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プロローグ
「……ぃ……だ……ぶか!? 」
自分を揺すっている声に、やっと意識が深い暗闇の底から戻って来るのを感じる。
俺は……いったい……何を……。
「おい! おい! 生きてるのか!? 」
再び暗闇の底に落ちそうになった意識を、またその声が呼び覚まそうとする。
もう勘弁してくれ……俺はもう眠いんだ……。
「起きろ! 起きろ! 起きてくれってば! 」
彼女が泣いている……。
彼女が泣いているのだけは許せない。
いったい誰が……?
「良かった……。」
やっと目を開けた俺を、彼女が見つめていた。
ふと横を見れば、周りは火の海になっている。
「に……逃げろ……いま……すぐ……。」
声を上げようと思ったが、焼けた喉からは、途切れ途切れの音を出すのがやっとだった。
「あたしが必ず助けるから……」
そう言って、彼女は俺の身体を引きずりだす。
もう間に合わない。二人とも火に巻かれる……。
ごうと巻いた炎の旋風が、彼女の赤い髪を焦がす瞬間を見せつけられてから、やっと俺はいつもの悪夢から覚める事が出来た。