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144話 絶望の果て

「ぐっ……足が……」


【狂乱】を使用した直後、すぐ俺の身体に異変が生じた。


 足が自分の意志とは関係無しに前へ前へと、まるで向かってくる幼体蟻の大軍を迎え入れるかのように、その方向へと進んでいく。



(可能性は、高いと思っていた、けど……本当にバーサーカー、かよ……)



 意志が働く状態で、ただスキル発動やポーションを飲むといった通常攻撃外の動作をできなくなることが俺の中の理想だった。


 要は戦いたくなければ、スキル発動後もその場で極力立ち尽くしていれば良いと。


 ――だが、止められない。


 ただその場に立ち止まっていることすら叶わない。


 まるで身体の自由を第三者に奪われたかのように、幽鬼のごとくフラついた足取りで蟻の群れへ向かってしまう。



 できれば、自分からは向かいたくなかった。


 俺がしたいのは時間稼ぎだ。


 リルがクイーンアントさえ倒してくれれば、この蟻達をリルに引き継ぐことだってできるはず。


 そうすればまだ、生き残る道があると思っていたのに……



 もう目の前には、大軍の中から先陣をきって向かってきた蟻の姿が。


 この身体は、どう対処するんだ?


 そう思いながら、まるで他人事のように勝手に動く様を見届けていると――



「いづぁああああああああああ!!」



 目の前で何かが高速で横切り、その直後、視界がひっくり返るほどの激痛が走る。


 呼吸は荒く、歯を食いしばって痛みに耐えながらも状況把握に努めれば、先陣をきった蟻の頭部が大きく凹み、そのまま後続を巻き込みながら吹き飛ばされていく姿が目に入る。


 視界を横切ったのは――自らの腕。


 失った指の上から殴りつけたのか、自らの拳とは呼べない何かは骨が変形して飛び出してしまっており、それが激痛を与える原因になっているのは明らかだった。


 そしてすぐに、"()()()()()()()()"と気付く。


 俺の身体はある意味乗っ取られている状態。


 生物、つまり目の前の蟻に向かって、限定補正の入った高威力の通常攻撃を自動で行う。


 ここまではいい。


 だが―――俺の精神は正常なんだ。


 自分が行動した結果も見えているし、その内容を考え分析することもできる。


 そして威力が大きく増した分、今まで味わったことがないほどの強烈な痛みも感じてしまう……



「いぎぃいいいぁぁあああああああ!!」



 今だけは、時間制限付きで精神も乗っ取られ、我を忘れるようなスキルであったならばと、願わずにはいられない。



「うがぁああああああああああああ!!」



 自分が殴りつけるその感触が、蹴り上げるその衝撃が、神経を磨り潰すような痛みとなって襲い掛かり、気が狂いそうになる。



「んぐぅううううううううう!! あっ、ああっ、ぁ……痛い……痛いよ……痛い……」



 勝手に、しかも物凄い速度で身体が動いているため、気構えることすらできやしない。



「はっ……はっ……ふぐぅううううあああああああああ!!」



 涙で視界が霞む。


 記憶が途切れ途切れとなり、今果たして自分は何をしているのか。


 こんな状態になってまで、生きる意味は、生きる価値はあるのかと、思わず自問自答してしまう。


 身も、心も、ボロボロ。



 それでも――身体は、止まってくれない。



(ぁ……ぅ……あ、と……何分……耐え、れば……)



 答えの分からないまま、俺の視界は()()、ほんの一瞬の安らぎを求め、黒く塗り潰されていった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





「……キッ!! ロキッ!!! しっかりしろっ!!!」



 聞き慣れた声。


 そしてずっと聞きたかった声に、混濁した意識が覚めるような感覚を覚える。


 ぼやけて狭くなったような、はっきりしない視界は地面を並行に見ており、目の前に数体の蟻が。


 そしてそのうちの一体が、もの凄い勢いで吹き飛ばされていく。


 悶絶したくなるほどの強烈な痛みが、すぐに俺が殴ったことを理解させてくれた。


「ロキッ!! 意識はあるのか!?」


「ぅ……ぁ……」


 返答をしながらも視線を向ければ、判別が難しいほどに酷い有様のリルがいた。


 鎧だけは変わらず光り輝いているが、真っ白だった肌の大半は(ただ)れ、綺麗な金髪も一部分が頭皮からごっそりと無くなってしまっている。



(そっか……リルは【酸耐性】なんて持っていないから……)



 それはそれで相当つらく、強烈な痛みを伴っていたのだろう。


 酸で焼かれた経験なんてないが、その全身に広がる爛れ具合を見れば、痛みに耐えながら必死に戦っていたことは想像に容易い。



 そして―――負けず劣らず、自分自身も酷い有様だ。



 もう俺は既に立っていない。


 足の感覚が無いので、立つことができなくなったとしか思えない。


 手は……右の手首から先が見当たらないし……


 それに口の中に何か違和感というか、硬い欠片とおかしな味がするので、たぶん無意識のうちに俺は蟻を食い千切ったのかなとも思う。



「と、とりあえず話は後だ! 行くぞ!」


「ど、こに……? あ……、近づい……たら……」



 やっぱりだ。


 駆け寄ってきたリルに対して、俺の左手が反応して攻撃をしてしまう。



「ぐっ!? ロキッ!! いったい何を……」


「ひぎぃいいいい……狂……乱……使っ……ご、め……」


「ッ!? す、済まない。私が遅れたばかりにこんな姿になるまで……無理やり拘束するぞ。今はここにいた方が危ない」



 この言葉を聞いて、勝手に藻掻く身体とは裏腹に、俺の心はやっと安心感に包まれたような気がした。


 リルがここにいるということは、俺が意識を手放している間にクイーンアントを倒してくれたということ。


 身動きが取れないよう強く抱き抱えられているため、残りの幼体がどれほど残っているかは分からないが――


 それでも、とりあえず命が繋がったことに心の底から安堵する。


「間に合えば良いが……」


「……」


「着いたぞ。先ほどのような攻撃ならコイツの止めも刺せるだろう。まだ死んでいなければな」


 そう言われてぼやける視線を向ければ、目の前にはリルの剣で突き刺され、地面へ張り付けにされた黄金色の蟻。


 クイーンアントの姿があった。


 背には羽も見えており、飛びまわりながらリルと戦っていた様子が窺える。


 そして俺の腕は、まるで生きていることを分かっているのか――


 勝手にクイーンアントの頭部を叩きつけていた。



「ひぐっうううう……ぅ……」



『レベルが43に上昇しました』


『レベルが44に上昇しました』



(始まった……)



『レベルが45に上昇しました』


『レベルが46に上昇しました』



 リルがこんな状況でも俺のことを考え、【手加減】を使ってくれたことに、また涙が出そうになってしまう。



『レベルが47に上昇しました』


『レベルが48に上昇しました』



「リ、ル……あり……と……ちゃ…と……止め……刺せ……よ……」



『レベルが49に上昇しました』


『レベルが50に上昇しました』



「そうか……これでロキの仕事は終わりだ。すぐに回復させてやりたいところだが、とりあえずはそのまま寝ていろ」



『レベルが51に上昇しました』


『レベルが52に上昇しました』



 素早く剣を回収し、「後片付けをしてくる」と言い残して俺の射程圏内から離脱を図るリル。



『レベルが53に上昇しました』


『レベルが54に上昇しました』



 それでも身体はリルを追いかけようと地面を這うが、俺は気にも留めず、ただただ痛みに耐えながら止まらないアナウンスを眺めていた。



『レベルが55に上昇しました』


『レベルが56に上昇しました』



 いや、頑張って見届けようとし、それでも意識を保つのが難しく―――



『【雷魔法】Lv1を取得しました』


『【雷魔法】Lv2を取得しました』



 ―――やっとスキルへ移ったことに()()()()()し、そして意識が遠のいていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん…
[気になる点] だよねぇ、流石に無理があるよねぇ、、自傷ダメがあるのに何百匹も倒せるわけないでしょうよ、、 主人公が数発で倒せる敵に戦の女神が手こずりすぎじゃない?剣圧で吹き飛ばすくらいはできそうだ…
[一言] うーん、なんかゲーム感覚取り戻す度に死にかけるループを繰り返しているような? 蘇生上等じゃないなら、何でもっと慎重にやらなかったんだろう。
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