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レオルドはジェックスと共に屋敷へと戻り、ギルバートとイザベルに報告する。ジェックスが仲間になったことを。二人の反応はどこか諦めたかのようにため息を吐いていたが、納得してくれたようだった。
「しかし、餓狼の牙を配下に加えたとなっては他の者が黙っていないでしょう。そこのところは何かお考えがあるのですか?」
「うむ。そこに関しては文句を言ってきそうな貴族に絞って情報収集だ。幸い、餓狼の牙が襲った相手は把握しているから、そいつら中心に集める。餓狼の牙とギルで協力してもらおうと思っている」
「ふむ。私ですか。隠密行動に優れている者はいるのでしょうか?」
「それに関しては問題ない。ジェックスから聞いたがカレンという少女がお前と同じスキルの持ち主だそうだ」
「ほほう。それは僥倖です。少々、教育することは可能ですか?」
「構わないか、ジェックス?」
「それは本人に聞いて欲しい。連れてこようか?」
「ああ、そうしてくれ」
しばらくして、ジェックスがカレンを引き連れてくる。カレンの方はなぜ呼ばれたのかわからない顔をしており、不思議そうにジェックスと周囲の顔を見回していた。
「ふむ、なるほど。失礼ですが年齢は?」
ギルバートはジェックスが連れてきたカレンを見て、手に顎を乗せて思案した後に年齢を訊いた。
「え? 年齢ですか?」
「ええ。教えてほしいのです」
「えっと……十五になったばかりです」
「ふむ……戦闘の経験は?」
「ナイフを使った戦闘なら多少は……」
「ほう。体は柔らかいほうでしょうか。たとえば、このようなことは出来ますか?」
質問を重ねていたギルバートが体の柔らかさを実演するようにY字バランスを見せる。それを見たカレンは目を丸くして驚いたが、自分も出来ると真似してみせた。
「素晴らしい。柔軟な体にブレることのない体幹。坊ちゃま、彼女は素晴らしい暗殺者になれるでしょう」
「いや、諜報員がほしいんだが……」
「これは失礼しました。つい、昔を思い出してしまいました」
「あ〜、おほん。カレン。君にはジェックスの部下として諜報員になってもらいたい。そこで、ここにいるギルに手ほどきを受けてもらいたい。ただ、ギルの教育は少々厳しい。嫌なら断ってくれても構わない」
レオルドの説明を聞いてカレンは頭を悩ませる。断るのは簡単だが、ジェックスの部下として働かなければ子供達の生活が脅かされるかもしれないとレオルドを疑っていた。
ならば、ここは断るわけにはいかない。自分が我慢することで子供達を守れるなら安いものだと笑った。
「はい。精一杯がんばります!」
「そうか! まあ、無理せず頑張ってくれ」
これで一人目の諜報員を手に入れたレオルドは、次にやるべきことはジェックスについてだ。ジェックスは諜報部隊のまとめ役にはするが、本人は戦闘がメインである。だから、戦力強化のためにジェックスを鍛えることにした。
「ジェックス。お前はこれから毎日俺、ギル、バルバロトの三人が行っている鍛錬に加われ」
「ああ。わかった」
この時のジェックスはあまり深く考えていなかった。この三人が毎日どのような鍛錬をしているかを知れば顔を青くするに違いないだろう。
おお、ジェックスよ。どうか、根気強く耐えてくれ。
これで餓狼の牙については片付いたと思ったが、まだ問題が残っている。それは子供達をどうするかだ。ゼアトにも沢山の子供はいるが、孤児はいない。だから、餓狼の牙が保護している孤児をどうするかをレオルドは考えなければならない。
(孤児院を建てるべきか? あのシスター服を着てた人に管理を任せれば大丈夫か?
でも、将来的には子供にも働いてもらいたいから教育が必要だな……
学校を建設するべきか? そうすれば、孤児だけじゃなく他の子供も教育受けられるし。場所はあるし、資金も定期的に転移魔法の利益が入ってきてるから十分だ。
この辺は文官と相談して決めるか。俺一人じゃ限界あるしな)
ある程度、方針が固まったのでレオルドは各自業務に戻らせてジェックスとカレンを連れて文官たちの元へと向かう。
「あ、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。とりあえず、ジェックス、カレンはこっちに来てくれ」
「あ、ああ」
レオルドは自分の机に座ると、ジェックスと結んだ条件に基づいて契約書を作成する。完成した契約書をジェックスに渡して、レオルドが説明をする。
「それはお前の契約書だ。一通り内容に目を通してサインをしろ」
それだけ教えるとレオルドは溜まっていた書類を片付けていく。その間にジェックスとカレンはレオルドに渡された契約書に目を通す。読み進める内にジェックスとカレンの表情が変わっていく。
読み終えた頃にはジェックスとカレンの顔には驚きの表情が浮かんでいた。
「こ、これ、本当なのか?」
驚きに震えるジェックスは契約書に指を差しながらレオルドに確認を取る。レオルドは書類仕事をしながらもジェックスに横目を向けて答える。
「ああ。その内容で間違いない。お前が俺を裏切らなければ俺も裏切ることはしない」
レオルドが契約書に書いた内容は餓狼の牙が保護した人達の安全保障などについてだ。細かい部分は省くがジェックスがレオルドの配下である限り、彼らはゼアトで自由に生きられるということだ。
「本当にいいのか? お前には面倒を掛けることになるけど……?」
「ふっ……言ったはずだ。お前を配下に迎えることが出来るなら、その程度どうということはない。まあ、嫌なら国に突き出すだけだがな!」
脅し文句を言っているがレオルドの顔は笑顔である。ジェックスが断ることはないと信じているからだ。ジェックスはそんなレオルドを見て力なく笑った。これは勝てないわけだと。
そして、ジェックスは契約書にサインをして正式にレオルドの配下に加わったのだった。





