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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編・ショートショート

「ドラフト1位も終わりだな!」とVRで戦力外通告を食らった俺は、監督となった第2の人生で、選手再生の神となる! ~やりたい事で挫折した奴は俺ンとこへ来い! 出来る事で大逆転させてやる!!~

作者: ドラフター

「俺ァ残念だぜ、トーシロさんよ!」


 シーズン最終戦の消化試合が終わったとき、クビを悲しんでくれたのは敵チームの魚人だけだった。


「あんたを倒しゃあ、ドラフト1位を撃破って箔がつくもんな! せいぜいBランクのドラ1でもよ!」

「うるせえ、ザコ昆布」

「ジェイコブだっての、トーシロさ~ん!」

「そっちこそVRネーム見ろ、トシローだ馬鹿」


 やれやれ、言い争いは同じレベルでしか発生しない……だったか?

 こんなザコにすら勝てない情けなさで、目から滝汗がこぼれそうだぜ。


 スタメンの4人に入れないのは、シーズン前から覚悟していた。だが、負けが込んできてからのお情け交代でもズタボロ。挙げ句、ザコの率いる2軍にすら歯が立たなかったとか、紛う事なきクソ選手だ。戦力外通告も当然だな。


 かくして、ドラフト1位指名によって華々しく始まった29才の1年は、ぐっちゃぐちゃに踏み荒らされたドロ雪よりも惨めに終わりを告げた。






「――で、ウチみたいな弱小チームまで声を掛けて来た、と」

「そうだ」


 俺は、「敬語は要らないよ。僕も苦手だし」と言ってきた『みのりーズ』のオーナー(25才)に、深々と頭を下げた。


「頼む! 俺を使ってくれ!」

「ん~、ドラフト1位さんは、今まで大手にも売り込みを掛けたハズだよね?」 

「ああ……正直、全滅だった」


 VR球技、『マホロバ・ルーン』。億単位の金がポンポン飛び交う、今や花形のeスポーツだ。

 もっとも、Sランクに輝くのはごく一部で、頂点の下には、膨大な数の底辺が存在する。


「ふーん、意外だね。1位さんのことは、僕でもプロ化前から知ってたのにさ。『マスター・オブ・アバター』って呼ばれてたよね」

「あ……ああ」


 もはや意味のない称号を持ち出され、曖昧に笑ってみせた。


 俺は、ゲームに出てくる30種族全てのアバターを自在に使える、「マスター・オブ・アバター」だった。倒されたら即座にアバターを変えて撃破し返すスタイルで、勝率は安定して上位をキープしていた。


 ――忌まわしい改正があるまではな。


「トシローは不運だったよね。まさか、指名されたあとにルール変更があるとかさ」

「いや……。結局は、俺が至らなかっただけだ」


 そう。運営側による、ほんの些細な改正だった。



『プロスポーツ化したら、選手交代がありになったじゃん』

『そだねー』

『なのに、1人ずつのアバターまで変わったら、観客は分かりづらいよね』

『あ、本当だー。んじゃ、1ゲームにつき、アバターは1人1体ってコトで、ヨロシクー』



 黎明期特有の、ありがちなグダグダ変更だ。

 フラットに見れば、まあ、納得できる。


 一部の人間にはブッ刺さったが。


「俺は、どのアバターもBランク止まりだった。そんだけさ」


 アバターを変えて反撃する戦法が、見事に潰された。

 あとに残ったのは、平凡なアバターを1体しか使えない、お荷物ランキングぶっちぎりの1位だ。


「この通りだ、頼む!」


 俺は勢いよく土下座した。


「出オチでも、一撃枠でも構わねえ! 何でもする!」

「そう? じゃあまず、顔を上げて」


 おずおずと指示に従うと、オーナーはイタズラ小僧のような笑みを浮かべていた。


「トシローさあ、監督やらない?」




「はっ?」




 ドロ雪で終わった男の、30才。

 長い長い、第2の人生が始まった。







「佐井 藤四郎だ」

「あ、トーシロ」

「VRネームはトシローだぜ、兎少女の『ミミック』」

「分かってるわ、トーシロ」


 俺は、クソデカため息とともにハンドルを切った。――ったく、みのりーズの「現・稼ぎ頭」と、現実での初顔合わせがコレかよ。おまけに、今どき自動運転ナシの自動車とはな。はあ~、ヤダヤダ、弱小チームは。


 ミミックこと渥美未来(17才)は、俺の華麗なるドライブテクを無視して、端末のARゲームにご執心のようだった。「あはっ、面白~い」とか抜かしてやがるが、運転手の俺はカケラも面白くない。腹いせに、少々荒っぽい運転(当社比)に切り替えるも、まったく意に介さず。


「トーシロはさあ」


 む、ミラー越しに上目遣い。流石にご立腹か。


「監督になって、どうするツモリ?」


 違った、ケロッとしてやがる。


「さーてな、お前に蛙アバターでもやらせるか」

「イヤよ。私は兎でピョンピョンやるのが楽しいもの」

「はっ。井の中のなんちゃらが、ワガママし放題ってか?」

「何とでも言って。だって、マシな宝石はみーんなヨソ行っちゃって、残ったのは私みたいな石コロ4つよ? あなたが指導した所でたかが知れてるし、それなら好き勝手やるわ」


 ん? ――石コロ?


「ミミックは、強くなりてえか」

「当たり前でしょ? マイナーリーグから抜け出したいわよ。バイト行かなくて済むし……あ、ここがそうよ。んじゃね」


 未来は、さっさとファミレスに消えていった。





 ふーん、やる気はあるんだな。

 ――良かった、究極の石っころだ。





「ねえ、トーシロ! なんで私が岩アバターなの!?」

「監督命令だぜ?」

「そういう大人はキライ!」

「1万出す」

「やる」


 ハハッ、かわいいクソガキだ。


 俺も岩アバターに入り、『マホロバ・ルーン』を1対1でやってみた。


 試しに10戦した結果。


「あはっ、トーシロ弱~い!」

「そうだな」


 全敗した俺は、普段使っている吸血鬼アバターに戻った。


「ミミック。お前、岩に入っても『ずっと見てる』だろ」

「ブー、岩には目がありませーん」

「おいおい、茶化すなよ。見えてる感覚はあるだろ?」

「ええ、それが何?」

「――吐き気はないか」

「へ? 何で?」


 キョトンとした様子の岩。

 俺は苦笑しながら、ペチペチ叩いてやった。


「岩ならトップ取れるぜ、お前。メインアバターを変えろ」

「はぁ!? 何かの冗談でしょ!?」


 俺は人差し指を立てた。


「1000万出す」

「やる!」


 現金な娘だ。


 ちなみに、俺の見る目が確かなら、来年はおそらくケタが変わる。VRをやる全員が真価に気付くからな。


 ――この才能が、埋もれなくて良かったぜ。


 酔わない岩とか、最強候補だ。




 その後、チーム残留組の適性を、改めて調査した。


「狼少年は、目がいいし周りも見えてる。なのに、なんで向いてない狼なんぞやってる? 格闘出来ねえのに前に出るな、羊でキャンセラーをやれ。敵の思惑をツブすんだよ。――は? 弱そう? いいや、敵の心をバッキバキに折るのが羊だぜ? 可愛いナリしてイヤらしさは最強なんだ。お前を見るだけで泣きそうになる顔は、必見だぞ?」

「イノシシ令嬢も前に出すぎだな。――ああ、やりたいコトはアタッカーだろ? だが、お前はむしろサポーター向きだ。好きかどうかじゃなくて、気質なんだろうな。お前が後ろにいるとき、チームメンバーの死亡回数が少ねえ。先回りして補助呪文を撃てるからだよ、色々気付いちまうお前がな」

「虎男は、火力のコントロールがまるで駄目? マックス火力だと味方も殺すからチビチビ撃つ? バカヤロウ、強みを消すな。撃てば必殺なんだろ? なら、ガンガン撃てよ。なーに、味方の3人を焼いても、敵を4人焼きゃあ立ってるのはお前だけだ。いいか? 敵の多い所に迷わずブチ込め」


 ちなみに、足切りの基準は、「俺と同アバターで戦って勝てるかどうか」だ。

 ドラフト1位の悪名は知れ渡っているらしく、100の言葉よりも雄弁に「お前はそのアバター向いてねえよ。変えろカス」とトドメを刺してくれた。




 ある日のチーム練習で、オーナーがエルフのアバターで入ってきた。


「トシローのおかげで、戦力が大幅アップしたね」

「おう。どいつもこいつも、自分のことは見えねえもんさ。――俺も含めてな」


 選手としての生き方に固執していた。どれだけ無様でもいいから、もう一度選手として生きたい、せめてザコぐらいには勝ちたいと、追い詰められていた。


「俺が監督向きだと、オーナーはいつ気付いた?」

「トシローの戦法を知った瞬間かな」

「早ぇよ」

「だって、君のBランクな腕でも、上手く弱点をつけば勝率が上位なんだもの。まして、ルール改正の煽りを食っただけで、戦法が破られた訳じゃないでしょ? なら、僕の代わりに君をブレーンに据えちゃえば、もっと勝てるよ」

「なるほど、慧眼だ」


 俺は頭を下げた。


「さすが、若くしてオーナーをやれるだけはあるな。財産を築けたのは、やっぱ目端が利いたからか?」

「ううん。遺産が入っただけ」


 俺たちは笑った。






 マイナーリーグのシーズン初戦は、どこかで見たザコチームだった。


「ハッハー! トーシロ様はいい選手だな! 俺らに勝ち星をくれるってよー!」


 ああ、大手チームは2分割したんだっけな。マイナー側のお前らは、お山の大将を気取ってるのか。――魚人のクセに。


「おい、ザコ。スタメンは向こうにいる岩どもだ。俺はベンチだよ」

「ぶはっ! 何を自慢げに言ってやがんだ、1位! みのりーズの残りカスにも負けてる宣言とか、よく恥ずかしくねえな!?」

「ほお。そんなら、お前は勝てるのか?」

「たりめーだ! 俺はアバターを最大限に活かしてる、史上最強のプロだからよお! トーシロ様とは違ってな!!」

「ふーん」


 素晴らしい前振りだったぜ、ザコ昆布。



 そして、試合という名の一方的な蹂躙が始まった。



『おい! なんで岩が酔わねえんだよ!?』

『岩ごと焼いてきてるぞ、あの虎!』

『虎を撃ち殺せよ!』

『ダメだ、羊にキャンセルされる!』

『じゃあラム肉にしちまえ!』

『くそっ、猪のカバーが上手い!』

『なら牡丹肉だ!』

『うっせぇ、ザコ! あいつはソコソコ強ぇんだよ!!』


 向こうに点を取らせないまま、ミミックがゴロゴロとキル数を積み上げていく。実は、兎時代のミミックは格闘に難ありだったのだが、岩になればそんなデメリットともおさらばだ。体長80cmのローリングストーンは標的にしづらく、仮に攻撃が当たっても大して傷つかない。唯一にして最大の弱点は、「回転移動でド派手に酔う」ことだったが、「酔わないミミック」なら問題なしだ。


「おっと、倒された」


 ゲーム中盤、ミミックへの集中砲火が炸裂した。もっとも、無理が祟ったのか、ザコどもは疲労困憊だ。


 ――頃合いか。


「はあ……はあ……岩はリスポーンしてから来るまで時間かかるからな、これで休憩……はぁ!?」

「よお、ザコども」


 素早く近づき、影から出て一撃。おお、影人の不意打ちはヤッパリ効くな。


「俺たちの勝ちだ」

「トーシロ!? テ、テメェの実力じゃねえだろ! 他の奴らが強ぇから……!」


 ザシュッ!


「がはっ……!」

「褒めてくれてありがとよ。兼任監督として礼を言うぜ」


 選手枠を、実力あるアバターで埋めるにはカネが足りない。

 なので、最低限の穴は俺が埋める。


『ミミック、次のリスポーンからはまたお前だ』

『オッケー!』


 3人屠ったのちに俺は殺された。1対3なら上出来だ。

 これでザコどもは、俺をムダに警戒しつつ、ミミックに再びやられるだろう。


 ベンチでオーナーが笑っていた。


「トシローのスポット参戦は、本当にエグいね」

「『代打、俺』とか大好きでな。ついやっちまう」


 もちろん、効果的だからこそだ。ごく短期間の運用なら、タイミング次第で俺も活躍できる。


 ――アバターを全然活かせないドラフト1位? ああ、その通りだよ、ザコ昆布。


 だがな……そんな「Bランクの30アバター」っつー手札を、何とか駆使して勝ち抜いてきたんだ。


 その実績が、監督いまの俺を支えてる。


「ま、うちの面々は、Bより遥かに強ぇがな」

「なに、トシロー?」

「いやあ、今のは放置でも勝てただろって話さ」


 俺たちが駄弁ってる間も、スタメン4人は伸び伸びと実力を発揮していた。


「ところで、みのり。お前、いいかげん新車を買えよ。そんぐらいのカネはあるだろ」

「えー? まだ使えるじゃん。それに、第2の岩も探せるし」


 もはや、特等席の観客である。


 試合終了のブザーが鳴った。


「イエーイ! 私たちの大勝利ー!!」


 ミミックたち4人が、フィールドで大はしゃぎしていた。




 前シーズンとは見違えるような動きの若い選手たちを、当然マスコミ連中も放っておくハズがない。ヒーローインタビューでのミミックは、とりわけヤバい量の記者に囲まれていた。――引き抜き対策の契約入れといて良かったぜ。


「佐井監督!」


 おっと、俺の番が回ってきた。


「大勝利、おめでとうございます!」

「うるせえよ、たかだかマイナーリーグの1勝だろ? こんなに囲みやがって、ドラ1の会見以来だよ」


 観客が大笑いしてやがる。へっ、4人はちょいとユーモアが欠けてたからな。見出し用のエンタメは大事だぜ?


 その後、選手の育成についてインタビューされたので、強みを見出したことで勝てたと答えたら、思いのほか食いつかれた。


「なるほど、強みが大事なんですね! それでは監督、現在の『マホロバ・ルーン』で、1番強みを活かしてる選手はどなただと思われますか?」

「ん? ――ああ、それならジェイコブだな」


 俺は、魚人のザコを思い浮かべてニヤリとした。


「なにせあいつは、アバターを最大限に活かしてる、史上最強のプロだからよお……って、試合前に自分で言ってたぜ」


 マイナーリーグの会場は、たちまち爆笑の渦に包まれた。――へっ、ダシにしたら最高のネタになりやがって。ありがとよ、魚人。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あんまりザマァは好きでは無いのですが、この話は納得のいく展開で、上手に作り込まれていて非常に面白かったです。 [一言] キーワードを見て再び笑わせて頂きました。
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