無間城の戦い 3
俺達の推測通り丁度真ん中辺りに下へと降りる為の階段が用意されていたのだが、何というか道のど真ん中に突然現れたその階段に違和感しか抱かないが、この街が元々在ったモノだという事を考慮すると仕方が無いことなのかも知れない。
父さんに連絡を飛ばすと父さんの部下はこの最上階には敵性勢力は居ないと判断したらしく、ものの十分ほどで駆けつけてくれた。
父さんを中心に軍が先導してくれたのだが、案の定レクターと海はそのまま一緒に最前線へと向って歩いて行く。
なんだか申し訳ない気持ちだが、俺達はこの後の戦いがあると思えば迂闊に戦いに参加することも出来ない。
俺達に欠員は存在しないのだから当然と言えば当然なんだが、それでも他の人達をこき使っているという現状に対して罪悪感を覚えている。
すると最前線から何かしらの攻撃音が響いてくると、俺はそっと背伸びをして向こう側を確認してみようとする。
やはりこの建物自体がエコーロケーションによる反響を阻害しているような気がするので上手く向こう側が分からない。
無論広い空間ぐらいなら分かるのだが、曲がりくねっている廊下のような場所では全く先が分からないほどだ。
「先頭の方で戦いが始ったか…ここからだと何も出来ないからもどかしいな。俺達の出番が後と言うことは分かっているけど」
「任せられるときは任せておけば良いさ。いざとなったときに手伝ったからなんて言い訳されても彼等も困るだろう。言い訳するなってな」
「時には良い事を言うのですね。ジャック・アールグレイでも。私達の出番は後である以上彼等に心配を掛けないようにするのが私達の役目でしょう。ここで下手に出て行って後の行動に差し支えたらそれこそ彼等に申し訳無い。私達に万全の状態でいて欲しいと願っている彼等に」
理屈としては分かっているつもりでも、それでもやはりふとした瞬間に考えてしまうもので、罪悪感が勝っている感じだ。
我ながら難儀な性格をしていると思うが、隣を歩いているジュリが「駄目だよ」と訴えてくるので素直に諦める。
結構降りてきた気がしたが、前の方から何か言っているような気がして聞き耳を立ててみるが、それ以外の音が聞えてくるので上手いこと聞き取れない。
すると大きめの門を潜って辿り着いた場所は結構広く出来ている庭園と言っても良い場所であり、こんな室内だというのに色々な花や木々が植えられているのは少し不思議だった。
結構明るいのは天井にくっつているシャンデリアみたいな奴の所為なのだろうが、あれってシャンデリアじゃ無いよな?
触れて触ってみたいが、壊してしまっては元も子もないので誰も確かめようとしない。
そう思っているとジャック・アールグレイが「勇敢だな」と発言するので俺は不思議に思ってジャック・アールグレイのいる方向へと向って首を向ける。
すると、そこにはシャンデリアみたいな何かに触れようとしているレクターを発見した俺、瞬間移動の様な速度で駆け寄っていき何の躊躇も無くレクターの脇腹目掛けて俺の鋭い跳び蹴りが食い込んでいき、レクターが「ゲボラ!?」という謎の奇声と共に吹っ飛んでいく。
「お前はそうやって直ぐにトラブルを起こそうと試みる! 勝手に触れるな! 勝手に触るな! 勝手に行動するな!」
「お前は元気だな。そうやって暴れ回っていると疲れないか?」
「だったら行動しているところを見た所で止めろよ! 疲れるって分かっているなら」
「そこで何を元気一杯なことをして居るんだ? そろそろレクターと海も出発するぞ。まずはこの四つの分かれ道と下へと続いて居る階段を探る。それ次第で次に向かう先が決る」
「私達はどうしていれば?」
「君達は此所にいろ。分かり次第四人は突入して貰う。ソラは下への調査次第で行動するかどうかが決るから勝手に動き回るなよ。少し時間は掛かるが、別働隊が先ほど不時着できたという話だ。それもここに到着次第行動開始だ。そっちは研究職の人間も多少は参加するらしいからそのつもりでな」
「こういう所を見ていると軍人なのだと実感するな。普段馬鹿をしているからギャップが凄いが…」
「ジャック・アールグレイは少し失礼ではありませんか? 言っても良い真実と悪い真実がありますよ」
「ケビンさんも少々失礼だと思いますが…」
「お前達少し大人しく出来ないのか? アベル・ウルベクトが睨み付けているぞ」
「いいからさっさと行く! ほらほら」
俺が手をパンパンと戦いで父さんを促すと、父さんはレクターの右足を掴んで海を引き連れて下の階へと降りていく。
降りる際にレクターの顔面に階段の段差が次々とヒットしていくのを俺達は遠目に確認しているだけだった。
するとジュリだけが何かをせっせと動いており、何をしているかと思って接近していくとジュリは「テント作り」だと言い出した。
「この後此所に研究職の人が直ぐにやってくるからその拠点以外に怪我人の治療用のね。それ以外にも色々と在ると助かるから。簡易性のテントだけど」
「手伝おうか? どうせ暇だし」
「ホント? じゃあ頼もうかな」
ジュリからテントを一つ預かって組み立てていくと、ケビンやアンヌも自然と俺とジュリのテント作りを手伝ってくれるようになり、ギルフォードもなんだかんだ言って手伝ってくれたが、ジャック・アールグレイだけはついぞ手伝う気は無かった。
まあ分かっていたので敢えて誰も批判したりはしない。
「研究職の人間が来るんだな。空気を読んで来ないのかと思った」
「それがやっぱり中を攻略する以上はある程度の調べは必要だがら、最低限の調べ程度にはって許可が下りたんだって。我儘を言わないことと空気を読むことを前提にだけど」
「空気…読んでくれると良いですよね。ああいう人達って基本あまり空気を読まないと聞きますが」
「それは偏見では? 流石に世界の命運が掛かっている戦いに私用で動くとは思えませんが…」
「どうだろうな。研究職の人間は基本自分の興味対象であればあまり命とか省みない方だと思うがな」
そんな会話をする事十分ほどでテントを複数作る事に成功したところで出入り口から次の別働隊がやって来た。
軍の代表が俺達へと接近していき敬礼してくれた。
「別働隊です! 現時刻をもって到着しました」
「お疲れ様です。先ほど奥の方へと調査に向いました。到着次第向って欲しいとの事です」
「了解しました! 研究職の人間の半分は着いてこい!」
研究職っぽい人達が半分ほど着いていくのが見て取れたわけだが、俺達としては素直に向って貰うしか無いので黙って見送る。
するとジュリが大きめの鞄を持ってテントの中へと入って行くのが分かったので俺も着いていき、何を取り出すのかと思って見守っていると、ジュリは中から薬などの治療キットなどを次々と取り出していく。
するとジュリの手が言ったんと待った。
どうしたんだと思って見下ろしていると、中ではアカシが俺達を見ていた。
「……………」
「……………………」
「…………………………なんで居るんだ?」
「僕…暇」
病院でゆっくりしているはずのアカシが何故ここに居るのか、それがまるで理解出来ないまま俺とジュリは思考回路を一旦停止してしまった。
本当にどうしてここに居るんだ?
「僕ずっと暇を持て余していたんだもん。大きくなれないから戦いに参加も出来ないし」
「だからって…ブライトやアクアが心配して居るんじゃ無いのか? と言うかどうやって紛れ込んだ?」
「僕は守護竜だもん」
「理由にはならないな。守護竜がそんな事出来るという真実に驚くだけだぞ」
アカシは「暇」と言って俺の服にくっついてきた。




