後編
「大翔……」
何も答えない俺に、響は溜息をつく。
何かを諦めたかのような表情。
「もういいよ。大翔が何も答えないなら、それが答えなんでしょ?」
「えぇ?」
「分かったから……。僕、帰るね」
俺に背を向けて響は歩き出す。
何が分かったんだ? 響はなんの答えを出したのだろうか?
俺は気付いていなかった。だから、俺は響を追いかけた。
小柄な響に簡単に追いつく。それが気に食わなかったのか、響は速度を速める。
響の腕を掴んで止めさせようとする。
「おい。響」
「ついてこないでよっ」
響は俺の腕を振りほどこうとする。
「どうしてだ?」
俺はまだ気付かない。
響が考えていることを、心の傷を……。
「どうしてって?まだ気付かないの?」
響はピタッと足を止めた。止まった響の隣に俺も止まった。
ここは学校の、裏庭。なんでここに来たんだと一瞬疑問に思うが、すぐに忘れてしまった。
響が俺のほうに振り向く。──そして、響は俺の目を見て大きく言い放ったのだ。
「大翔のっどんかんっっ!!!」
さっきまで我慢していたとばかりに響な目から涙が滝のように流れていく。
怒っていた顔をしていたのに、今度は急に切なそうに俺を見つめる。
「僕はね。大翔と一緒にいたいの。でも、大翔が僕と一緒に気持ちじゃないなら、隣にいてほしくないの。──ねぇ?もう一度聞くよ?」
響は大きく深呼吸をして、俺に問いかける。
「大翔は、僕のこと、どう思ってるの?」
いつも響らしくない言葉を聞いて、俺はいあれっと思う。いつもの響だったら、
「ねぇ?大翔。僕のこと好き?」
って問いかけてくる。
そこで、俺は重大なことに気付いたのだ。
───俺は、自分から響にその気持ちを伝えていたのだろうか、と。
確かに、好きだったって言ったことはある。
でもいつも俺は、響に言ってほしいというときだけしか気持ちを伝えていなかった。
自分が言いたいときに自分から気持ちを伝えたことなんて、よく考えれば、ない。
もしかして、響は不安だったのだろうか?
俺からの気持ちを聞けなくて。俺からの言葉をほしがっていたのではないか。
本当に俺は鈍感だ。
響のことをちゃんと考えてあげられていなかった。
「響、好きだよ。好き、好きだよ。好きっ」
小さな子供が好きと言うように、何度も何度もその言葉を言った。
俺の頭に今まで言えなかった「好き」を沢山、響に伝えたくなった。
「好きだよ。響、愛してる」
「大翔……」
響は驚いたように、目を見開く。
「ごめん。響。いつも言えなくてごめん。好きだよ。愛してる」
「大翔ぉ……」
響は、俺の胸に飛び込んできた。
俺の胸の中にうずくまる響。
鼻ズズっとすすりながら、泣き続ける響。どんなに響を不安させていたんだろう。
「大翔ぉ……。あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
落ち着いてきたのか、響は顔をあげた。
「うん?」
優しく、問い返すと。
「今日は何の日か知ってる?」
今日?七夕の一日前だよなぁ……。
その他になんかあったけ?
分からないとばかり、考えている大翔を見て、響はクスリと笑った。
「正解は、付き合って一周年記念日でした」
「あぁ!!!」
すっかりというか、完全に忘れていた。
そうだ、去年の今日、俺は告白された。偶然か分からないが、場所も学校だった。
「大翔、やっぱり忘れていた。大翔の薄情者っ」
言葉と裏腹に、口調はとても嬉しそうなものだ。
「怒らないのか?」
恐る恐る聞いてみると、響は首をよくに振る。
「怒らないよ。だって今日は大翔から告白されたから」
「告白……」
確かに告白した。愛してるとまで言った。
恥ずかしいこの上ないが、響は嬉しいと笑っている。
幸せだ。
好きな人が今ここにいる。俺の胸の中に、いる。「好き」って言ってくれる。その分俺も「好きっ」て返して、自分から言葉にして伝えたいと思う。
そう、幸せに酔いしれたときだった。
ヒュ……──バンバンッッ!!!
花火が上がった。
ヤバいヤバい。俺の体は硬くなる。
怖い。
「うん?どうしたの大翔?」
硬直した俺を見た響は不思議そうに聞いてくる。
頑張って花火を怖いと見せないように、平静を装うっている、が。それは空しいものとなる。
ヒュ……──バンバンッッ!!!
二度目の花火が上がった時だ。
体が震えてしまった。その振動は響も伝わったらしく、驚いたという顔をしている。
だが、響は何も口にしなかった。
花火が怖いの?っと揶揄することなく、響は俺に力強く抱きしめる。
響は俺より子供っぽいっとずっと思っていた。仕草も言動も。でも、もしかしたら、響のほうが、俺より大人っぽいのかもしれない。
「あっ花火終わっちゃったね」
「あぁ」
あっという間に花火は終わった。だけど、空はまだまだ輝いていた。
「星、綺麗だね」
花火の後ろには星が輝いていた。
花火の華やかさはなくても、とても綺麗だ。静かな自然の星のほうが俺は好きだ。
実は、俺が花火の嫌いな理由は音なのだ。大きな音を聞くとピクッとしてしまう。でも、もう大丈夫。俺の好きな人はそれを見ても、なお俺を好きだと抱きしめてくれたのだから。
「そうだな」
「そこは、響のほうが綺麗でしょうて言うところでしょ?」
響は、ゆっくりと目を閉じた。
それにこたえるように、俺も目を閉じ、響の唇にそっと触れた。
真っ暗な裏庭。
星と月の微量の光。
まるで、俺達を祝福するかのように、
───二人を照らしていた。
こんにちは、彩瀬姫です。
今回の「響×大翔」シリーズはどうだったでしょうか?
忙しくて、なかなか更新できませんでした。
タイトルが七夕なのに、内容は七夕前日。しかも、実は、二人の1周年記念日でありました♪♪
タイトルを変えようかと思ったんですが、気に入ってるんでこのままにしておきます。
「響×大翔」シリーズ、初の連載。あまあまないつもの二人とはちょっと違う感じにしてみました。
気に入っていただけると嬉しいです。
来月も更新頑張ります♪
最後まで読んで頂き、有難うございました!!