中編
「う〜ん。何しよっかな?ねぇー大翔はどれがいいと思う?」
明日いけない代わりに、今はファミレスでごはん中。
響はいつもどのメニューがいいか、俺に聞く。
「それぐらい自分で決めろよ。小学生じゃあるまいし」
そうだよねっと響は頷き、メニューを見ながら指差す。
「……ははは。そうだよね。じゃあこれにしよう」
そういうぐらいなら早く決めればいいのにと思う。
メニューを言い終わって、待っている時間。
「大翔、なんか欲しいものない?」
「なんだよ、突然」
「何でもない」
さっきから、響の様子がおかしい。いつもの響なら、食いついてくるはずなのにあっさり引き下がる。
何か俺は悪いことを言っただろうか?
ついキツイ言い方になってしまうのは分かっている。それは響も分かっていて、だから俺達は恋人関係でいられる。
俺の不器用なところも、あまりに響を好きすぎて独占欲丸出しのところも、響は好きだと言ってくれる。
その言葉が何よりも嬉しくて、泣きそうになったことも幾度かあり。
───じゃあ俺は?響に好きって言ったことは?
ない、わけじゃない。好きって何度も言ったことがあるのに、なんでだろう。
何かが違う気がする。
その「何」かは分からないが。
俺は恋愛に不向きだ。いつの間にか響をしょんぼりとさせてしまう。
「後で、学校近くの公園に行かないか?」
俺は公園に誘う。7月は、蝉の鳴き声がよく響く公園。沢山の木に囲まれているところで、まるで森の中に公園があるようで。
蝉が煩いと評判で夏に来る人はあまりいないのだ。男同士だから外に出るとどうしても人目が気になるが、その場所では気にならない。
雰囲気という点では欠けているかもしれないが、俺達の唯一のデートスポットなのだ。
「えぇ?いいのぉっ」
「あぁ」
「わぁーーーい!!」
「しぃーーーーーーー!!」
「あぁっごめん」
響は慌てて自分の口を手でふさいだ。この会話は外でする会話じゃない。
もし誰か外で聞いてたら……。そういう心配が生まれるのだ。
でも逆にこれでいいこともある。
「なんか、いいよね。こういうの」
響がコソコソっと笑っている。
「あぁ。そうだな」
親密感がたまらなくいいのだ。二人だけしか知らない、秘密。
『俺達が恋人同士っていうこと』
言う気もないし、言いたくもない。この平和な温かい二人の世界にいたいんだ。
はしゃいでいる響を見て、そっと俺は笑った。
* * *
ご飯を食べた後、人影のない道を手をつないで公園まで歩いて行った。
夏だから手をつなぐと汗をかくのだけど、響のそれは嫌ではない。
「あぁ〜そろそろ夏休みだよ、ねぇねぇ、大翔。夏休みはどこに行きたい?」
「……そうだなぁ。静かなところがいいな、後涼しいところ」
「何か難しくない?」
「簡単なところと言えば、家しかないしな」
「う……ん」
どうも響の元気がない。
「どうしたんだ?具合でも悪い?」
「ううんっ。違うよっ」
「じゃあどうしたんだ?」
寂しそうに見上げてくる響。不安一色の目をしている。
「あ……えっとぉ…花火楽しみだなっと思って」
「えぇ?」
その言葉に俺は唖然とする。
「花火?」
「あれ?知らないの?今公園で花火上がってるんだよっ。大翔知らなかったんだ」
カチッ
何かが俺の中で固まった気がした。
───花火、はなび、ハナビ……。
恐怖心が蘇る。
「……ごめん。やっぱ公園はやめよう」
「えぇ…?」
「ごめん。今日は家に戻ろう」
響を引っ張って俺の家に向かわせようとするが、響はその場に立ったまま動こうとしない。
「……どうして?」
「………」
俺は口を閉じてしまう。
自分から誘っといて断るなんて、何やってるんだ俺はっ。俺は心の中で、怒りぶつける。
それと逆に、怖い怖いという恐怖心がやってくる。花火はどうして駄目なんだ。
長い沈黙を破ったのは響だった。
「……なんで、いつもそうなの?」
響は俺と繋いでいた手を離し、手を強く握りしめている。痛いんじゃないかと心配になるほど、強く。
響は泣いてるのだろうか?
下を向いていて表情が分からない。
でも、いつもと違う。そんな響の様子にただ俺は戸惑うことしかできなくて、次の言葉を待っていた。
「大翔は、いつもそうだよ。僕とデートしてくれない」
乾ききった声が聞こえる。
「今してるだろ?」
「いつも僕から誘うばっかじゃん」
「その…俺から誘うのは、恥ずかしくて」
恥ずかしいことを口にすることはできるのに、どうして花火が嫌いなことは言えないんだろう?
「じゃあ、どうしていつもデート断るの?」
「えぇ?」
「僕たち、付き合ってもう1年だよ?何回デートに行ったか知ってる?」
響の威圧感に押されて、必死に答える。
「えっと……」
家で過ごすことはあってもデートはあまりしたことがないような気がする。
ちゃんとした数なんて覚えてなくて…。
「いつも大翔が断るんだ。……正解は3回。でもね、ちゃんとしたデートなんて一度だってしたことないよっっ」
顔を上がった響は泣いてはいなかった。
響は怒っているのだ。
「大翔。僕は君にとって何?・・・友達?他人?それとも───」
残酷な言葉が響の口から吐き出される。
「いい加減にしろっ」って怒りを感じているはずなのに、なのに……どうしてだろう。複雑な感情が俺の中を動き回る。これは一体何だろう?
───俺は響が好きで、ただずっと隣にいたかった。それなのに俺は、響の気持ちがよく分からない。喜ばせたい、悲しませたくないと思って、いろいろ考えるのにいつもうまくいかない。
響は言葉にしてくれると嬉しいというけど、やっぱりどこか傷つけてしまいそうで、躊躇ってしまうところがある。
俺は何かが欠けているのだろうか?俺はどうすればいいのだろうか?
響に視線を向けると今度はなぜか笑っていた。
なんだろう。この胸の痛みは、いつも響の隣にいると苦しくなる、それとは違う。
嫉妬……違う。苦しみ……違う。
じゃあこの気持ちは何?
俺はまだその答えを出せずにいた。
「ねぇ……大翔、応えてよ……」
俺は一体どうしたんだろう。どうすれば、この複雑な気持ちは治まるのだろう。
こんにちは、彩瀬姫です。
更新停滞中です。すみません。
後編はできるだけ早めに更新したいと思いますっ。