25話 次なる狩場への計画
7/16 本日1話目の投稿です
「ぐぅ……足が痛い……重い……」
まだまだ早朝と言ってもいい時間に空の籠を背負い、俺は森を目指して走っていた。
「営業の時はそれなりに外回りで歩き回ったと思っていたが……この世界のハンターと比較したら笑われるレベルだわ」
便利なアプリがあるわけでもないので、自分が1日どのくらい駆け回っているのかは分からない。
ただ足の疲労感だけは今まで感じたことがないくらいに強く、踏み出そうとする足に何かがしがみついているんじゃないかと感じるくらい一歩が重い。
それでも、僅かに歩くよりは速く、というよりジョギングしているくらいの気持ちで日々の恒例となってきているパルメラ大森林へと向かう。
(ステータスには「体力」もしくは「スタミナ」と呼べる項目は無い。ということは見えない数値が存在するか、自己鍛錬していくしかない)
ソロを主体にやっていく以上、バテて動けなくなればその時点で詰む。
ゲームのように無限の体力があるわけではないのだから、それなら自分で意識して体力作りをするべき。そう思っての行動だ。
気持ちだけが先行して行動はまったくついていけていないが。
ちなみに今日でジョギング訓練3日目だ。
なんだかんだと休まずに、午前中の1便、午後の2便と、昼に一度換金をしにベザートへ戻るサイクルを無理やり作り、お金稼ぎとレベル上げを黙々とこなしている。
お金はここ2日の日当がそれぞれ8万ほど。
さすがに初日の午後に作った半日5万は無理をし過ぎたので、多少敵を探す際の移動ペースを緩め、荷物もあまり重過ぎないようホーンラビット4体で帰るようにしている。
足が思うように動かないというのもあるし、索敵に夢中だとフーリーモールからそのうち一発貰いそうで怖かったからだ。
その代わりペースを落とせば余裕が生まれるので、途中で果実を齧りながら水分補給をしたり、珍しそうな草や花があれば抜いて持ち帰ってみたりと、ジンク君達のスタイルを少し広範囲でやるようにしている。
これで【採取】もそのうちスキルを習得することだろう。
この2日間でレベルは7に。
【土魔法】【気配察知】はスキルがレベル2に上昇した。
それぞれの詳細説明はこのように変化している。
【土魔法】Lv2 魔力消費20未満の土魔法を発動することが可能
【気配察知】Lv2 使用者の周囲で動く物体に対して反応が敏感になる 範囲半径10メートル 魔力消費0
【土魔法】は発動できない以上ステータスボーナスの恩恵しかないから置いておくとして、【気配察知】は予想通り効果範囲の上昇と素晴らしい能力である。
昨日早速試していたら、どうやらフーリーモールの気配察知範囲を超えたらしく、敵が気付く前にこちらが気付いて巣穴を突くという芸当ができてしまった。
ここまで来るともう楽勝モード。パルメラ大森林に死角は無く、ただの金稼ぎと経験値稼ぎの場と化してしまっている。
ただ既にレベル2になっている【突進】スキル含め、レベル2から3への上昇は魔物1体当たり約3%強。約30体倒してやっとレベルが上がるというくらいに要求経験値が上がってきているので、その狩場の主要スキルはレベル3か上げても4で打ち止め。
そこからは次の上位狩場に移れるなら移った方が無難だろう。
あるのかは分からない敵の設定レベルと離れてきたのか、いくらソロでも明らかにレベル経験値の上がり方が遅くなってきているし、何よりフーリーモールよりも索敵範囲が広がったことによって、敵の所持するスキルにもレベル設定があるんじゃないか?という疑惑が浮上している。
もし予想通りであれば、仮に上位狩場で【気配察知】レベル2のスキルを所持する魔物を倒せば、俺のスキル経験値も2倍とかになる可能性があるので、不必要に低位狩場に籠り続けて「レベル10にしたら次ぃ!」なんて気合の入り過ぎたことはしない方が良いだろう。
たぶんそんなことをしようものなら、俺は5年くらいパルメラ大森林から出られない気がする。
棒持ちゴブリンは1日に1体遭遇すればラッキーくらいの頻度だから別として、【突進】【土魔法】【気配察知】をそれぞれレベル3。
そしてそれっぽい防具と狙っているショートソード。
あとは職業選択をやり終えたら次なる狩場、ロッカー平原に挑むとしよう。
それにしても……パルメラ大森林は下位狩場というだけあって、様々な人がいるなとつくづく思う。
あまり人気が無いと言っても1日4~5組のパーティは見かけたりするのだが、前方には親子であろう、短槍を握った父親と10歳くらいの息子が手を繋ぎながら森へ入ろうとしている。
このくらいなら全然マシな方で、昨日はフーリーモール対策なのか鍋を頭に被って草を採取していた夫婦っぽい男女や、全員が鍬のような農具を握って森の中を彷徨う農業一家4人構成パーティ。
午後の2部で森に向かう途中にお母さんと息子が森から急に飛び出てきて、助けようかと駆け出したら追ってきたゴブリンを木の棒握り締めたお母さん一人が滅多打ちという、息子が見たら複雑な気持ちになるであろう光景も目の当たりにした。
赤黒い返り血を浴びたお母さんが振り返りながら、笑顔で「大丈夫です」なんて言われても、俺がその姿にビビッて全然大丈夫じゃなかったし。こんなの夢に出てくるわ。
誰もがイメージするような冒険者、狩人っぽい人はほぼおらず、町を歩いている極々普通の人達が、そのままの格好で森の入口付近を出たり入ったりしながらワチャワチャやっている。
本業の収入が乏しいのか、女神様の祈祷を狙った徳積みなのか、それとも町から僅か1km程度という森の身近さ故なのか。
日本なら殺される可能性のある魔物が出る森なんて言えば、黄色と黒の立ち入り禁止テープが張られて警官の厳重警戒態勢になろうものが、この世界では普通に受け入れられていることに新鮮さを感じてしまうな。
まぁ悪く言えば、それだけ死が身近にあるということなんだろうけどね。
考えてみれば、以前行方不明になったという2名のハンターのことでギルドマスターと話した時も、やけにあっさりしていたというか、死を受け入れるのが早かった気がする。
アマンダさんや他のスタッフさん、ギルド内にいたハンターの人達にも落ち込んでいるような様子は無かったし、死ぬのも覚悟しながらお金を稼ぎ生活するというのが当たり前の世界なのだろう。
って、いけないいけない。
そんな考えに納得していたら、俺はすぐにゲーム視点に戻ってしまう。
俺は死ぬのはごめんだ。死ぬのが怖いから俺は強くなりたいんだ。
いくら楽勝ムードが漂っているとは言え油断は禁物。
ゲームと違って当たり所が悪ければすぐ死んでしまう可能性もあるのだから、しっかり警戒して魔物を倒していこう。
それじゃあ今日も頑張りますか!
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
時刻は腕時計時間で16時。
今日は早めにノルマを達成したので、ポケットに入れていた果実を齧りながらベザートの町へと帰還する。
筋肉痛は成長の証だけど、休まないと逆効果ってどこかの偉い人が言ってたしね!
裏口から解体場へ入ると、奥の作業台でホーンラビットを解体していたロディさんがカウンターへやってきた。
「おう今日は早いな。さすがに疲れたか?」
「疲れたのもありますけど、ノルマは達成しましたので。だから早めの帰還です」
そう言って籠を渡すと、いつものホーンラビット4体にその他討伐部位や魔石がこんもり入っている。
「相変わらず安定して狩ってきやがるなぁ……受付のスタッフ連中が有望株だって騒いでたぞ」
「あぁそうなんですか……あまり目立ちたくはないんですけど、これ以上収入は減らしたくないのでしょうがないですね」
「なんだ? 何か買いたいもんでもあるのか?」
「ロッカー平原に行くことを考えてまして。それで武器と防具、あとは職業選択のお金を貯めてるんですよ」
「なるほどな。ということは100……いや80万ビーケくらいが当面の目標か?」
「いやー150万くらい貯めようかなと。僕の身長だと樽の中の安い武器は大き過ぎるんですよね」
「武器は本来大人が買うもんだからな。しかしその歳で150万か……そりゃ有望株って言われるだけあるわ」
「ははは……目標があるから頑張っているだけですよ。あ、ちなみに! この草なんてどうですか!?」
そう言って俺はポケットに入れていたあまり森では見慣れない草や花を出す。
「ほう……こいつは玲環草だな。魔力ポーションの原料になるから1200ビーケで買取可能だ。だがそっちの花はダメだ。フーレイ花の根っこは薬師が喜ぶが……花や茎に需要は無い」
「うぐぅ~根っこの方でしたか……まぁいっか1個は当たりでしたし! この草ですね覚えておきます」
うーむ、やはり薬草採取は難しい……
魔物と違って何でも似たり寄ったりに見えてしまう上、花に需要、葉に需要、茎に需要、根に需要とそれぞれ求められているものが違うので、隙を見ては拾ってこのように勉強しているものの効率が悪い。
たぶん【採取】スキルが取得できれば、何かしら判別に役立つ能力が開花すると思うので、それまではこうしてそれっぽい物があれば拾い、お金になればラッキーくらいの感覚でやっていくしかない。
それでも今日はこの草を拾ったおかげで晩御飯代が浮いたわけだし、なんだかんだスキル経験値も稼げて一石二鳥というわけである。
「ちなみに、こうしてギルドに採取物や素材を卸すというのも、ハンターランクを上げるのに意味があるんでしょうか?」
以前気になっていた部分を聞き忘れていたから、話のついでに今聞いてしまおう。
「あぁ意味はあるぞ。ギルドに卸してくれればどんな魔物をどれだけ倒しているのか、もしくはどんな活動をしているのかそいつの実績をしっかり把握できるが、他所だとそれが分からないからな」
「例えばゴブリンの討伐部位をロディさんに渡したとして、そのゴブリンの魔石もこちらに卸した方が実績に繋がるということですか?」
「そうだな。金だけを見るなら、ホーンラビットの肉なんかはてめぇでしっかり解体できなきゃギルドと変わらんだろうが、薬草なら薬師やこの町にはいないが錬金術師に。皮なら裁縫屋や防具屋なんかに直接卸せば多少は高く買ってくれるだろう。魔石も魔石屋の方がまぁ高いだろうな。だがギルドに卸してくれた方がギルドに貢献しているという意味で評価されるし、討伐部位だけギルドに卸していると、狩場で魔石を取り出す余裕も無いほど背伸びしているやつとして見られやすくなる。
だから一生ハンターランクがGやFでも良いっつぅー……普段別の仕事をやっているような連中は、自分達が欲しい物や食いたい物を取りに行って自分達で使うからギルドにはあまり売りに来ない。でもあいつらはハンターで飯食っていこうなんて思っていないからそれで問題無い。逆にハンターが本業の連中なんかはまずギルドで纏めて売るぞ。その方がランクも上がりやすいし、何より換金が楽だからな」
「なるほど! ありがとうございます!」
ちょー納得。
確かに他所で討伐部位以外を売っちゃったら、ギルドからしてみればその人は討伐部位だけをなんとか剥ぎ取ってこられた人と変わらなくなっちゃうもんね。
正直に肉以外は他所の方がちょっと高いなんて言っちゃうところもロディさんらしいし、これは信じてギルドに全部売ってしまった方が後々は得だろう。
言ってる通り楽だし! その後アマンダさんのとこに行くだけでお金くれるし!
「ちなみにだが……金はギルドに預けておけるからな? おまえくらいの年齢で大量の金貨をジャラジャラさせてたら危ないだろ」
「……えっ? 初耳なんですけど?」
「やっぱり知らなかったか。解体場で報酬は預けるって言えば、俺が後でまとめて受付に処理の依頼をする。金を引き出したくなったら受付に言えば貯まった分を引き出せるって寸法だ。法外な金額じゃなけりゃーな」
なんでこんな重要なこと、アマンダさん教えてくれないんだよ!
まるで銀行のような素晴らしい仕組みじゃないか。
まず間違いなく利子なんてつかないだろうけど、最近ちょっと硬貨が重くなってきて困っていたところだ。
確かにやっと150万ビーケ貯まりましたー!
その瞬間襲われましたー!
なんて事態になったら大惨事もいいところ。お金を余計に持つことはトラブルホイホイになってしまう可能性もある。
となれば一択です!
「預けます!」
「おう分かった。それじゃあ今日の分だから一応この木板確認してくれ。問題なけりゃ後でアマンダにでも渡しておくから、今日は受付に寄る必要もないぞ」
「ホーンラビット4体、ゴブリン5体、フーリーモール4体……はい大丈夫です!……あっ!」
「ん? なんだ?」
そういえば確認したいことがもう一つあった。
「今日ゴブリンの中に木の棒持ったやつがいたんですよ。今までもたまに見かけてたんですけど……あれは特殊個体とかになるんですか?」
「難しいところだな……特殊個体と言えば特殊個体だが上位個体ではない。今日倒したんなら分かると思うが、普通のゴブリンと身体の大きさとか速さとか変わらなかっただろ?」
「確かに。ただ棒を持っているだけって感じですね」
「だから魔石も同サイズ、討伐報酬も普通のゴブリンと同じ扱いになる。これが上位個体になれば、この辺にゃいないがゴブリンウォーリアーやゴブリンメイジなんてのが出てくるな。身体がゴブリンよりデカいし、魔法を撃ってきたりで強さが大きく変わってくる。そうなりゃ別種扱いってわけだ」
「そうなんですね……ってことは普通のハンターにとって、棒持ちとか先日現れた剣持ちなんて厄介なだけの存在ですね」
「その通りだな。ただ拾った物をそのまま使う習性があるからこればっかりはどうにもならねぇ。まっ、持ったところで使いこなす頭はあいつらにないんだけどな。精々振り回すだけだ」
実はそいつらも、どういうわけか対応するスキルを必ず持っているんですとはこの場じゃ言えない。
まぁお金目的であればメリット無し、スキルレベル的には美味しい敵くらいに思っておこう。
「色々ありがとうございました! それじゃまた明日も宜しくお願いします!」
「あぁ早いとこ帰って休めよ!」
そういって解体場の裏口から出る。何気に裏口から出るのは初めてだな。
木陰でコソッと見れば時間はまだ5時前……夕刻の鐘がなるまではあと1時間以上ありそうだ。
となればやることは一つ、初の町探索っ!
どこかでやろうと思ってたことだし、足は重いけどさっき話に出た魔石屋やご飯屋なんかを色々と偵察してみますかね!
作者の創作意欲に直結しますので、ぜひ続きが気になる。
楽しくなってきたと思って頂いた方は、広告下の【☆☆☆☆☆】から率直な評価を頂ければ幸いです。
ここ数日は連続投稿をしていきますのでご注意下さい。