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一章-1 闇の邂逅

 カルティノ王国、王都。


 3、4階建ての石造りの建物が建ち並ぶその間、幅2mも無いような、複雑に入り組んだ路地もとい隙間を迷わないように奥まで進んでいくと、昼でも光の入らない、どんよりとした世界がある。

 かつての工業地区の、捨てられた工場群だ。

 衛生環境も悪く、ハイエナのような目をしてボロ服を着た痩せぎすの人々があちらそちらに座り込んでいる。


 どの国、どの街にもあるような、溢れ者たちの居場所。表の世界の住人たちはそれらを嫌い、それらもまた、表の煌びやかな世界とは関わりを持たない。その世界の中で、弱肉強食を繰り返す。


 そこでどうやって生きていくかは、己の才覚と度量にかかっている。誰が死んでいようが、気にも留めない世界だ。

 そのため、それらの中でも哀れなものたちは、


「……お」

「……上物じゃねえか」


 時折迷い込んでくる、愚かで非力な『表の住人』を殺し、略奪して生きるのだ。弱い者は喰われる、物心ついた時からそういう世界にあるのだから。


「お嬢ちゃんよ、ここが何処だか分かってんだろうなぁ?」

「ホラ、動くなよ。暴れたら面倒じゃねえか」

「膝つけや、オイ」


 ナイフをチラつかせ、女に服従を促す。今まで何度もやってきたことだ。

 そうしていつものように、心ゆくまで痛めつけてから殺すのだ。が、


「……膝つけや」


「…………膝つけっつってんだろ!!」

「聞こえねぇのか、この野──」


 一向に従わない女に苛立ち、金髪の男が怒鳴り上げながら無造作に蹴りを入れようとしたその瞬間、


「───────」


 一瞬の閃光が、金髪の身体を揺らした。何が起こったか分からぬまま、無言で、男は呆気なくうつ伏せに倒れる。


「…………おい、ウィーダ!? どうし───」


 咄嗟に我に返り、もう1人の赤髪の男が倒れた仲間に駆け寄る。しかし、彼の言葉も続かない。


「──────ご」


 丁度その男の肘から先くらいの長さの刃が、彼の喉仏のあたりを深く穿っていたからだ。女が刃を引き寄せると、赤髪もまた同じように血を流して、同じような傷から魂を奪われた同胞に重なって倒れる。出血は著しく、恐らく頸動脈まで断ち切られているだろう。傷口の美しさが、如何に男たちが無謀な戦いを挑んでいたのかを物語っていた。


 そのまま音もなく息絶えた2人を後目に、


「───はぁ」


 女は軽く溜息を1つだけ吐き、刃の血を拭ってさっさと薄暗い路地をさらに奥へ進んでいった。










 廃工場群には、大きく分けて2種類の人々がいる。生まれた時からそこで育ったものと、表の世界から転がり落ちてきた者と。

 大半は前者だが、その前者たちの洗礼を掻い潜ってその場所に棲みついたワケありな後者たちも少数存在するのも事実だ。



「……ケウル・ドレッガーだな」

「……何か用か」


 突然名前を呼ばれた剛健な体の老人は、目を開けしかし視線は下に向けたまま、無愛想な返事でその声に応じた。


「6年前のケヴェン紛争を知っているな」

「…………儂をその名で呼んだということは、その事だろうな」

「──そうだ」


 女は息を詰め、殊更に低い口調で問いかける。


「レイオールは、何処にいる?」

「……そう聞かれて、儂が答えると思うかね」

「貴様は答える。そのために私が来たんだ」


 老人は視界の端で女をチラと捉えると、1つ、深く溜息を吐いた。


「成程。───どうやら経典を見つけたか」


 老人はどこか諦めたような微笑を浮かべ、茣蓙の上に腰を据え直す。女は黙ったまま、老人がゆっくりと語り始めるのを聞いていた。





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