁそれもありますけどね。ただやっとFランクになれた新米が気にしてもしょうがないほどの高みでしょうから、手が届きそうになったらまた詳しく聞きますよ」
「ふふ……そうね。そうなったらお姉さんのところにいらっしゃい。若い子じゃあまり知らない内容だから、ロキ君がもう少し大きくなったら詳しく教えてあげるわ」
「ははっ、身体だけはすぐに大きくなりますけどね。なので問題はランクです」
「まぁ! 身体が大きくなるだけでも十分だわ! ぜひ聞きにいらっしゃい! お姉さんのところに!」
あ、これあかんやつだ……急にアマンダさんから魔物臭が漂ってきた。
「そ、それじゃ今日は色々と予定があるので失礼しますね! また今度!」
「ちょ、ちょっと! たまにはゆっくりしていきなさいよぉおおー!」
アマンダさんの叫び声を聞きながら、俺は解体場へと続く通路へ逃げる。
今日は予定がいっぱいあるんですよ!
それにしても……ハンターにはいないか。
ということは、ハンターじゃなければなれる逸材はいるとも取れる。
(勇者タクヤかなぁ……たぶんそれしかないよなぁ……)
いつか会うことはあるのだろうか。
相手は王子だっていうし無理かな?
そんなことを思いつつ、解体場の主任ロディさんのところへ向かうのであった。
作者の創作意欲に直結しますので、ぜひ続きが気になる。
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